強みを言い換える前に、その強みを疑ってみる
工務店のブランディングについて書かれた記事を読むと、たいてい「自社の強みを、お客様の言葉に言い換えましょう」というアドバイスが出てきます。例えば「自社大工がいる」ではなく、「現場の品質が安定しやすい」と伝える、といった具合です。
この考え方自体には、私も賛成です。ただ、言い換えの作業に入る前に、一つやっておくべきことがあると思っています。それは、自分たちが強みだと思っているものが、本当にお客様にとっての価値になっているのかを、一度疑ってみることです。私は、多くの工務店がこの手順を飛ばしたまま、きれいな言葉づくりに時間をかけてしまっているように感じています。

「うちの強みは何ですか」と聞かれて、答えが三つ以上出る会社
コミュニティビルダー協会の勉強会で、工務店の経営者の方に「御社の強みは何ですか」と尋ねることがあります。すると、多くの社長が、すらすらと三つも四つも答えてくれます。自社大工、地域密着、高断熱、自然素材、アフターの早さ。どれも本当のことなのだと思います。ただ、ここまで多くの強みを挙げられるということは、裏を返せば、どれが一番の強みなのかを絞り切れていないということでもあります。
けれど、そこで続けて「では、最近契約されたお客様は、そのうちのどれを理由に御社を選びましたか」と聞くと、答えに詰まる方が少なくありません。強みとして挙げたものと、お客様が実際に選んだ理由が、必ずしも一致していないのです。
ある住宅専門のWeb支援会社のコラムでは、ブランディングを考える際に、ターゲットを「30代の共働き世帯」「世帯年収500万〜700万円」といった具体的な姿まで絞り込む例が示されていました。お客様が会社を知り、情報を集め、比較し、問い合わせるまでの流れを意識することも大切だとされています。私もその通りだと思います。ただ、ターゲットを絞り込む前に、自社を選んでくれたお客様の声を、もっと丁寧に聞いてみてほしいのです。
強みは、社長の頭の中ではなく、お客様の言葉の中にある
最近契約したお客様、あるいは引き渡しを終えたお客様に、「最終的に、なぜうちに決めてくださったのですか」と聞いてみる。それだけで、意外な答えが返ってくることがあります。
性能や価格を理由に挙げるお客様は、思ったより少ないかもしれません。「担当の人が、こちらの話を最後まで聞いてくれたから」「現場を見せてもらったとき、職人さんが挨拶してくれたから」「打ち合わせの帰りに、子どもにお菓子をくれたから」。そんな、会社が強みとして意識していなかった小さな出来事が、決め手になっていることも多いのです。
もちろん、性能や技術力が無意味だと言うつもりはありません。高い断熱性能や確かな施工は、家づくりの土台です。ただ、それは今や多くの会社が備えている「前提」になりつつあります。前提を強みとして打ち出しても、お客様の心にはあまり残りません。
むしろ、お客様が覚えているのは、その会社と過ごした時間の手触りです。打ち合わせの空気が和やかだったか、質問にきちんと答えてくれたか、約束の時間を守ってくれたか。そうした一つひとつの体験の中に、その会社らしさは表れているのだと思います。
同じコラムでは、ブランディングの効果は半年から1年単位で考えるべきで、即効性はないとも書かれていました。だからこそ、最初に選ぶ言葉が大切なのだと思います。半年、一年とかけて発信し続ける言葉が、お客様の実感とずれていたら、その時間はとても惜しいものになってしまいます。

お客様の言葉を、社員全員で共有していますか
あなたの会社では、お客様が選んでくれた理由を、社員全員で共有する仕組みがあるでしょうか。営業担当者は知っていても、現場監督や職人には伝わっていない。そんなことはないでしょうか。
もしお客様が「職人さんの挨拶が気持ちよかった」と言ってくれたのなら、その言葉はぜひ職人さんにも届けてほしいと思います。自分たちの何気ない行動が、会社の強みになっていると知れば、現場の空気はきっと変わります。ブランドは、ホームページの言葉だけでつくられるものではなく、社員一人ひとりの振る舞いの積み重ねでできていくものだからです。
例えば、月に一度の会議で、その月に聞けたお客様の言葉を一つずつ紹介し合う。それだけでも、社員の間に「自分たちは何で選ばれているのか」という共通の感覚が育っていきます。
強みを言い換える作業は、その後でも遅くありません。お客様の言葉の中から見つけた強みであれば、無理にきれいな言葉に言い換える必要すらないかもしれません。お客様自身の言葉が、そのまま一番伝わるキャッチコピーになることもあります。
自分たちの強みを、自分たちで決めつけない。お客様の言葉に耳を澄ませて、静かに見つけ直していく。そうした姿勢そのものが、地域で長く選ばれ続ける会社のブランドになっていくのだと、私は思っています。

