契約後に解約されるのは、口下手のせいではありません

工務店の営業コラムで、契約後に解約が多い営業マンには共通する特徴がある、という話を読みました。細かい約束にルーズなこと、顧客の疑問に理屈で完全に言い負かしてしまうこと、そしてその結果、お客様が気軽に断りやすい空気ができてしまうこと。挙げられていたのは、話し下手とはむしろ逆の、応酬話法に長けたタイプの営業マンでした。私はこの話を読んで、契約後の解約という問題を「営業力の高さ」だけで語ってはいけないと、あらためて確信しました。話がうまく、押しが強いことは、時にお客様が断りにくい空気そのものを作ってしまうのです。

論破するように接客していた時期が、私にもありました

こう思うのは、私自身にも似た経験があるからです。前職の東日本ハウス時代、茨城県南部の展示場で働いていた頃、私は一時期、お客様からの質問や不安に対して、できるだけ早く、できるだけ完璧に答えることを、営業の腕の見せどころだと思っていました。「その点はご心配いりません、なぜなら」と、間髪入れずに理由を並べ立てる。お客様が黙り込むと、それは納得してくれた証拠だと、当時の私は解釈していました。

ところがある契約で、最終段階になって、お客様から突然キャンセルの連絡が入りました。理由を尋ねると、「話を聞いてもらえている感じがしなかった」とだけ言われました。私は正直、意味がよく分かりませんでした。質問にはすべて的確に答えていたはずだったからです。今振り返れば、私はお客様の不安に「答え」を返していただけで、その不安そのものに寄り添ってはいなかったのだと思います。理屈で疑問をつぶすことと、気持ちに応えることは、まったく別の作業だったのです。

上司に報告したとき、「お前の説明、いつも隙がないもんな」と言われたことを覚えています。当時はそれを褒め言葉として受け取っていましたが、今思えば、あれは半分皮肉だったのかもしれません。隙のない説明は、裏を返せば、お客様が口を挟む余地のない説明でもあります。会話ではなく、一方的な説明になってしまっていたことに、私はキャンセルの連絡を受けるまで、まったく気づいていませんでした。

とはいえ、的確に答えること自体は悪くありません

一方で、お客様の質問に的確に答えることそのものが、悪いことだとは思いません。曖昧な返答でお客様を不安にさせるよりは、正確な情報を伝える方がずっと誠実です。問題は、答えの正確さやスピードではなく、それを伝えるときの態度にあるのだと思います。理論で相手を黙らせるように話すのか、相手の不安を一緒に確認しながら話すのか。同じ内容でも、この違いでお客様が受け取る印象はまったく変わってきます。

私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、ベテランの営業担当ほど、あえて即答を避ける場面を持っていることに気づかされました。彼らは決して知識が足りないわけではなく、むしろ誰よりも詳しい人たちです。それでも、あえて考える間を見せる。その姿勢そのものが、お客様への敬意の表し方なのだと思います。ある営業担当は、お客様から難しい質問を受けたとき、「良い質問ですね、少し一緒に考えさせてください」と、あえて数秒の間を置いてから答えるそうです。その数秒が、お客様に「自分の疑問がきちんと受け止められた」という安心感を与える。答えの中身は変わらなくても、そこに至るまでの間の取り方一つで、お客様が断りやすいと感じるか、断りにくいと感じるかが変わってくるのだと思います。

あなたの会社の商談は、録画して見返したことがありますか

あなたの会社では、営業担当者の商談の様子を、客観的に振り返る機会を作れているでしょうか。契約後の解約を分析したコラムでは、自分の商談をビデオに撮って本人に見せる方法が効果的だと紹介されていました。話すスピードや、相手の言葉を遮るタイミングなど、自分では気づきにくい癖が、映像を通すとはっきり見えてくるものです。

もし録画が難しければ、商談後に「今日、自分は何秒くらい相手の話を待てただろうか」を、営業担当自身が振り返るだけでも効果はあるはずです。答えの正しさよりも、間の取り方に意識を向けてみてください。ベテランと若手がペアで商談に同席し、終了後にお互いの「間の取り方」だけを評価し合う、という仕組みを取り入れている会社もあると聞きます。

話す力より、待つ力を育てたい

契約後の解約という問題は、営業担当の知識不足や話術の低さが原因だと思われがちです。しかし実際には、むしろ話がうまく、答えが早すぎる担当者の方が、お客様の気持ちを置き去りにしてしまうことがあります。

論破するように接客していたあの頃の自分に、もし今声をかけられるなら、答えを急ぐ前に、まず少しだけ待ってみてほしいと伝えたいです。話す力を磨く以上に、待つ力を育てることの方が、実は難しく、そして大切なのだと、今の私は思っています。

あのとき解約したお客様が、最終的にどんな会社と、どんな家を建てたのか、私は知りません。ただ、隙のない説明よりも、少しの間や迷いを見せられる担当者の方が、実はお客様に選ばれやすいのかもしれないと、今は思うようになりました。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編