大手が撤退した跡地に、誰が展示場を出すか
大手ハウスメーカーの一社が、全国の住宅展示場のうち3割を閉鎖する計画を進める一方、別の急成長中の工務店グループは、逆に展示場を大幅に増やしているというニュースを読みました。増やしている側の役員のコメントが印象的で、「一番大きな理由は住宅展示場から大手ハウスメーカーが撤退しているからです。開いた場所に我々が展示場を出した」と語っていたそうです。私はこの対照的な二つの動きを見て、経営判断において本当に大切なのは、縮む市場の中でどう身を守るかではなく、他社の撤退が生む空白をどう読むかなのだと、あらためて確信しました。

縮小の理由を、私は「仕方ない」で片付けていました
こう思うのは、私自身が前職の東日本ハウス時代、市場が縮小していく局面を、ただ受け身で見ていた経験があるからです。茨城県南部の展示場で働いていた頃、来場者数が落ち込むたびに、社内では「時代が変わったから仕方ない」という空気が広がっていました。競合の撤退や閉鎖のニュースを耳にしても、それを自分たちの機会として捉える発想は、当時の私にはまったくありませんでした。市場が縮むというニュースは、ただ怖いものとしてしか受け止められていなかったのです。
今回のニュースで挙げられていた展示場を増やす工務店グループは、営業人材のレベルの高さと、デザイン性・設計力を組み合わせることで、急成長を実現しているといいます。大手が撤退した場所は、もともと集客力のある一等地であることが多いはずです。そこに、大手にはない機動力と提案力を持った会社が入り込む。撤退と拡大は、同じ市場の縮小という現象から生まれた、正反対の経営判断です。私が当時、市場の縮小をただの逆風としてしか見られていなかったのは、自社の中だけを見て、他社の動きから何かを読み取ろうとしていなかったからだと、今になって思います。
当時の上司たちも、決して無能だったわけではありません。ただ、意識のほとんどが「自社の来場者数をどう維持するか」に向いていて、「競合がどう動いているか」を戦略的に観察する視点は、会議の議題に上がることさえほとんどありませんでした。守りの数字ばかりを追いかけていると、視野そのものが自社の内側に閉じていってしまう。今振り返れば、あれは市場が縮小していたこと以上に、視野の狭さが招いた停滞だったのかもしれません。
とはいえ、拡大すればいいという単純な話でもありません
一方で、「空いた場所に出店すればいい」というだけの単純な話でもないと思っています。展示場を増やすには、それを支えられるだけの営業人材と、提案の質が伴っていなければなりません。空白地に出店しても、そこに見合う中身が伴っていなければ、大手が撤退した理由と同じ道をたどることになります。実際、ニュースで紹介されていた工務店グループも、出店の判断だけでなく、営業人材の育成と設計力の強化を並行して進めていたからこそ、この動きが機能していたのだと思います。
私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、地方の工務店経営者から、「大手が撤退した土地の情報を、真っ先に不動産会社から教えてもらえる関係を作っている」という話を聞いたことがあります。その方は、普段から地元の不動産会社や金融機関とこまめに顔を合わせ、地域の変化にいち早く気づけるネットワークを持っていました。派手な戦略というより、日頃の関係づくりの積み重ねが、いざというときの判断の速さにつながっているのだと感じました。攻めの経営判断は、突然の閃きではなく、日々の情報収集の延長線上にあるのだと思います。

あなたの会社は、競合の撤退を情報として活かせていますか
あなたの会社では、近隣の競合企業の撤退や縮小のニュースを、単なる業界動向として眺めるだけで終わらせていないでしょうか。もしそうだとしたら、一度、地元の不動産会社や金融機関の担当者と、定期的に情報交換する場を持てているかを確認してみることをお勧めします。
撤退のニュースが表に出る頃には、すでに他社が動き始めていることも少なくありません。日頃からの関係づくりが、情報を早く得られるかどうかを分けるのだと思います。月に一度、経営陣が「最近、地域で閉店・撤退したお店や施設」を話題にするだけの短い時間を作るのも、視野を内側だけに閉じさせないための、一つの工夫になるはずです。
縮む市場でも、動いている会社は必ずあります
市場全体が縮小しているというニュースを聞くと、多くの工務店は守りの姿勢に入りがちです。しかし、同じニュースの中に、拡大の判断をしている会社が必ず存在します。縮小を嘆くだけの会社と、その裏側にある空白を読み取ろうとする会社とでは、数年後の姿がまったく違ってくるはずです。
かつて市場の縮小をただ受け止めるだけだった自分を思い出すと、今なら、あの頃とは違う見方ができるかもしれないと感じます。縮小のニュースの裏側に、誰かの拡大のチャンスが隠れている。そのことを、常に意識していたいと思っています。
大手が去った後の空白を、次に誰が埋めるのか。それを決めるのは規模の大きさではなく、日頃からどれだけ地域の変化に目を向けていたかなのだと、私は思っています。

