非住宅の木造化を、私は他人事だと思えません

学校や事務所、店舗といった非住宅建築物の木造化率が、まだ15%程度にとどまっているという数字を見ました。4階建て以上の中高層建築物に至っては、1%にも届いていません。一方で、1〜3階建ての低層住宅はすでに8割を超えて木造が当たり前になっています。この差を見て、正直に言うと私は、「非住宅の木造化なんて、住宅専門の工務店には関係のない話だ」と考えている経営者が意外に多いのではないかと感じました。しかし私は、この考え方こそが、これからの木材確保において自社の首を絞めることになりかねないと思っています。

製材所は、住宅のためだけに機械を動かしていたわけではありませんでした

こう考えるのは、私自身の実体験があるからです。前職の東日本ハウス時代、茨城県南部の牛久市と竜ヶ崎市にまたがるエリアの住宅展示場に勤めていたことがあります。当時、近隣に小さな製材所があり、担当していた大工さんの紹介で、何度かその製材所に木材の相談に行ったことがありました。そこの社長がふと漏らした言葉を、今でも覚えています。「うちが機械を止めずに済んでいるのは、住宅の注文だけじゃない。近くの倉庫や集会所の仕事が入ってくれるからだ」と。

当時の私は、木材は住宅会社が発注する分だけを製材所が挽いているのだと、単純に思い込んでいました。しかし実際には、住宅以外の建築物からの発注が、製材所の設備を止めないための調整弁になっていたのです。住宅の受注が落ち込む時期でも、非住宅からの注文が入っていれば、製材所は乾燥機やプレカット機械を稼働させ続けられる。逆に非住宅の仕事が細れば、住宅用の木材を挽く体制そのものが痩せていく。この構造を、あの社長の一言で初めて実感として理解しました。

住宅展示場の営業として、毎月の来場者数と契約棟数ばかりを追いかけていた当時の私にとって、製材所の稼働状況などというものは、正直まったく視界に入っていませんでした。しかし今振り返ると、あのとき製材所を支えていた非住宅の仕事の一つひとつが、翌年、翌々年に私が扱う住宅用の木材の値段や納期にも、静かに影響を与えていたはずです。目の前の契約しか見ていなかった自分に、当時のお客様は少し物足りなさを感じていたかもしれません。

それでも、非住宅の木造化がすぐに追い風になるとは言い切れません

とはいえ、非住宅の木造化が進んだからといって、それがそのまま住宅工務店の受注増につながるとは、私も単純には思っていません。中高層建築物の木造化は、CLTなどの新しい工法や、燃えしろ設計といった技術的な知見を持つ大手ゼネコンやゼネコン系の設計事務所が主導する世界です。令和6年4月からは3,000平方メートルを超える大規模木造建築物でも燃えしろ設計が可能になりましたが、これを扱えるだけの体制を持つ地域工務店は、まだ多くありません。ここで「非住宅も自分たちの仕事だ」と気負う必要はないと思います。

私が伝えたいのはむしろ逆の角度からのことです。低層住宅の木造軸組工法においてすら、使われている木材のうち国産材の割合はまだ5割程度にとどまっているというデータがあります。つまり住宅業界自身が、まだ国産材を使い切れていない。そうした状況の中で、非住宅分野が国産材需要の受け皿として育っていくことは、住宅業界にとっても、地域の製材所や乾燥施設という共有インフラを維持してもらえるという意味で、むしろありがたい話のはずです。他人事どころか、静かに自分たちの足元を支えてくれている動きだと、私は捉えています。

あなたの地域で、非住宅の木造化はどう進んでいますか

あなたの会社がある地域で、学校や公民館、事務所といった非住宅建築物の木造化が、この数年でどれくらい進んでいるか、把握しているでしょうか。そして、その仕事を受けているのがどの製材所で、その製材所からあなたの会社も木材を仕入れているのか。この二つがつながっているかどうかを、一度確かめてみてほしいと思います。

つながりが見えてくれば、非住宅の木造化のニュースは、遠い業界の話ではなく、自社の木材調達の安定性に関わる話として読めるようになるはずです。地元の製材所や森林組合の担当者と、住宅以外の受注状況について雑談する機会をつくることも、遠回りに見えて、実は木材確保の備えになると私は思っています。

コミュニティビルダー協会の活動で各地の工務店を訪ねると、地元の非住宅木造案件を「うちには関係ない仕事」と言い切る経営者と、「あの現場が動いているから、来年の木材の手当ても少し楽になりそうだ」と語る経営者と、両方に出会います。同じ地域に立地していても、この二人の間には、木材という資源をどれだけ自分ごととして見ているかという、姿勢の差があるように感じます。

山を支えているのは、住宅だけではありません

非住宅の木造化率がまだ低いという数字は、裏を返せば、これから木材需要が積み増されていく余地が大きいということでもあります。私はその伸びしろを、住宅業界にとっての脅威ではなく、木材供給網全体を支える仲間が増えていく話として受け止めたいと思っています。

あの日、製材所の社長が漏らした一言がなければ、私は今でも「木材は住宅会社が支えている」と思い込んだままだったかもしれません。住宅と非住宅、それぞれの現場は離れていても、同じ山、同じ製材所でつながっている。そのことを忘れずにいる工務店でありたいと、今は思っています。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編