現場の看板は、通りがかりの人に向けた名刺だ
集客の話になると、どうしてもホームページやSNS、広告の話が中心になります。けれど、地域の工務店にとって、もっとも身近で、もっとも長く人の目に触れている広告は何でしょうか。私は、建築中の現場に掲げられている看板や工事シートだと思っています。
数か月にわたって、同じ場所で、近所の人や通勤・通学の人の目に触れ続ける。これほど地域に密着した広告は、ほかにありません。それなのに、現場の看板を「法律で決められた表示」や「会社名を出すための板」としか考えていない工務店が、まだ多いように感じます。私は、現場の看板こそ、通りがかりの人に向けた会社の名刺として、もっと丁寧に扱ってほしいと考えています。

展示場の看板より、近所の現場の方が覚えられていた
前職の住宅メーカーで、茨城県南部の住宅展示場に勤めていた頃のことです。来場されたお客様に「当社をどこでお知りになりましたか」と尋ねると、意外なほど多く返ってきたのが、「近所で建てている現場を見て」という答えでした。
展示場の大きな看板や、新聞の折込チラシにはそれなりの費用をかけていました。けれど、お客様の記憶に残っていたのは、毎日の通勤路で見かけた現場の方だったのです。「いつも現場がきれいだったから」「職人さんが挨拶してくれたから」。そんな理由で足を運んでくださる方もいらっしゃいました。
当時の私は、その答えをあまり深く受け止めていませんでした。集客は本社や展示場がやるもので、現場は家を建てる場所だと、どこかで切り分けて考えていたのだと思います。今振り返れば、あの現場の一つひとつが、会社にとって一番信頼される広告だったのです。
実際、展示場で契約に至ったお客様の中には、契約前に何度も近所の現場を見に行っていた方がいらっしゃいました。休日の現場の様子、雨の日の養生の仕方、職人さんの振る舞い。展示場では見せられない、ふだんの仕事ぶりを、お客様はちゃんと見ていたのです。
看板一枚にかけるお金は、決して大きくない
ある工務店向け業務支援会社のコラムでは、看板の製作費用の相場として、壁面看板で35万円程度まで、自立看板やスタンド看板であれば10万〜15万円程度までといった目安が紹介されていました。看板で集客効果を上げるには、ターゲットを明確にし、伝えるポイントを絞ることが大切だとも書かれていました。
ホームページの制作や、毎月の広告費と比べれば、看板にかかる費用は決して大きくありません。しかも、一度つくれば、現場が変わるたびに何度も使うことができます。それにもかかわらず、多くの現場の看板は、会社名と電話番号、工事の許可番号が並んでいるだけで、通りがかりの人に何かを伝えようとはしていません。
一方で、看板に情報を詰め込みすぎるのも考えものだと思います。施工実績、性能の数字、キャンペーンの案内。あれもこれもと並べると、歩きながら読む人には何も伝わりません。看板は、立ち止まって読むものではなく、通りすがりにちらりと目に入るものです。車で通り過ぎる人であれば、目に入るのはほんの数秒です。だからこそ、伝えることは一つか二つに絞るべきなのでしょう。
私なら、看板にはこう書いてほしいと思います。「この家は、地元の大工が◯か月かけて建てています」。会社の自慢ではなく、目の前の現場で何が起きているのかを、短い言葉で伝える。それだけで、通りがかりの人にとって、その現場はただの工事現場ではなく、誰かの家が丁寧に建てられている場所に変わるはずです。

看板の前の現場は、看板以上に見られている
そして、もう一つ忘れてはいけないことがあります。看板がどれほど立派でも、その奥の現場が散らかっていれば、看板は逆効果になってしまうということです。
道路にはみ出した資材、風で飛ばされたゴミ、近隣への配慮を欠いた駐車。通りがかりの人は、看板の文字よりも、こうした様子の方をよく見ています。「この会社に頼むと、うちの周りもこうなるのか」と思われてしまえば、どれだけ広告にお金をかけても取り返すのは難しいでしょう。
あなたの会社の現場は、看板と一緒に見られたとき、胸を張れる状態になっているでしょうか。毎日の終わりに、敷地の外周を一周して確認する。職人さんにも、近所の方への挨拶をお願いしておく。どれも小さなことですが、その積み重ねが、看板に書いた言葉に説得力を与えてくれます。
看板に問い合わせ先の電話番号だけでなく、現場の見学を受け付けている旨を一言添えておくのもよいと思います。「この現場の構造見学会を◯月に行います」。そう書かれていれば、気になっていた近所の方が、足を運ぶきっかけになるかもしれません。
現場は、何か月もの間、地域の人の目に触れ続ける会社の名刺です。その名刺を、丁寧に差し出しているかどうか。地域で長く選ばれる工務店は、そうした地味なところで、静かに信頼を積み重ねているのだと私は思っています。

