建物の配置を決めずに、契約していませんか
正直に言うと、私は「契約後の設計打ち合わせが長引く」という工務店の悩みを聞くたびに、その原因を設計担当者の優柔不断さに求めるのは、少し違うのではないかと思っています。工務店の味方というメディアに、51人の設計担当者を対象にした打ち合わせ映像の分析コラムが載っていました。そこでは、契約前の営業段階で建物の配置がきちんと詰められていないまま契約に至り、契約後の設計打ち合わせで初めてお客様が配置の重要性に気づき、一回の打ち合わせに30分以上を費やすケースが多発していると指摘されていました。これは設計の技術の問題ではなく、営業と設計の間で、何を「契約前に決めるべきこと」とするかの線引きができていない、という組織の問題だと私は見ています。

「配置は設計がなんとかします」と言っていた頃
前職の住宅メーカーで、茨城県南部、牛久市や竜ヶ崎市のモデルハウスに立っていた頃、契約を急ぐあまり、建物の配置について曖昧なまま契約書にサインをいただいたことが何度もありました。お客様に「駐車場は二台分、南側に庭を」とだけ伝えられ、「配置の細かいところは設計の方でうまく考えてくれますから」と答えて、契約を進めていたのです。
ところが契約後、設計担当者とお客様の初回打ち合わせに同席したとき、空気が一変する場面に何度も立ち会いました。敷地図を広げた瞬間、お客様から「隣の家の窓とこちらの窓が向き合ってしまわないか」「駐車場に車を二台並べたら、玄関までの通路が狭くならないか」といった質問が次々に飛んできます。設計担当者は現地を見ていないことも多く、その場で即答できず、「持ち帰って検討します」を繰り返す。お客様の表情から、契約前の安心感が少しずつ曇っていくのが分かりました。
今振り返れば、私が契約前に省いていたのは、配置図そのものではなく、配置に関する「お客様の懸念」を聞き出す作業だったのだと思います。隣家との視線、駐車のしやすさ、庭に出たときの日当たり。お客様はすでに具体的な場面を思い描いていたのに、私はそれを拾わずに契約を急いでいました。設計担当者が優柔不断に見えたとしても、実際には、営業が聞いていなかった懸念に、その場で初めて向き合わされていただけだったのです。
営業がすべて決めればいいという話でもない
ただ、ここで振れ幅を持たせておきたいと思います。契約前の営業がすべてを決め切ってしまえばいいという話でもないと、私は考えています。営業が配置から仕様まで細部を決めすぎると、設計の専門性を発揮する余地がなくなり、むしろ型にはめた提案になってしまう危険があります。
先ほどのコラムでは、設計担当者が「一長一短がありますので、最終的にはお客様が決めてください」と判断を避ける場面が、打ち合わせの長時間化の一因として挙げられていました。これも、設計本人の優柔不断さというより、契約前にどこまでを営業が「仮決定」として引き継ぎ、契約後の打ち合わせで何を「深める」べきかという境界線が、社内で言語化されていないことの表れではないかと思います。同じコラムでは、お客様がインターネットの口コミ情報を持参し、設計担当者がその知識量に対応しきれず苦慮する場面があったことも紹介されていました。お客様の情報量は年々増えているのに、営業と設計の間の情報の受け渡しが、昔とほとんど変わっていない会社も多いのではないでしょうか。
コミュニティビルダー協会の活動で各地の工務店の商談記録を見せていただく機会がありますが、契約前後の打ち合わせが短く済む会社ほど、営業が「お客様がこだわっている場面」を一枚のメモにして設計に渡す習慣を持っている、という印象があります。配置図そのものではなく、お客様の気持ちの引き継ぎができているかどうかが、差を生んでいるように感じます。

あなたの会社では、何が引き継がれていますか
あなたの会社では、契約前の営業担当者が、設計担当者に何を引き継いでいるでしょうか。配置図の有無だけでなく、「お客様が一番気にしていたのは何だったか」という一行のメモが、契約書と一緒に渡っているでしょうか。
もし営業と設計がそれぞれ別の場所でお客様と向き合い、契約という一枚の紙だけでバトンを渡しているなら、その紙に書かれていない懸念は、契約後の打ち合わせで必ず噴き出してきます。そこで初めて向き合うのか、契約前に一度でも拾っておくのか。その差は、打ち合わせの時間だけでなく、お客様が最後まで気持ちよく契約を続けてくれるかどうかにも、静かに影響しているのだと思います。
引き継ぎの質を、営業力の一部として見直したい
営業と設計は、どうしても別の部署、別の役割として扱われがちです。しかし私は、両者の間の引き継ぎの質そのものを、営業力の一部として見直す必要があると思っています。
配置図を描くのは設計の仕事かもしれません。しかし、お客様がその配置に何を期待しているかを聞き出すのは、間違いなく営業の仕事です。あの頃、曖昧な説明で契約を急いでいた自分に、今ならそう伝えたいと思っています。

