着工が増えたという数字を、景気回復と読まない

国土交通省の発表によると、2026年8月の新設住宅着工戸数は前年同月比6.1%増の6万3,974戸で、5カ月連続の増加になったそうです。見出しだけを追えば、住宅市場に明るい兆しが見えてきたように感じるかもしれません。

けれど私は、この数字を「景気が戻ってきた」と受け止めるのは早いと考えています。むしろ、この増加の中身を自分の地域に引き寄せて読めるかどうかで、来年の動き方が大きく変わってくるのではないかと思っています。

前年が落ち込んでいただけ、という事実

報道では、この増加の理由として、前年4月に新築住宅の省エネ基準適合が義務化され、一時的に前年同時期の着工が減った反動だと説明されていました。つまり、比べている相手がそもそも低かった、ということです。

協会の活動を通じて全国の工務店の方と話していても、「着工が増えて忙しくなった」という声は、正直なところあまり聞きません。むしろ聞こえてくるのは、「問い合わせは戻らないのに、資材と人件費だけが上がっていく」という声の方です。統計の数字と現場の実感のあいだに、少しずれがあるように私には感じられます。

反動増という言葉は、言い換えれば「元の水準に戻りつつある」という意味でしかありません。義務化の前後で一度大きく落ち込んだ数字が、少しずつ持ち直している。そう読むのが自然だと思います。前年比のプラスは、そのまま需要の拡大を意味するわけではないのです。

中身を見ると、そのずれの理由も見えてきます。貸家は6.5%増、分譲住宅は6.4%増と伸びが大きい一方、注文住宅は1.0%増にとどまっています。地域工務店の主戦場である注文住宅は、ほとんど横ばいに近いと言ってよいかもしれません。

貸家や分譲が伸びているのは、主に都市部で、投資や供給の都合が動いているからだと考えられます。家を建てたいと考える個人の数が増えているわけではない。この違いを見誤ると、「市場が回復してきたから、広告を増やそう」「人を採ろう」といった判断を、根拠の弱いまま下してしまうおそれがあります。

地域によって、まったく違う景色が広がっている

もう一つ見落としたくないのが、地域による差です。首都圏は9.2%増、中部圏は11.0%増、近畿圏は12.3%増と大きく伸びています。一方で、三大都市圏以外の「その他地域」は2.0%減でした。

全国の数字が伸びていても、地方では減っている。これは、地方で家づくりを支えている工務店にとって、とても大事な事実だと思います。全国ニュースの「5カ月連続増加」という言葉は、地方の工務店の経営判断の材料としては、ほとんど役に立たないのかもしれません。

ただ、だからといって悲観ばかりする必要もないと私は思っています。省エネ基準の義務化を乗り越え、新しい基準での家づくりに慣れた会社にとっては、ここからが本当の勝負です。前年の混乱期に、申請や設計の手間に追われて動けなかった分、今年は落ち着いて提案の質を磨ける時期でもあります。省エネ性能の説明や、光熱費のシミュレーションを自分たちの言葉で語れるようになった会社は、それだけで一歩先を歩いています。数字が横ばいだからこそ、一棟一棟の満足度で差がつく局面に入っているのではないでしょうか。

あなたの商圏の数字を、自分で確かめていますか

あなたの会社では、全国の着工統計ではなく、自社の商圏の数字を毎月確かめているでしょうか。都道府県や市町村単位の着工戸数は、多くの自治体が公表しています。その中の持家、つまり注文住宅に近い数字がどう動いているかを見るだけでも、全国ニュースとはまったく違う景色が見えてくるはずです。

ハウジングバザールでも、国土交通省の住宅着工統計をもとに地域ごとの動きを見られる仕組みを整えています。こうしたデータを、営業会議の最初の五分で確認する習慣をつけるだけで、「なんとなく忙しくない」という感覚を、「この地域では持家が何割減っている」という具体的な認識に置き換えられます。

その上で、自社の受注件数や問い合わせ件数の推移と、地域の着工の推移を並べてみてほしいと思います。地域全体が減っている中で横ばいを保っているなら、それは確かな実力です。逆に、地域が伸びているのに自社だけが落ちているなら、どこかに見直すべき点があるはずです。

地域の数字を見るときは、一か月だけで判断しないことも大切です。単月の着工は、大きな分譲地の着工が重なっただけで跳ね上がることがあります。三か月、半年と並べて流れを見る。その習慣が、思い込みによる判断を防いでくれます。

数字を正しく読むことは、悲観するためでも、楽観するためでもありません。自分たちの地域で、次の一年に何が起きそうかを冷静に見通すためです。全国ニュースの見出しに一喜一憂せず、足元の数字と向き合う。そんな工務店が、変化の大きい時代を静かに生き残っていくのだと私は考えています。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編