利益が出ているのに、資金が尽きる怖さを知っていますか
工務店の資金繰り管理に関するコラムで、黒字倒産という言葉を読みました。帳簿の上では利益が出ているのに、資金がショートして経営が破綻してしまう状態のことです。住宅工事の入金は、契約時金・着工時金・上棟時金・引き渡し時金と、何回かに分けて入ってくる一方、人件費や材料費は先行して出ていきます。このサイクルの長さこそが、工務店経営における資金繰りの本当の怖さなのだと、私はこの記事を読んで、あらためて感じました。利益が出ているかどうかと、会社が存続できるかどうかは、実は別の問題なのです。

「利益は出ているから大丈夫」という言葉の危うさ
こう思うのは、私自身が前職で見てきた光景があるからです。東日本ハウス時代、支店の会議では、契約棟数と利益率の数字ばかりが報告され、資金の出入りのタイミングについて議論される場面は、正直あまり記憶にありません。「今期は利益が出ているから大丈夫」という言葉を、上司が口にするのを何度も聞きましたが、その裏側で、いつどれだけの現金が必要になるかという話は、営業の現場にはほとんど下りてきませんでした。
後になって、取引先の一社が、契約は好調だったにもかかわらず、資金繰りにつまずいて経営が立ち行かなくなったという話を耳にしたことがあります。契約棟数も利益率も悪くなかったはずなのに、なぜそんなことが起きるのか、当時の私には理解できませんでした。今なら分かります。棟数が増えれば増えるほど、先に出ていく人件費や材料費も同時に膨らみ、入金までの期間中、会社が立て替え続けなければならない金額も大きくなっていく。契約が順調であることと、手元の資金が足りていることは、まったく別の指標だったのです。
当時の私にとって、営業成績とは契約書にハンコをもらった瞬間に完結するものでした。そこから先、工事が進み、入金があり、外注先への支払いが発生するという一連の流れは、経理部門の仕事であって、自分には関係のない話だと思っていました。今振り返れば、契約を取ること自体は、会社の資金繰りにとってのゴールではなく、むしろ長い立て替え期間の始まりに過ぎなかったのです。
とはいえ、資金繰り表さえ作ればいいわけでもありません
一方で、資金繰り表を作成しさえすれば、それで安心というわけでもないと思っています。記事では、最低でも2〜3か月先、理想的には6〜12か月分の資金繰り表を作ることが勧められていましたが、表を作ること自体が目的化してしまっては意味がありません。大切なのは、その表を見ながら、入金条件そのものを見直す勇気を持てるかどうかだと思います。
記事で紹介されていた、契約時金の割合を10%から25%程度に引き上げるという工夫は、地味に見えて、実は資金繰りの安定に直結する経営判断です。わずか15ポイントの差でも、着工前に手元に残る資金の余裕は大きく変わってきます。私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、入金条件の見直しを提案したところ、一部のお客様から難色を示された経験を持つ経営者の話を聞いたことがあります。それでも、丁寧に理由を説明し続けた結果、多くのお客様には理解してもらえたそうです。資金繰りの安定は、社内の努力だけでなく、お客様との条件交渉という、勇気のいる一歩の先にあるのだと感じました。入金条件は「昔からこうだから」と変えずにきた工務店ほど、見直しに着手する際の心理的なハードルが高いようにも思います。

あなたの会社は、半年先の資金繰りを見えていますか
あなたの会社では、今契約している案件の入金と支出のタイミングを、半年先まで見通せているでしょうか。もし「今月は大丈夫」としか答えられないとしたら、一度、直近の契約案件について、入金予定日と支出予定日を並べた簡単な表を作ってみることをお勧めします。
数字を並べるだけで、これまで見えていなかった「谷」の時期に気づけることがあります。谷が見えれば、対策を考える時間も生まれます。契約が順調に増えている時期ほど、実はこの谷が深くなりやすいという逆説も、あわせて覚えておいてほしいと思います。
利益と現金は、別の顔をしています
利益が出ているという安心感は、時に、資金繰りという別の危険を覆い隠してしまいます。契約棟数が増えるほど経営は安定していくように見えて、実は先に出ていくお金も同時に増えているという構造を、忘れてはならないと思います。
かつて「利益は出ているから大丈夫」という言葉を、疑いもせず聞いていた自分を思い出すと、あの言葉の裏側にどれだけの資金繰りのリスクが隠れていたのか、今になって空恐ろしくなることがあります。利益の数字だけでなく、現金の流れそのものを、経営者自身の目で確かめ続けたいと思っています。
営業として契約を取ってくることに必死だったあの頃の私に、もし今伝えられるなら、その契約書の先に、どれだけの立て替え期間が待っているかも、あわせて意識してほしいと言いたいです。契約の数だけでなく、資金の流れまで見渡せる営業担当が増えることが、会社全体の体力を静かに強くしていくのだと思っています。

