見積書の労務費を、お客様に見せられますか
2025年12月に、改正建設業法が全面施行されました。その柱の一つが「労務費の基準」です。職人の賃金にあたる労務費について、国が適正な水準の目安を示し、それを著しく下回るような契約を防ごうという仕組みです。国土交通省は、施行を前に全国10のブロックで説明会を開き、この基準の周知を図ってきました。
この話は、公共工事やゼネコンの話として受け止められがちです。けれど私は、地域で注文住宅を建てている工務店にこそ、正面から向き合ってほしいテーマだと考えています。見積書の中の労務費を、お客様に胸を張って見せられるかどうか。そこに、これからの工務店の姿勢が表れると思っているからです。

「一式」の中に、職人の暮らしが埋もれている
住宅の見積書を見ると、工事の多くが「◯◯工事一式」とまとめられていることが少なくありません。材料費と労務費が混ざったまま、一つの金額として示されている。お客様の側から見れば、その中で職人にどれだけのお金が渡っているのかは、まったく分かりません。
コミュニティビルダー協会の活動で工務店の方と話していると、「値上げをお願いしたいけれど、お客様にどう説明していいか分からない」という声をよく聞きます。資材の値上がりは、ニュースで報じられることも多いので、お客様にも比較的伝わりやすい。けれど、職人の手間賃が上がっていることは、なかなか伝わりません。結果として、資材の値上がり分だけを価格に反映し、労務費は据え置いたまま、という会社も多いのではないでしょうか。
そのしわ寄せは、最終的に職人に向かいます。手間賃が上がらなければ、若い人は入ってきません。腕のいい職人ほど、条件のいい現場へ移っていきます。私は、労務費を「一式」の中に埋もれさせたままにしておくことが、地域の職人を少しずつ減らしてきた原因の一つではないかと感じています。
今回の改正は、その流れを変えるための仕組みだと私は受け止めています。労務費の基準を示すことで、職人の賃金を「削っていいコスト」ではなく、「守るべきもの」として位置づけ直そうとしているのだと思います。
見せることは、値上げの言い訳ではない
一方で、労務費を見積書に分けて示すことに、ためらいを感じる経営者もいると思います。「内訳を見せたら、かえって値切られるのではないか」「他社と比べられて、高いと思われるのではないか」。そうした心配はもっともです。実際、価格を細かく比べるお客様ほど、内訳の一つひとつに目を通されます。その中で労務費の金額だけが目立てば、「ここは削れないのか」と聞かれることもあるでしょう。
ただ、私はこう考えています。労務費を見せることは、値上げの言い訳をするためではありません。「私たちは、この家を建てる職人に、これだけの対価をきちんと払っています」と、お客様に宣言することなのだと思います。
お客様の多くは、自分の家を建ててくれる職人が、安い手間賃で無理をしていることを望んではいないはずです。むしろ、適正な賃金で、誇りを持って働いている職人に建ててもらいたい。そう考える方の方が、ずっと多いのではないでしょうか。労務費の内訳を丁寧に説明することは、その気持ちに応えることでもあります。
もちろん、国の基準ができたからといって、すぐに現場の賃金が上がるわけではないでしょう。基準はあくまで目安であり、実際の価格は、一社一社の工務店と職人との話し合いの中で決まっていきます。だからこそ、工務店の姿勢が問われるのだと思います。

あなたの会社の職人は、来年も現場に来てくれますか
一度、自社の見積書を開いて、こう自問してみてほしいと思います。この金額の中で、大工さんや各職方さんに渡っているお金は、彼らが家族を養い、次の世代を育てていけるだけのものになっているだろうか、と。
すぐに答えられないのであれば、まずは自社の中で、労務費がいくらで、それが適正な水準なのかを把握するところから始めてもよいと思います。お客様に見せるかどうかは、その後で考えればいい。けれど、自分たちが把握していないものを、お客様に説明することはできません。
その上で、お客様にも少しずつ伝えていく。打ち合わせの中で、「この家は、地元の大工さんが◯人で、◯か月かけて建てます」と話すだけでも、職人の存在は具体的になります。家の価格の中に、人の手の時間が含まれていることを、お客様に実感してもらえるはずです。
上棟の日や完成の日に、お客様と職人が顔を合わせる機会をつくるのもよいと思います。自分の家を建ててくれた人の顔を知っていれば、お客様にとって、労務費は数字ではなく「あの人たちへの対価」になります。
職人がいなければ、どれほど立派な図面も家にはなりません。労務費を守ることは、職人を守ることであり、ひいては地域の家づくりそのものを守ることだと私は思っています。法律の改正をきっかけに、見積書の一行一行を見直す工務店が増えてほしいと願っています。

