ZEHを「まだ先の話」だと思っていませんか

建材卸売会社の経営者が、取引先の工務店がZEH(ゼロエネルギーハウス)に真剣に取り組んでくれないと悩んでいる、という話を読みました。多くの小規模工務店は「まだそんなに急ぐ必要がない」という姿勢で対応を先送りにしているそうです。政府はすでに2030年までにZEHレベルの省エネ性能を義務化する方針を示していて、猶予期間は残り数年しかありません。私はこの話を読んで、ZEHへの対応の遅れは、単なる技術対応の問題ではなく、国産材利用とSDGsを応援する立場から見ても、見過ごせない問題だとあらためて感じています。

「性能」を数字で語れなかった自分を、今も思い出します

こう思うのは、私自身の前職での経験があるからです。東日本ハウス時代、茨城県南部の展示場で接客していた頃、私は正直、断熱性能やエネルギー消費量について、お客様にきちんと数字で説明できたことがほとんどありませんでした。カタログに書かれた等級をそのまま読み上げるだけで、その数字が暮らしの中で何を意味するのか、自分自身できちんと理解していなかったのです。当時のお客様の多くも、間取りやデザインには強い関心を持っていましたが、エネルギー性能について踏み込んだ質問をされることは稀でした。

今、コミュニティビルダー協会の活動を通じて工務店経営者と話していると、状況は大きく変わっています。ある経営者から、大手ハウスメーカーでZEHについて詳しい説明を受けたお客様が、その後訪れた別の工務店で「ZEHに対応していますか」と積極的に質問するようになった、という話を聞きました。お客様の知識が高まるほど、対応できていない工務店は、その場で信頼を失うリスクを負うことになります。かつて性能を数字で語れなかった自分を思い出すたびに、今この変化の速さに、危機感にも似た感情を覚えます。

当時の私がもし、断熱等級や一次エネルギー消費量を、暮らしの言葉に翻訳して説明できていたら、お客様との会話はもっと違うものになっていたはずです。性能の話を避けていたのは、知識がなかったからというより、その数字が持つ意味を、自分自身が実感として理解していなかったからだと思います。数字を暗記することと、数字の裏にある暮らしの変化を語れることは、まったく別の力なのです。

とはいえ、焦って設備投資に走ればいいわけでもありません

一方で、ZEH対応を焦るあまり、十分な検証もなく高額な設備投資に走ればいいとも思いません。太陽光パネルや高性能な断熱材は、地域の気候や住宅の形状によって最適な仕様が異なりますし、無理な導入はコスト増を招き、結局お客様に転嫁せざるを得なくなります。大切なのは、義務化までの数年をどう使うかという計画性です。

私は協会の活動で、ZEH対応を単なる設備の追加ではなく、地域材の活用と組み合わせて進めている工務店の話を聞いたことがあります。設備をただ導入するだけでなく、なぜその工法を選んだのかを、山や木材のストーリーとあわせてお客様に語れることが、その会社の一番の強みになっていました。断熱性能を高める工程で、地元の木材を使った付加断熱の工法を採用し、性能向上と地域材利用を同時に実現していたのです。国が求める省エネ基準への対応と、私たちが大切にしている国産材利用は、決して別々の課題ではありません。むしろ、両方を同時に考えることで、他社にはない提案の厚みが生まれるのだと思います。義務化への対応を、コストの話としてだけでなく、自社の強みを重ねる機会として捉えられるかどうかが、これからの数年を左右するはずです。

あなたの会社は、2030年までの数年をどう使いますか

あなたの会社では、ZEHレベルの義務化までの残り数年を、具体的な計画に落とし込めているでしょうか。「まだ先の話」で止まっているとしたら、一度、自社の標準仕様が現時点でどの水準にあるかを、数値で確認してみることをお勧めします。

そのうえで、断熱性能の向上を、地域材の活用や、他社にはない提案の切り口と組み合わせられないか、検討してみてください。義務化への対応を後ろ向きな作業として捉えるか、自社らしさを重ねる機会として捉えるかで、数年後の立ち位置は大きく変わってくるはずです。社内の勉強会で、担当者同士がZEHの数値を暮らしの言葉に置き換える練習をしてみるのも、遠回りに見えて確実な一歩になると思います。

数字を語れる会社に、私もなりたかった

ZEHへの対応は、今や避けて通れない課題です。ただ、それを単なる規制対応として片付けてしまうのはもったいないと、私は思っています。性能の数字は、暮らしの安心そのものであり、同時に、地域の資源をどう活かすかという私たちの理念とも、深いところでつながっています。

かつて数字を語れなかった自分を思い出しながら、今の若い世代の営業担当たちには、性能の話と、地域への思いを、同じ言葉で語れる存在になってほしいと、心から願っています。

義務化という外からの後押しを、単なる規制としてではなく、自分たちの理念を語り直す機会として受け止められるかどうか。その姿勢の差が、数年後、お客様からどう選ばれるかを静かに分けていくのだと、私は思っています。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編