業務効率化は人減らしの話ではない

最近、工務店向けの業務システムを紹介する記事で、「新築の粗利率は25%前後が目安で、20%を切ると経営は苦しくなる」という数字を見かけました。なるほど、と思う一方で、私はもう一つ気になることがありました。DX、業務効率化という言葉が、工務店の経営判断の場で、いつの間にか「人を減らすための言い訳」として使われてしまっていないか、ということです。正直に言うと、これは順番が逆だと私は思っています。DXは人を減らすための手段ではなく、誰にどの仕事を担ってもらうかという経営判断そのものを、社長自身がもう一度引き受け直すための手段なのではないか。そう考えています。

属人化という言葉の奥にあるもの

コミュニティビルダー協会の活動を通じて、地域の工務店の経営相談や勉強会に関わる機会が増えました。そこで繰り返し耳にするのが、「システムを入れたのに、思ったほど効果が出ない」という声です。話をよく聞いていくと、たいてい共通点があります。導入の目的が、最初から「今いる人数を減らすこと」にすり替わっているのです。

本来、お客様とのやり取りや現場の調整内容が、一人の担当者の頭の中にしか残っていない状態、いわゆる属人化こそが、工務店にとっての本当のリスクだと私は考えています。担当者が急に休んだり辞めたりした瞬間に、積み上げてきた経緯が会社から静かに消えてしまう。先ほどの記事にも、商談管理システムの導入によって「言った言わない」のトラブルが減り、顧客情報が一元化されることで紹介受注が増えた、という主張がありました。これは単なる効率化というより、会社としての記憶を、個人の頭の外に置き直す作業なのだと思います。人を減らすためではなく、会社が持っている情報を会社自身が手放さないための投資。そう捉え直すだけで、導入の優先順位も、使い方もまったく違ってくるはずです。

以前、協会主催の勉強会で、ある経営者が「エース社員が三日休むと、進行中の商談が全部止まる」と笑いながら話していたのを覚えています。笑い話のように語られていましたが、これは本来笑って済ませられる話ではありません。会社の売上の一部が、特定の個人の在不在によって左右されているということは、経営の立場から見れば、立派なリスクです。DXという言葉を使うかどうかはさておき、情報を個人の頭の外に出し、会社の仕組みとして動かせるようにしておくことは、人員の多寡にかかわらず、どの規模の工務店にとっても避けて通れない課題になってきていると感じています。

それでも、ツールに振り回される会社も見てきた

ただ、DXを入れれば万事解決、とも私は言い切れません。協会の勉強会で、ある工務店の社長からこんな話を聞いたことがあります。システムを導入した結果、現場監督が日中の大半を入力作業に費やすようになり、肝心の現場に顔を出す時間が減ってしまった、というのです。ツールの運用そのものが目的化してしまい、本来守りたかった「現場に立つ時間」を奪ってしまったとしたら、これは本末転倒です。

効率化の名のもとに導入されたシステムが、むしろ会社の体力を削ってしまうケースは、決して珍しくないと感じています。大切なのは、何を記録し、何を自動化し、何を人の判断に残すのかを、ツールを選ぶ前に社長自身が決めておくことです。その見極めをしないまま導入を進めてしまうと、せっかくの投資が、新しい負担を増やすだけで終わってしまいかねません。業界の外から多くの工務店を見てきた立場として、効率化という言葉の心地よさに、判断そのものを委ねてしまうことの危うさを、私は感じています。

ツールを導入すること自体を目的にしてしまうと、現場は「入力のための現場」になり、本来の主役であるはずのお客様や職人との時間が後回しになります。逆に、何を効率化し、何を効率化しないかを先に決めている会社は、同じシステムを導入しても、使い方がまったく違ってきます。システムは、経営判断を代わりに下してくれる道具ではありません。あくまで、社長が下した判断を、現場の一人ひとりに正確に行き渡らせるための道具にすぎないのだと、私は考えています。

あなたの会社のDXは、何を守るためのものですか

もし今、DXや業務効率化を検討しているなら、一度立ち止まって考えてみてほしいことがあります。それは「このシステムを入れたら、何人分の仕事が減るか」ではなく、「このシステムを入れたら、誰かの頭の中にしかなかった情報が、会社の資産に変わるか」という問いです。新築の粗利率25%という数字は、特別な工夫をしなくても自然に維持できる数字ではありません。見積もりの精度、現場の調整、引き渡し後の対応、そのひとつひとつの積み重ねの中で、わずかな無駄が静かに利益を削っていきます。

DXという言葉を人員削減の免罪符にしてしまうのか、それとも会社の記憶と利益を守るための投資として位置づけるのか。その分かれ道は、ツールの機能そのものよりも、経営者がどこに判断の軸を置くかによって決まるのだと、私は思っています。

効率化という言葉は、便利であるがゆえに、都合よく使われてしまうことがあります。けれど、本当に守るべきものは、現場で積み上げてきたお客様との関係であり、そこに宿る情報そのものではないでしょうか。DXをきっかけに、誰が何を担うべきかを、もう一度社長自身の言葉で考え直す会社が、一社でも多く増えてくれればと願っています。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編