在庫を持たない工務店ほど危ない
今年に入ってからも、輸入木材や住宅設備機器の価格は高止まりしたままです。為替の影響で、仕入れ値が想定より2割近く跳ね上がったという声を、地域工務店の経営者から聞くことが増えました。
正直に言うと、私はこの状況で本当に問われているのは「価格交渉力」ではなく、「発注と在庫の設計力」だと思っています。値上げのニュースが出るたびに価格転嫁の是非ばかりが話題になりますが、それだけでは根本的な解決にはならない、というのが私の実感です。
値上げ幅を1円でも抑えるための交渉術を学ぶ勉強会には、今も多くの経営者が参加されています。それ自体を否定するつもりはありません。ただ、私が全国の工務店経営者と接する中で感じるのは、価格の話に議論が偏りすぎて、「そもそも予定通りに届くのか」という、もっと手前の問題への関心が薄くなっているのではないか、ということです。

牛久の現場で思い知った、発注担当者の勘に頼る怖さ
私が前職・ハウスメーカーで、住宅展示場に立っていた頃のことです。別の支店で、建具の納期が2週間以上遅れ、引き渡し予定そのものがずれ込んでしまったことがありました。
原因は単純でした。担当者が「いつも通り注文すれば間に合う」と思い込み、発注のタイミングを見誤っていたのです。当時は今ほど資材価格自体が不安定ではありませんでしたが、それでも「発注担当者の勘」に頼った調達体制の脆さを、お客様への謝罪という形で思い知らされました。
引き渡しの日程を延ばしてほしいと頭を下げに伺った時のお客様の表情は、今でもはっきり覚えています。金額の話ではなく、「約束した日に住めない」という一点で信頼が崩れる瞬間を、現場で見てきました。だからこそ私は、資材や設備の調達というのは営業や設計と同じくらい、いやそれ以上にお客様との信頼に直結する仕事だと考えるようになりました。
あの経験があるからこそ、今の資材高騰・供給不安の時代に、発注体制を「属人的な勘」から「仕組み」に変えられるかどうかが、工務店の生死を分けると確信しています。価格が上がったこと自体は、経営者一人の努力でどうにかなる話ではありません。しかし、いつ・どれだけ・どこに発注するかという仕組みは、今日からでも見直せるはずです。
在庫を積み増すことだけが答えではない
もちろん、在庫を持てば持つほど安心という単純な話でもありません。過剰な在庫はキャッシュフローを圧迫しますし、図面確定前に見込みで発注してしまえば、仕様変更のたびに無駄が生まれます。在庫を美徳のように語る経営者もいますが、私はそこまで単純化してよい問題ではないと考えています。
工務店の味方というメディアが紹介していた事例では、国内の木材自給率がおよそ4割まで低下する一方、輸入材の価格はおよそ2倍にまで上昇しており、現場でのプレカット材利用率はすでに9割に達しているといいます。プレカットの活用によって工期そのものを短縮できれば、現場作業や人件費、廃棄物処理費まで含めて総コストが大きく圧縮できた、という試算も紹介されていました。
私がこの数字から読み取るのは、「在庫を積み増す」ことそのものが答えではなく、「どこまで先読みして手配し、どこから先は外部の仕組みに任せるか」という設計の巧拙こそが問われている、ということです。ある工務店の社長は、地域の製材業者と年間契約に近い形で優先供給の約束を取り付け、価格の安さよりも先に「届く日を約束できること」を仕入れ先選びの基準に据えたと聞きました。価格だけを追いかける調達から、納期を人質に取られない調達へ。この発想の転換が、今の時代には必要なのだと思います。
同じ資料では、成長の早い優良な苗木「エリートツリー」の活用によって、1ヘクタールあたり約70万円のコスト削減効果があるという試算も紹介されていました。国産材の育成そのものにまで踏み込んで供給の安定化を図る動きが、林業の側でも始まっているわけです。私はこれを、遠い上流の話だと切り捨てるべきではないと思っています。地域工務店が普段付き合っている製材所や林業関係者の動きに関心を持つこと自体が、実は最も手軽にできる調達リスクの点検になるからです。

御社の発注は、仕組みになっていますか
あなたの会社では、主要な資材・設備の仕入れ先を何社確保しているでしょうか。そして、発注のタイミングは特定の担当者の経験と勘だけに委ねられていないでしょうか。
私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、全国の工務店経営者と話す機会をいただいていますが、資材高騰そのものを嘆く声は多くても、自社の発注体制そのものを点検し直したという話は、実はまだ多く聞きません。値上げは外から降ってくる問題ですが、発注の仕組みは自社の中で変えられる問題です。どちらに時間を使うべきかは、明らかだと思います。
まとめ
資材が届かないという、本来なら当たり前のはずのことが、当たり前でなくなる時代になりました。価格交渉のテーブルに座る前に、まず自社の発注と在庫の仕組みを見直すこと。地味で目立たない作業ですが、そこにこそ、これからの工務店経営の分かれ目があるのではないかと、私は思っています。

