トップ営業が辞めた日に、会社の営業力がわかる

どの工務店にも、一人か二人、「この人がいれば受注は大丈夫」と思える営業担当者がいるのではないでしょうか。お客様からの信頼も厚く、紹介も多い。社長にとっては、何よりも頼もしい存在だと思います。

けれど私は、その頼もしさこそが、工務店にとって一番見えにくいリスクだと考えています。会社の本当の営業力は、そのトップ営業がいる間ではなく、その人が辞めた日にはっきりと分かる。厳しい言い方になりますが、私はそう思っています。

受注の半分を担っていた人が、いなくなったとき

施工管理アプリを提供する会社のメディアで、ある地域の老舗工務店の事例が紹介されていました。その会社では、年間の施工棟数の約半数を受注していたトップ営業が、2022年に退職したそうです。受注棟数は大きく落ち込み、会社は営業組織を一から立て直すことになりました。

この記事を読んで、私は他人事とは思えませんでした。コミュニティビルダー協会の活動で各地の工務店と関わる中で、同じような話を何度も耳にしてきたからです。営業担当者が独立した、他社に引き抜かれた、体調を崩して休職した。理由はさまざまですが、その人が抱えていたお客様との関係が、そのまま会社から消えてしまう。そんな場面は、決して珍しくありません。

トップ営業がいる間は、会社の数字は安定しています。だから社長も、そのリスクを意識しにくい。むしろ、「あの人のやり方は真似できないから」と、その人に任せきりにしてしまうことの方が多いのではないでしょうか。気づいたときには、お客様の情報も、打ち合わせの経緯も、その人の頭の中にしか残っていない。それが、属人的な営業の怖さだと思います。

しかも、お客様の側から見れば、担当者が辞めることは会社への信頼そのものを揺るがす出来事です。「あの人がいたから決めたのに」という気持ちは、そのまま会社への不安に変わります。検討中のお客様が、担当者の退職をきっかけに他社へ移ってしまうことも、決して少なくないと思います。

トップ営業のやり方を否定する必要はない

ただ、ここで誤解してほしくないのは、トップ営業のやり方そのものが悪いわけではない、ということです。お客様の心をつかむ力は、簡単に身につくものではありません。その人の存在が会社を支えてきたことも、間違いなく事実です。

問題は、その人の力を、会社の力に変える仕組みをつくってこなかったことだと思います。先ほどの工務店では、営業組織を立て直す中で、データをもとにした経営に舵を切ったそうです。新しく窓口を担当した若手社員は、入社1年目に4棟、2年目に7棟を受注したと紹介されていました。トップ営業一人の力に頼るのではなく、誰が担当しても一定の成果が出る形をつくっていった結果なのだと思います。

もう一つ、印象に残ったのは、その会社の新規のお客様の7割が、OB客からの紹介だったという点です。トップ営業がいなくなっても、会社が積み重ねてきたOB客との関係は残っていた。それが、立て直しの土台になったのではないでしょうか。営業力は、一人の担当者の中だけにあるのではなく、会社とお客様との関係の中にもある。そのことを、この事例は教えてくれているように感じます。

この事例から私が学んだのは、立て直しには時間がかかるということでもあります。トップ営業が抜けた穴は、一年や二年で簡単に埋まるものではありません。だからこそ、穴が空いてから慌てるのではなく、穴が空いても会社が揺らがない形を、平時のうちからつくっておくことが大切なのだと思います。

あなたの会社のトップ営業が明日辞めたら、何が残りますか

一度、想像してみてください。あなたの会社のトップ営業が、明日突然辞めると言ってきたとします。そのとき、会社には何が残るでしょうか。

その人が担当している検討中のお客様の名前と、それぞれの進み具合を、社長は説明できるでしょうか。過去に建てたお客様との関係は、その人個人ではなく、会社として続いているでしょうか。若手の営業担当者は、トップ営業の打ち合わせに同席して、そのやり方を間近で見る機会を持てているでしょうか。

どれか一つでも心もとないと感じたなら、今のうちに手を打っておきたいところです。顧客情報を会社の共有の記録に残す。大事な打ち合わせには二人で入る。OB客への定期的な連絡を、担当者個人ではなく会社の名前で続ける。お客様にも、担当者が一人ではなく、会社全体で見守っていることを伝えておく。どれも地味な取り組みですが、トップ営業の力を、少しずつ会社の財産に移していくことにつながります。

トップ営業を大切にすることと、その人に頼りきらないことは、矛盾しません。むしろ、その人の経験を会社全体で受け継いでいくことこそが、その人への一番の敬意なのではないでしょうか。辞めた日に慌てるのではなく、いる間に仕組みを整えておく。そんな会社が、一社でも増えてほしいと思っています。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編