認証マークより先に、山主の名前を聞いていますか

正直に言うと、私はFSCやSGECといった森林認証のニュースを見るたびに、少し複雑な気持ちになります。

大手ゼネコンがFSC認証材を使った本社ビルや大学施設を次々と建てている一方で、その認証の輪の中に、地域の工務店が建てる普通の家庭の住まいはほとんど入っていない。制度としては立派でも、恩恵が届く場所が偏っているのではないか。私はそう感じています。

SDGsや国産材といった言葉自体は、ここ数年でずいぶん浸透しました。ですが、言葉が広まるスピードと、実際の仕組みが地域の現場まで届くスピードは、必ずしも一致しません。私がこの仕事に長く関わってきて感じるのは、制度や認証が整うほど、むしろ現場の工務店との距離が開いてしまう瞬間があるということです。

認証制度は、まだ「大きな建物」のためのものだと感じる

2026年5月時点で、国内のFSCプロジェクト認証は申請中を含めて85件。そのうち民間建築が約6割、公共建築が約4割を占め、全体の約8割は建物の一部だけを認証対象とする「部分認証」だといいます(参考:建設通信新聞「FSCジャパン」記事)。戸田建設の本社ビルや大林組の「Port Plus」、竹中工務店の大学施設など、名前の挙がるプロジェクトはいずれも大型建築です。

森林環境譲与税も同じ構造を抱えていると思います。令和6年度の譲与総額は629億円、活用額は520億円まで伸びました。ただ、市町村の取組事例70件のうち、木材利用・普及啓発に当たるものは17件。都道府県では7割が木材利用・普及啓発に取り組んだとされていますが、その多くは公共施設の木質化や木育イベントで、一般の木造住宅の施主や、それを建てる地域工務店にまで実感が届いているケースは、私の知る限りそう多くありません(参考:林野庁「森林環境税及び森林環境譲与税」)。

制度自体を否定したいわけではありません。むしろ大手が先行して市場を作ってくれることには感謝すべき面もある。ただ、税金を払っているのは大手だけでなく、地域で家を建てる一人ひとりの施主でもあるという事実は、忘れてはいけないと思うのです。

前職の展示場で、答えられなかった質問

私が前職の住宅メーカーで営業をしていたのは、茨城県南部、牛久市や竜ヶ崎市のあたりでした。ある日、見学に来たお客様から「この柱の木は、どこの山から来たんですか」と聞かれたことがあります。

当時、私は答えられませんでした。カタログには「国産材使用」とは書かれていても、それがどの山の、誰が育てた木なのかまでは、誰も教えてくれなかったからです。認証マークという仕組みもまだ一般的ではなく、山とお客様の間には、何重もの流通の壁があった。

あのときの気まずさを、私は今でも覚えています。もしあの場で、山主の名前や、その山の風景を一枚の写真で見せられていたら、お客様の反応は違っていたはずだと思うのです。認証マークは、山とお客様の距離を縮めるための手段の一つに過ぎません。本当に縮めるべきは、人と人との距離なのだと、あの経験が教えてくれました。

認証がなくても、山とつながる道はある

とはいえ、小規模な工務店が自前でFSCやSGECの認証を取るのは、コストも手続きも軽くありません。だからこそ、認証取得だけが唯一の答えだとは、私は思いません。

コミュニティビルダー協会の活動で出会ってきた地域工務店の中には、認証マークを持たないまま、近隣の山主や森林組合と直接つながり、「この木はどの山から来たか」を施主に説明できる関係を築いている会社がいくつもあります。山主にとっても、自分が育てた木がどんな家になったかを知る機会になり、工務店にとっては価格交渉だけでなく、安定した地域材の供給ルートを持つことにつながっている。認証というお墨付きがなくても、顔の見える関係そのものが、一種の品質保証になっているのだと思います。

ある会社では、完成見学会の案内状に、使用した柱や梁が育った山の写真を一枚添えているそうです。そこまで手間をかけなくても、施主に山の話を一言添えるだけで、同じ木材でも伝わり方は変わるはずだと私は思います。

あなたの会社は、使っている木の山を知っていますか

ここで、工務店経営者の皆さんに問いたいのです。自社が使っている木材が、どの山から来ているか、山主の名前や顔を思い出せるでしょうか。そして、自分たちの市町村が森林環境譲与税をどう使っているか、ホームページで確認したことはあるでしょうか。

認証マークのニュースを追いかけるだけでなく、足元の地域材・山主との関係を一つずつ築いていくことの方が、長い目で見れば施主の信頼につながると、私は確信しています。

大きな制度の隙間を、小さな関係で埋めていく

森林認証も森林環境譲与税も、まだ発展途上の制度です。大きな建物から恩恵が広がっていくのは、ある意味で自然な流れでもあります。

ただ、その隙間を埋められるのは、地域に根を張る工務店だからこそできることだと思っています。認証マークの有無にかかわらず、山の名前を、そこで働く人の顔を、施主に語れる工務店が増えてほしい。そう願いながら、この記事を書いています。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編