蓄電池は容量表で選ぶものではない
住宅用蓄電池の世帯普及率は、太陽光発電の16%に対して、まだ5%程度にとどまっているというデータを見かけました。裏を返せば、これから伸びる市場だということです。ただ私は、この数字を見て「もっと積極的に売り込むべきだ」とは思いませんでした。むしろ、蓄電池が容量やメーカー名のカタログ比較で選ばれ続けている限り、この5%という数字はそう簡単には動かないだろうと感じています。蓄電池は、容量表で選ぶものではない。これが、私の率直な意見です。

容量表の前に、聞き逃していたこと
こう考えるようになったのは、前職・東日本ハウス時代、茨城県南部の牛久市と竜ヶ崎市にまたがるエリアの住宅展示場に立っていた頃の記憶があるからです。
当時、太陽光や蓄電池はまだ「標準ではなくオプション」という位置づけで、営業担当は皆、パンフレットの容量表を指しながら「こちらが7kWh、こちらが12kWhです」という説明から入っていました。お客様が本当に知りたかったのは、停電した夜にまず何を動かしたいのか、共働きで日中はほとんど電気を使わない家なのか、というその家固有の暮らし方の話だったはずです。
しかし当時の私たちは、その手前にあるはずの「暮らしの聞き取り」を省略し、容量とkWh単価を並べた比較表を渡すことで、説明を終えたつもりになっていました。契約後に「思ったより電気が余っている」「夜の分だけ足りない」といった声が出ることもあり、今振り返れば、順番をひとつ間違えていたのだと思います。設備は先に決まっていて、暮らし方は後からそこに合わせるものになっていたのです。
今でも覚えているのは、共働きで小さなお子さんが二人いるご家族のことです。営業担当は容量の大きい機種を勧めていましたが、実際にその家庭の生活時間を聞いてみると、日中は誰もいない時間帯が長く、夜間の使用量もそれほど多くはありませんでした。もし先に暮らし方を聞いていれば、もう一段小さな容量で十分な提案ができたはずです。結果的にオーバースペックな設備を勧めてしまったこの記憶は、今も私の中に、苦い教訓として残っています。
比較表を否定したいわけではありません
とはいえ、容量表による比較そのものを否定するつもりはありません。仕入れの安定性やアフター対応を考えれば、標準化されたラインナップを数機種に絞り込んでおくことには、経営上の合理性があります。
実際、2026年からは低圧のVPP(バーチャルパワープラント)が本格化し、家庭用蓄電池は「停電時の予備電源」から「電力を売買する資産」へと役割が広がっていくと言われています。この流れの中では、性能・容量・保証年数を横並びで比較できる形に整理しておくことも、工務店にとって必要な準備のひとつでしょう。
加えて2025年4月には、省エネ基準への適合が原則すべての新築住宅に義務化されました。UA値や一次エネルギー消費量の計算には、太陽光や蓄電池による自家消費分も算入できるようになっています。制度上、これらの設備は「基準を数値で満たすための部品」としての側面を、以前より強く帯びるようになりました。
数値をクリアするための設備選定と、暮らしに合わせた設備選定は、本来別の話のはずです。ですが現場では、同じ一枚の見積書の中でまとめて語られてしまいがちだと感じています。私が言いたいのは、比較表を作るなという話ではなく、その表をお客様に見せる前に、この家はどう電気を使う家なのかを聞く順番を、飛ばしてはいけないということです。
ある工務店の社長からは、こんな話を聞いたことがあります。その会社では以前、蓄電池をメーカー横並びの一覧表だけで提案していたところ、契約率が伸び悩んでいたそうです。そこで営業のやり方を変え、まず在宅時間や停電時に絶対に止めたくない家電をヒアリングしてから容量を提示する形にしたところ、お客様から「ようやく自分の家の話として聞けた」と言われるようになったといいます。設備そのものは変えず、伝える順番を変えただけで、お客様の納得感がまるで違ってきたのです。

あなたの会社の提案は、どこから始まっていますか
あなたの会社では、蓄電池や太陽光の提案は何から始まっているでしょうか。容量とメーカー名を並べた比較表からでしょうか。それとも、その家族が何時に家にいて、停電した夜に何を止めたくないのかという話からでしょうか。
もし前者から入っているとしたら、一度、営業の最初の数分間だけ、暮らし方を聞く時間に変えてみてほしいと思います。私はコミュニティビルダー協会の活動の中で、蓄電池の提案を「容量選び」ではなく「暮らしの中の停電対策」として説明し直しただけで、お客様からの質問の質が変わったという工務店の話を聞いたことがあります。同じ設備、同じ価格帯でも、伝える順番ひとつで、お客様の受け止め方はまったく違うものになるのだと思います。
蓄電池の普及率が今後伸びていくこと自体は、間違いないだろうと思います。ただその伸びを、暮らしに寄り添った提案で取りにいく工務店と、比較表の値引き合戦に静かに巻き込まれていく工務店とに、これから分かれていくはずです。
容量表を渡す前に、まず暮らしの話を聞く。それだけのことですが、私はそこに、これからの設備提案の分かれ目があると思っています。

