一枚の画像の、好きな理由を聞けているか
営業・受注の現場で最後に差がつくのは、提案力や説明のうまさではなく、「お客様のイメージを言葉にさせる力」だと、私は考えています。InstagramやPinterestの画像をお客様が見せてくれた瞬間に、その会社の受注力はほぼ見えてしまう。大げさに言っているのではなく、本気でそう思っています。画像をそのまま受け取るか、画像の奥にある理由を聞き出すか。その一歩の差が、契約後の満足度を大きく左右します。

画像を鵜呑みにした、新人時代の失敗
こう思うようになったのには、私自身の前職での経験があります。前職の住宅メーカーで、茨城県南部の牛久市・竜ヶ崎市エリアの住宅展示場に配属されていた新人の頃、あるお客様が雑誌の切り抜きを一枚持ってきてくれました。リビングの吹き抜けと、木目の表しが印象的な写真でした。私は「同じイメージで進めますね」とだけ答え、素材や寸法をなるべく近づけることに力を注ぎました。
ところが完成見学会の日、お客様の表情はどこか浮かないものでした。木目も吹き抜けも、写真に近いものはできていたはずなのに、「なんというか、思っていたのと違う」と言われたのです。後から振り返ると、お客様が本当に惹かれていたのは木目そのものではなく、写真の中の「光の入り方」だったのだと思います。私はそこを一度も聞いていませんでした。見た目の要素を真似ることと、お客様が感じていた空気感を再現することは、まったく別の作業だったのです。
画像の裏には、値引きへの不信感まで隠れている
この手の「イメージのズレ」は、今も変わらず起きていると思います。工務店の味方というメディアに、長年消費者相談の窓口にあたってきた方の記事が掲載されていました。そこでは、お客様がInstagramやPinterestの画像を複数枚持参し、設備や建具まで事細かに指定したにもかかわらず、完成後に「全体のバランスが何となく違う」と感じてしまった事例が紹介されています。設備は画像の通りにできていても、ドア枠のデザインなど、指定していない部分が思いのほか従来的な印象になり、全体の調和が崩れてしまったというのです。
同じ記事では、別のお客様が、競合に決めた後になって、ある地域工務店から提示された600万円という値引き額の大きさに、却って不信感を覚えたという相談も紹介されていました。値引き額の大きさそのものより、「最初の見積もりは何を根拠にしていたのか」という疑問が残ったことが、不信感の正体だったようです。これもやはり、お客様が口にした金額や画像という「表面の情報」だけを追いかけ、その裏にある問いを聞き取れていなかった結果だと、私は見ています。

画像に頼りすぎず、画像を手がかりにする
とはいえ、画像そのものを軽視してよいとも思いません。お客様が自分の希望を言葉だけで正確に説明することは、そもそも難しい作業です。画像は、お客様自身もまだ言語化できていない好みを拾い上げるための、貴重な手がかりです。否定すべきは画像ではなく、「画像の通りに作れば満足してもらえる」という営業側の思い込みの方です。
大切なのは、画像を見せてもらった瞬間に、もう一歩踏み込んだ問いを重ねられるかどうかだと思います。「この写真の、どこが一番好きですか」「似たような写真を他にも持っていますか」。この二つの問いだけでも、お客様の中にある優先順位は、思いのほかはっきりしてきます。木目が好きなのか、光の入り方が好きなのか、それとも奥行きの見せ方が好きなのか。答えによって、提案の軸はまったく変わってきます。
あなたの会社には、画像を聞き取るための型がありますか
あなたの会社の初回接客では、お客様が画像を見せてくれたときに、どんな質問を重ねているでしょうか。「素敵ですね、参考にします」で終わらせてしまっている担当者が、実は少なくないのではないかと思います。属人的な感性に任せきりにせず、「好きな理由を最低二つ聞く」といった、ごく簡単な型を決めておくだけでも、ヒアリングの精度は大きく変わるはずです。
一度、過去の失注案件を振り返ってみてほしいのです。契約に至らなかった理由の欄に「イメージが合わなかった」とだけ書かれているものが、どれくらいあるでしょうか。そこをもう一段深く、「何が、どう合わなかったのか」まで記録できていれば、次の接客で同じすれ違いを防げる可能性が高まります。
言葉にする手伝いを、忘れずにいたい
私はコミュニティビルダー協会の活動の中でも、各地の工務店の接客現場を見る機会がありますが、受注率の高い会社ほど、お客様の言葉を安易に鵜呑みにせず、もう一歩先まで聞き返す習慣を持っていると感じます。それは特別な営業テクニックではなく、お客様自身がまだ気づいていない希望を、一緒に言葉にしていく手伝いだと思うのです。
一枚の画像の向こうに、お客様の暮らしへの願いが隠れている。そのことを、営業の現場で忘れずにいたいと、私自身も改めて思っています。

