顧客台帳の趣味の欄は、なぜ空白のままなのか
工務店の顧客台帳を見せていただくと、名前や住所、電話番号、来場日といった欄はきちんと埋まっているのに、「趣味」や「興味・関心」の欄だけが空白のまま、ということがよくあります。項目としては用意されているのに、誰も書き込んでいないのです。
私は、この空白こそが、その会社の営業の姿を映しているのではないかと考えています。お客様の連絡先は知っていても、お客様が何を大切にして暮らしているのかは知らない。それは、家を売る準備はできていても、暮らしを一緒に考える準備ができていない、ということなのかもしれません。

台帳は、連絡のための名簿ではない
ある工務店向けの業務支援会社のコラムでは、エクセルで顧客を管理する際の項目の例として、顧客番号や名前、住所、電話番号に加えて、「興味・関心」や「趣味」、さらには「クレーム回数・内容」といった欄が紹介されていました。私が注目したのは、こうした欄が、名前や住所と同じ並びに置かれていることです。
つまり、顧客台帳は本来、連絡のための名簿ではなく、お客様を理解するための記録だということです。けれど現場では、忙しさの中で、連絡に必要な欄だけが埋められていきます。趣味や関心の欄は、「後で書けばいい」と後回しにされ、そのまま忘れられてしまう。多くの会社で、そんなことが起きているのではないでしょうか。
コミュニティビルダー協会の活動で、さまざまな工務店の営業の様子を見てきました。その中で印象に残っているのは、お客様の趣味を驚くほどよく覚えている営業担当者の存在です。「あのご主人は、休みの日に釣りに行くんですよ」「奥様は家庭菜園をされていて」。そうした話が自然に出てくる人ほど、お客様からの信頼が厚いように感じました。
趣味を知ることは、間取りを考えることでもある
趣味や関心を知ることは、雑談のネタを集めるためだけではありません。それは、そのまま家の間取りや設備の提案につながる、とても大切な情報です。
釣りが趣味のご主人であれば、道具をしまえる土間収納や、外から直接入れる水場があると喜ばれるかもしれません。家庭菜園をされている奥様であれば、勝手口の位置や、泥のついた野菜を洗える場所が気になるはずです。在宅で仕事をされる方であれば、静かに集中できる小さな書斎がほしいと考えているかもしれません。
こうした提案は、カタログの中からは生まれません。お客様の暮らしを知って初めて、その家族にしか合わない提案ができるのだと思います。同じ広さ、同じ予算の家でも、暮らし方が違えば、最適な間取りはまったく違ってきます。そして、その提案こそが、他社との比較の中で「この会社は、自分たちのことを分かってくれている」と感じてもらえる決め手になるのではないでしょうか。
ただ、趣味や関心を聞き出そうとして、根掘り葉掘り質問するのは逆効果です。お客様は、尋問を受けに来ているわけではありません。打ち合わせの合間の何気ない会話の中で出てきた一言を、聞き流さずに書き留めておく。それだけで十分なのだと思います。
書き留めるのは、その日のうちがよいと思います。翌日になれば、細かなことは記憶から抜け落ちていきます。打ち合わせの帰りの車の中で、スマートフォンに一言メモしておくだけでも、後で台帳に書き写すときの助けになります。
同じコラムでは、4〜5年前に家を建てたお客様に、外壁のクリーニングを勧めるメールを送るといった活用の例も紹介されていました。台帳に書き留めた情報は、契約の前だけでなく、引き渡しの後にも生きてくるということです。

あなたの会社の台帳は、誰のために書かれていますか
一度、自社の顧客台帳を開いてみてください。趣味や関心の欄は、どのくらい埋まっているでしょうか。そして、その台帳は、誰のために書かれているでしょうか。
複数の担当者が関わる会社であれば、書き方をそろえておくことも大切です。ある人は細かく書き、ある人は何も書かない、という状態では、せっかくの記録も引き継ぎの役に立ちません。
もし、社長や営業担当者が「漏れなく連絡するため」だけに台帳を使っているなら、少しもったいないと思います。台帳は、担当者が変わったときにお客様のことを引き継ぐための記録でもあり、設計担当者が間取りを考えるときのヒントでもあり、何年も後にOB客として付き合いを続けるための土台でもあるからです。
まずは、打ち合わせの後に一行だけ書き足す習慣をつけてみてはいかがでしょうか。「今日、お子さんがサッカーを始めたと話していた」。その一行が、半年後の打ち合わせで、玄関にボールや泥だらけのスパイクを置ける場所を提案するきっかけになるかもしれません。
顧客台帳の空白を埋めることは、お客様の暮らしに関心を持つことと同じだと私は思っています。名前と電話番号だけの名簿から、その家族の暮らしが浮かんでくる記録へ。そんな台帳を持つ工務店が、地域で長く選ばれていくのではないでしょうか。

