商圏人口に、移住希望者を数えていますか

正直に言うと、私は「商圏人口」という言葉の数え方自体が、もう古くなっているのではないかと思っています。多くの工務店が商圏人口を考えるとき、念頭にあるのはその土地に住み続けている人、あるいはその土地出身で戻ってくる人でしょう。しかし今、地方には「住んだことのない土地に移り住みたい」という、まったく別の人口が流れ込みはじめています。この新しい人口を商圏の外側に置いたままでいる工務店は、これから静かに機会を逃していくのではないかと感じています。

協会の活動の中で感じる、相談内容の変化

私がこう考えるようになったのは、コミュニティビルダー協会の活動を通じて、地方自治体や工務店支援の現場に関わる機会が増えたことが背景にあります。講演や研修でお会いする自治体職員の方から、以前より頻繁に聞くようになった言葉が「移住相談」と「二拠点居住」です。空き家バンクの担当窓口を持つ自治体が増え、相談件数自体も増えているという声を、各地で耳にするようになりました。

国土交通省が2022年に実施し、内閣府の調査(2023年4月)とあわせて2024年1月に中間とりまとめとして公表した調査によると、東京圏在住の20代の約45%が地方移住に関心を持ち、二地域居住を行っていない人のうち27.9%が関心を示しているといいます。私はこの数字を見たとき、商圏人口の定義を広げなければならない時代が来ていると、改めて確信しました。地元に住んでいる人だけを相手にしていては、商圏の中にいるはずの「関心を持つ人」を最初から見落としてしまうからです。

講演先の自治体職員の方からは、「移住相談窓口に来る方の中には、住宅の性能や断熱のことまで細かく質問してくる人が増えた」という話も聞きます。都市部で暮らしてきた方ほど、地方の住宅に対する要求水準が決して低くないのだと、あらためて感じさせられる話でした。商圏の外からやってくる人たちは、単に安い物件を探しているわけではなく、暮らしの質そのものを比較して選んでいるのだと思います。

それでも、簡単に受け皿になれるわけではありません

とはいえ、この需要の高まりに、地域工務店がすぐに応えられる体制にあるとは言い切れません。同じ中間とりまとめでは、「住まい」「なりわい」「コミュニティ」という3本柱が課題として挙げられていますが、特に住まいの面では「空き家は増えている一方で、活用できる物件は少なく、賃貸住宅供給も限定的」という構造的な課題が指摘されています。

全国版空き家・空き地バンクは、令和5年2月末時点で1,788自治体のうち949自治体が参画し、参画率は53%、累積成約数は約13,300件にとどまります。登録自体は進んでいても、実際に成約し、暮らしにつながった件数はまだ限られているのが現実です。2024年10月には「全国二地域居住等促進官民連携プラットフォーム」が発足し、709の自治体と197の企業・団体が参加していますが、これも需要の受け皿がまだ整備の途中にあることの裏返しだと思います。

私が協会の活動で知り合った、ある地方の工務店の社長は、空き家バンクに登録された古い物件を定期的に見に行き、移住希望者向けに改修できそうな物件だけを選んで、自治体の相談窓口に「この物件なら対応できます」と声をかける取り組みを続けていると話していました。新築の受注のように派手な成果が出るわけではなく、年に数件の改修案件にしかつながっていないそうですが、その会社は移住者からの口コミで、少しずつ「よそから来た人の相談にも丁寧に応じてくれる会社」という評判を得ているといいます。すぐに事業化を急ぐのではなく、まず関係を築くところから始めている姿勢が印象に残りました。

あなたの会社は、移住希望者からの相談をどう受けていますか

あなたの会社では、地元出身ではない方からの相談を受けたとき、どのような対応をしているでしょうか。「うちは地元の方中心なので」と、知らず知らずのうちに対応の幅を狭めてしまっていないでしょうか。

自治体の空き家バンクや移住相談窓口と、普段からどれだけ接点を持てているか。そこに登録された物件の情報を、自社の改修提案の種として眺められているか。こうした小さな積み重ねが、数年後に商圏そのものの定義を変えていくのではないかと思います。

商圏の境界線は、もう地図だけでは引けません

移住や二拠点居住への関心は、一時的な流行では終わらない構造的な動きだと私は見ています。人口が減っていく地域ほど、外から関心を持つ人をどう受け止められるかが、工務店の次の商圏を決めていくはずです。

商圏人口を地図の線引きだけで考える時代は、少しずつ終わりに近づいているのかもしれません。地図の外からやってくる関心に、どれだけ丁寧に応えられる会社であるか。そこに、これからの地域工務店の新しい役割があってほしいと、私は思っています。

協会の活動を通じて各地の自治体や工務店の話を聞くたびに、この動きはまだ始まったばかりだと感じます。成約件数の数字そのものはまだ小さく見えるかもしれませんが、関心を持つ人の数はその何倍も存在しているはずです。その関心をどう受け止めるかを、地図の内側だけで考え続けるのはもう難しいのではないでしょうか。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編