短い工期を約束することは、誠意ではない
2025年12月に全面施行された改正建設業法では、著しく短い工期での請負契約が、発注する側だけでなく、受注する側にも禁止されました。国が工期の基準を示し、それに反するような契約には、勧告や命令が出される可能性もあるそうです。
この改正を読んだとき、私は少し胸が痛みました。住宅の営業の現場では、「できるだけ早く建てます」という約束が、お客様への誠意だと考えられてきたからです。私自身も、かつてはそう信じていました。けれど今は、はっきりと言えます。無理な工期を約束することは、誠意ではなく、お客様と職人の両方に負担を押しつけることなのだと。

「三月までに引き渡します」と言った春のこと
前職の住宅メーカーで営業をしていた頃、お子さんの入学に合わせて、どうしても三月中に引っ越したいというお客様がいらっしゃいました。契約の時点で、通常の工程では間に合うかどうか、ぎりぎりの時期でした。
それでも私は、「大丈夫です、三月までに引き渡します」と約束しました。契約をいただきたい気持ちもありましたし、お客様の願いに応えることが営業の役目だと思っていたからです。
その結果、現場には大きな負担がかかりました。天候で工程が遅れるたびに、職人さんたちは休日を返上し、日が暮れても作業を続けてくれました。何とか約束の日には間に合いましたが、引き渡しの後、細かな不具合の手直しに何度も伺うことになりました。お客様にとっても、決して気持ちのいい新生活の始まりではなかったはずです。
現場監督から「次からは、無理な約束をする前に相談してほしい」と言われたことを、今でも覚えています。あの言葉は、職人さんたちの気持ちを代弁していたのだと思います。
営業の約束は、営業一人では守れません。基礎をつくる人、骨組みを組む人、屋根や外壁を仕上げる人、設備を据える人。たくさんの職人の時間の上に、その約束は成り立っています。当時の私は、そのことを十分に分かっていなかったのだと思います。
法律は、工期と価格の両方に向き合うよう求めている
今回の改正では、工期だけでなく、価格についても大切な変化がありました。資材や労務費が大きく変動したときに請負代金を見直す、いわゆるスライド条項について、その具体的な内容を契約時に書面に明記することが義務づけられたそうです。見積書では、労務費の内訳を示すよう努めることも定められました。
工期と価格。この二つは、どちらも、契約の時点で無理をすれば、その後にしわ寄せが来るものです。短すぎる工期は、現場の品質と職人の暮らしを削ります。変動を考えない価格は、資材が値上がりしたときに、工務店の経営そのものを苦しめます。
ただ、だからといって、お客様の希望をすべて断ればいいとも思いません。お子さんの入学や、今の住まいの退去の時期など、お客様にはそれぞれ切実な事情があります。その事情に寄り添いたいという気持ちは、工務店として大切にしてほしいものです。
大切なのは、できることとできないことを、契約の前に正直に伝えることだと思います。「この時期の着工であれば、三月の引き渡しは難しいかもしれません。その代わり、仮住まいの期間を短くできるよう、こういう段取りを考えてみませんか」。そうした代わりの提案ができれば、お客様も納得して判断できるはずです。むしろ、最初に正直な見通しを伝えてくれた会社の方が、お客様にとっては信頼できる相手に映るのではないでしょうか。
価格についても同じです。契約書に書かれたスライド条項を、お客様と一緒に読み合わせ、「資材の価格が大きく変わったときには、こういう形でご相談させていただきます」と説明しておく。後になって突然の値上げをお願いするより、ずっと誠実な向き合い方ではないでしょうか。説明を受けたお客様は、いざというときにも落ち着いて話を聞いてくださるはずです。

あなたの会社の工期は、誰の無理の上に成り立っていますか
あなたの会社では、契約の際に約束している工期が、現場にとって無理のないものになっているでしょうか。営業担当者が契約をいただくために、現場監督に相談せずに日程を約束している、ということはないでしょうか。
もし心当たりがあるなら、契約の前に、営業と現場で工程を確認し合う仕組みをつくってほしいと思います。お客様に約束する工期は、営業の願望ではなく、現場が責任を持って守れる日程であるべきです。
法律が変わったのは、これまでの業界に、無理な工期や無理な価格が当たり前のように存在していたからだと思います。その流れを変えるのは、法律だけではありません。一社一社の工務店が、お客様との約束の仕方を見直していくことでしか、本当の意味では変わらないのだと思います。
あの春、休日を返上して現場に立ってくれた職人さんたちの姿を、私は忘れられません。早く建てることよりも、無理なく、確かに建てること。その価値を、お客様にきちんと伝えられる工務店でありたいと、今は心から思っています。

