情報を置くだけでは、空き家は動かない

国土交通省がまとめている全国版空き家・空き地バンクのデータを見ると、2026年7月末時点で参画自治体は1,148、物件を掲載している自治体は744、掲載件数は約1万9,600件に上るそうです。制度が始まってからの累計成約件数は約2万6,000件とのことで、数字としては決して小さくありません。ただ私は、この数字を見て安心するのではなく、むしろ危機感を持つべきだと考えています。掲載件数と成約件数の差を見れば分かる通り、物件情報をただ並べる「入口」は年々広がっているのに、実際に取引が成立する「出口」は、いつまでも狭いままなのです。

自治体の掲示板では、物件は動かないと感じてきました

こう思うようになったのは、コミュニティビルダー協会の活動で、全国各地の工務店経営者や自治体の担当者と話す機会をいただいてきたからです。講演や研修でお邪魔した地方の自治体では、空き家バンクのページに写真と簡単な間取りだけが載っていて、何年も「掲載中」のまま更新されていない物件を何度も見かけました。担当者に聞くと、「登録自体は所有者の善意で成り立っているので、こちらから積極的に動くのは難しい」という答えが返ってくることが多くありました。

一方で、ある地域では、地元の工務店が自治体と協定を結び、空き家バンクに登録された物件の現地確認やインスペクション、簡単なリフォーム提案までを一手に引き受ける仕組みを作っていました。その工務店の社長は「情報を見ただけで決断できる人は少ない。実際に中に入って、直せば使えると説明してくれる人がいて、初めて物件は動く」と話していました。問い合わせがあっても、現地確認の予定を合わせるだけで数週間がかかり、結局そのまま立ち消えになる自治体も少なくないと聞きます。同じ空き家バンクという制度でも、動かすのは結局、現場に足を運べる人の存在なのだと、その話を聞いて強く感じたことを覚えています。

協会として各地を回る中で、空き家バンクの運営そのものに疲弊している自治体の声も耳にします。担当者は数年おきに異動し、引き継ぎのたびに、なぜこの物件がまだ掲載されているのかという経緯が分からなくなってしまう。情報は残っても、その情報を動かす意志や知見は、担当者と一緒に自治体の外に出てしまうのです。だからこそ、地域に根を張って動かない工務店のような存在が、情報と行動の間を埋める役割を担えるのではないかと、私は考えるようになりました。

工務店が仲介に踏み出すことには、慎重さも必要です

この構造を踏まえると、工務店が不動産仲介の領域に踏み出すことには、確かに合理性があります。建築の知識を持つ工務店が宅地建物取引士の資格を取り、仲介まで担えば、空き家の発見から改修、引き渡しまでを一社で見届けられるようになります。実際、中古住宅流通量が住宅流通全体の何割を占めているかという統計は、不動産流通経営協会の調査では約4割、総務省・国交省の集計では約15%とされ、計測方法によって大きく異なります。この差自体が、中古・空き家の流通が、まだ整理された市場として成熟していないことを物語っているように思います。

とはいえ、どの工務店にも仲介参入が向いているとは、私は言い切れません。仲介は宅建業法に基づく別の責任を負う業務であり、見切り発車で手を広げれば、本業である建築の信頼まで損なう恐れがあります。資格を取ったものの、思ったほど成約に結びつかず、片手間の業務として扱われてしまっている例も、協会の勉強会では度々話題になります。大切なのは、仲介業への参入そのものではなく、空き家バンクという「情報の置き場」に、建築の専門知識を持つ人間がどう関わるかという視点だと考えています。資格を取るかどうかは手段の一つであって、目的ではないのだと思います。

あなたの会社は、地域の空き家情報をどう見ていますか

あなたの会社の近くにある自治体の空き家バンクのページを、最近開いたことはあるでしょうか。もしかすると、何年も掲載されたままの物件が、そこに眠っているかもしれません。仲介資格を取るかどうかは別として、現地を見に行き、直せば使えるかどうかを判断できる人間が地域にいるというだけで、所有者や自治体にとっては心強い存在になります。

空き家バンクの情報を、単なる「他業種の仕事」として横目で見るのか、それとも地域の資産として自社の関わり方を考えるのか。その違いが、数年後の受注の広がりに、じわりと影響してくるのではないかと私は思っています。空き家の持ち主から直接相談を受けるわけではなくても、自治体の担当窓口に顔を出し、「現地を見られる人間がいる」と知ってもらうだけでも、関係の始まり方は変わってくるはずです。

情報の先に、人がいるかどうか

制度や仕組みは、整えば整うほど、情報を集めやすくなります。ですが、情報が集まることと、物件が実際に動くことの間には、まだ大きな距離があります。その距離を埋められるのは、最終的には現場に足を運び、建物の状態を見極められる人だけなのだと、私は考えています。

空き家バンクの掲載件数が増えたというニュースを、他人事のまま読み流すのではなく、自分たちの地域で何ができるかを考えるきっかけにしていただければと思っています。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編