接着剤一つ入らないだけで、現場が止まる時代です
ナフサショック。プラスチックや接着剤、塗料、断熱材といった住宅資材の基礎原料になる「ナフサ」の供給が、地政学的な要因によって不安定になり、価格が数か月で約2倍にまで急騰しているといいます。ユニットバスやキッチンなど住宅設備の納期が遅れ、現場では「接着剤一つ入らないために工事が止まる」という事態まで起きています。私はこのニュースを見て、住宅の品質や価格だけでなく、工期という約束そのものが、今や外部の資源事情に大きく左右される時代になったのだと、あらためて感じています。

「予定通り」が当たり前だと思っていました
こう思うのは、私自身の前職での経験があるからです。ハウスメーカー時代、工期の遅れといえば、天候不順や職人の手配といった、現場の中で完結する理由がほとんどでした。資材そのものが手に入らないという事態は、私が現役だった頃には、ほとんど想像したことがありませんでした。工期は会社が管理できるものであり、予定通りに進むのが当たり前だという感覚が、当時の私にはあったのだと思います。
ナフサショックのように、原油の輸入ルートという、住宅とは一見関係のない国際情勢が、接着剤一つの入荷にまで影響するという構造は、当時の私の想像力の外にありました。日本の石油全体の備蓄は250日分ある一方、ナフサ単体の備蓄はわずか2〜3週間分しかないという事実も、今回初めて知りました。住宅という商品が、これほど長く複雑なサプライチェーンの先端に成り立っているのだと、あらためて突きつけられた思いです。工期を守るという、営業担当にとって当たり前だった約束が、実はこれほど脆い土台の上にあったのだと、今なら分かります。
当時、工期が遅れそうになると、私たちはまず現場監督や職人の手配を疑いました。誰かの怠慢や見通しの甘さを探すような空気さえあったことを覚えています。しかし今回のような資材そのものの供給不安は、現場の誰か一人の責任ではどうにもなりません。原因を人に求める前に、まず何が起きているのかを正確に把握する。当たり前のようで、当時の私たちにはできていなかったことだと思います。
とはいえ、悲観してばかりもいられません
一方で、資材供給の不安定さを、ただ悲観して受け入れるしかないとも思いません。2026年に入ってからは、供給混乱は徐々に緩和されつつあり、主要メーカーの受注再開や納期回答の再開も進んでいるといいます。完全に正常化したわけではありませんが、状況は固定されたものではなく、変動し続けているという事実も、忘れてはならないと思います。
こうした状況は、いつまた別の資材で再発するか分かりません。大切なのは、工期の遅延を隠したり、あいまいにごまかしたりするのではなく、お客様に早い段階で正直に伝える体制を整えておくことだと思います。特にユニットバスやキッチンなど、生活の始まりに直結する設備ほど、早めの情報共有が求められます。私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、設備の納期に不透明さがある案件では、契約時点で「納期に変動が生じる可能性があります」という一文を、あえて明記するようにしている工務店の話を聞いたことがあります。悪いニュースを先に伝えることは勇気のいる判断ですが、後から遅延を告げるよりも、お客様の受け止め方はずっと穏やかだといいます。「聞いていなかった」という不信感さえ生まなければ、多少の遅れは受け入れてもらえることの方が多いそうです。予測できない外部要因があるからこそ、伝え方の誠実さで信頼を守るという発想が、これからますます重要になっていくのだと思います。

あなたの会社は、納期の不確実性をどう伝えていますか
あなたの会社では、資材や設備の納期に不透明さがあるとき、それをお客様にどのタイミングで、どんな言葉で伝えているでしょうか。もし「遅れが確定してから伝える」という対応になっているとしたら、一度、契約時点で伝えられる情報がないか、見直してみることをお勧めします。
すべてを正確に予測することはできなくても、「今こういう状況にあります」と早めに共有するだけで、後々のトラブルを大きく減らせるはずです。営業担当だけでなく、現場監督とも情報を共有し、社内で足並みをそろえておくことも忘れずにいたいところです。
予測できないからこそ、伝え方を磨きたい
資材の供給が不安定になる原因は、多くの場合、一工務店の努力ではどうにもならない国際情勢や資源事情にあります。だからこそ、私たちにできることは、その不確実性を隠さず、正直に伝え続けることなのだと思います。
かつて工期は会社の中だけで完結するものだと思い込んでいた自分を思い出すと、住宅という商品が、これほど広い世界とつながっていることに、今はむしろ身の引き締まる思いがします。予測できない時代だからこそ、誠実に伝える力を磨いていきたいと思っています。
原因を人のせいにして納得していた、あの頃の自分に伝えたいことがあります。工期の遅れの理由が誰にも分からないときこそ、分からないことを分からないと正直に言える勇気が、一番の誠実さなのだと。

