家は、静かな炭素の貯蔵庫だと思っています

木造住宅一戸あたり、平均して約4トンの炭素が使われた木材に固定され、二酸化炭素に換算すると約14トンになるという試算を知りました。令和4年の木造軸組工法住宅の着工戸数、約38万戸をこの数字に掛け合わせると、その年に新しく建てられた住宅だけで、およそ720万トンのCO2が、木材という形で静かに都市の中に蓄えられたことになります。林野庁は近年、この炭素貯蔵量を建築物ごとに算出し、表示するためのガイドラインまで整備しています。私はこの数字を知って、住宅は性能やデザインだけでなく、実は「炭素の貯蔵庫」としても語れる資産なのだと、あらためて確信しました。

性能表しか見ていなかった自分がいました

こう思うのは、私自身の実感からです。以前、私が来場されたお客様に説明していたのは、断熱等級や耐震等級といった、性能表に並ぶ数字ばかりでした。使っている木材の量や種類は説明しても、その木材がどれだけの炭素を抱えているかという発想は、正直、頭の片隅にもありませんでした。

木材は、育つ過程で大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素として体内に固定しながら成長します。伐採されて住宅の柱や梁になった後も、その炭素は燃やされたり分解されたりしない限り、建物の中に何十年も貯蔵され続けます。つまり住宅は、完成した瞬間から解体されるまでの間、ずっと二酸化炭素を抱え続ける「貯蔵庫」であり続けるのです。当時の私は、性能の数字を伝えることに必死で、この静かな事実にまったく気づいていませんでした。

断熱等級や耐震等級は、住んでからの安心を保証する数字です。それに対して炭素貯蔵量は、その家がすでに、建てられた瞬間から地球に対して果たしている役割を示す数字だと思います。前者しか語らないというのは、いわば家の「これから」だけを語って、「すでに果たしている貢献」を語り忘れているようなものです。もし当時の私がこの視点を持っていたら、性能表の隣にもう一行、木材が抱えている炭素の話を添えられたはずです。今になってそう思うと、伝えられたはずの言葉を、ずいぶん長く見落としていたのだと感じます。

とはいえ、数字を見せるだけでは伝わりません

一方で、炭素貯蔵量の数字を計算式ごと資料に載せれば、それだけでお客様の心が動くとも思いません。ガイドラインが示す計算式を見せられても、多くのお客様にとっては暗号のようなものでしかないはずです。大切なのは、数字そのものではなく、その数字を暮らしの実感に翻訳する工夫だと思います。

私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、完成した住宅の炭素貯蔵量を計算し、「この家は、大人が一生かけて吐き出すCO2のおよそ何年分を、静かに抱えています」という言葉とともに、引き渡し時に一枚の資料を渡している工務店の話を聞いたことがあります。数字を東京ドームの体積や家庭の年間排出量に置き換えて見せる手法は、ガイドラインでも紹介されていますが、その工務店はさらに一歩進めて、施主自身の暮らしに引き寄せた言葉に変えていました。受け取った施主は、その資料を家族に見せて回ったそうです。証明書としての数字と、暮らしの物語としての翻訳。この両方があって初めて、炭素貯蔵という言葉は、お客様の記憶に残るのだと思います。

ただ、この工夫にも限界はあると思っています。炭素貯蔵量の話ばかりを前面に押し出せば、今度は「環境に良さそうだから」という漠然とした印象だけが残り、肝心の暮らしやすさの話が後回しになってしまいかねません。あくまで性能やデザインの話を土台に置きながら、炭素貯蔵量はその土台をもう一段深くする材料として添える。順番を間違えないことが大切だと思います。

あなたの会社は、自社の家が抱える炭素の量を答えられますか

あなたの会社では、標準仕様の家一棟あたり、どれだけの炭素を貯蔵しているか、計算したことがあるでしょうか。林野庁が公開している簡易な計算シートを使えば、専門知識がなくても、おおよその数字は算出できます。まずは自社のモデルプランで一度、試算してみることをお勧めします。

出てきた数字は、営業資料の片隅に載せるだけで終わらせず、契約前の打ち合わせで、施主の暮らしに引き寄せた言葉に変えて伝えてみてください。断熱性能や耐震性能の話とはまったく違う角度から、木の家を選ぶ理由に、もう一つの重みが加わるはずです。

家は、語られるのを待っている貯蔵庫です

炭素貯蔵量という言葉は、まだ多くの人にとって、なじみの薄いものかもしれません。しかし、木造住宅が一棟ごとに、静かに何トンもの炭素を抱え続けているという事実は、これからの家づくりを語るうえで、欠かせない材料になっていくのではないかと、私は思っています。

かつて性能表の数字しか語れなかった自分を思い出すと、あの頃見えていなかった木の力を、今はもう少し深く語れるようになりたいと感じます。お客様に渡す資料の一枚が、単なる仕様書ではなく、その家が静かに抱えている炭素の物語になる。そんな家づくりが、少しずつ当たり前になっていけばと願っています。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編