OB客のデータは、名簿で終わっていませんか
正直に言うと、私は工務店のマーケティング予算の使い方に、ずっと違和感を持っています。新規のお客様を呼び込むための広告費やSNS運用には熱心に投資するのに、すでに家を建てていただいたOB客のデータは、引き渡しの瞬間からほとんど動かされていない。名簿としては存在しているのに、資産としては眠ったままになっている工務店が、思っている以上に多いのではないかと感じています。新しいお客様を探す労力と、すでに関係のあるお客様を思い出す労力は、本来天秤にかけるようなものではないはずです。

協会の活動で見えてきた、データの「止まり方」
コミュニティビルダー協会の活動を通じて、全国のさまざまな工務店の取り組みを見せていただく機会があります。そこで気づいたのは、顧客データが止まる場所には、ある共通したパターンがあるということです。契約時、引き渡し時までは担当営業が細かく記録を取っている。ところが引き渡しが終わった瞬間、そのデータはファイルサーバーの奥か、紙のファイルの中にしまわれ、次に開かれるのはアフターメンテナンスの時期が来たときだけ、という会社が少なくありません。業界を外から支援する立場で多くの工務店の社内体制を見ていると、集客の仕組みに投資する会社ほど、実はこの「引き渡し後の空白期間」を見落としていることに気づきます。
ある工務店向けのマーケティング解説では、LINE公式アカウントのタグ機能を使って顧客を分類し、検討段階や築年数に応じて自動でメッセージを配信する仕組みが紹介されていました。見学会の前にリマインダーを送るだけでなく、OB客への訪問記録を動画で残し、手書きの感謝レターを添えて関係を温め続けることで、紹介につながるストーリーが自然に生まれる、という内容です(参考記事は末尾に記載)。これを読んで私が強く思ったのは、仕組みそのものの新しさよりも、「データを分類して使い続ける」という発想自体が、まだ多くの工務店に根付いていないという現実でした。
システムがなくても、始められることはある
ここで、もう一つの視点も持っておきたいと思います。顧客データベースと聞くと、立派なCRMシステムを導入しなければ始まらない、と身構えてしまう経営者の方が少なくありません。導入コストや運用の手間を考えると、二の足を踏む気持ちは十分に理解できます。
ただ、私はこの壁を、少し過大に見積もりすぎているのではないかと思うのです。極端な話、エクセルの一覧表に「築年数」「家族構成の変化」「最後に連絡した日」の三列を追加するだけでも、OB客への再アプローチは始められます。国の調査でも、注文住宅では展示場やモデルハウスでの接客が成約の約半数を占めるとされていますが、これは裏を返せば、来場という接点そのものに依存した集客モデルがまだ主流であることを示しています(参考記事は末尾に記載)。新規接点を増やす努力と同じだけの熱量を、すでにつながっている数百件のOB客に向けるだけで、見学会への再来場やリフォーム相談が自然に増えると私は見ています。立派な仕組みより、まず「使う習慣」を社内に作ることの方が、よほど優先度が高いはずです。

御社は、OB客に最後に連絡したのがいつか答えられますか
ここで一つ、経営者の皆さんに伺いたいことがあります。御社で最後にOB客へ個別に連絡を取ったのは、いつでしょうか。築何年の方で、どんな用件だったか、即答できるでしょうか。
これに答えられる会社は、実はそれほど多くありません。アフターメンテナンスの定期訪問は仕組み化されていても、それ以外のタイミングでの接触は、担当者の記憶とやる気に依存しているケースが大半です。新規集客の反応率が年々落ちていると言われる今だからこそ、すでに信頼関係のあるOB客という足元の資産に目を向けることが、遠回りではなく最短のルートだと私は考えています。担当者が異動や退職をした瞬間に、OB客との関係が途切れてしまう会社も見てきました。関係を個人の記憶に依存させるか、会社の仕組みとして残すかは、数年後の紹介件数に静かに差を生むはずです。
名簿を、関係に変えていく
顧客データベースという言葉には、どこか無機質な響きがあります。ですが、そこに記録されているのは、かつて御社を選んでくださった一人ひとりの暮らしの歴史です。それを掘り起こし、適切なタイミングで声をかけることは、営業活動というより、関係を育て直す作業に近いのではないでしょうか。
名簿の中にある情報が、いつか再び誰かの家づくりを支える関係に変わっていく。そんな工務店が一社でも増えることを願っています。

