平屋を選ぶ理由を、単純化しないでほしいのです
新築における平屋の割合が、2010年には6.19%だったのに対し、2020年には11.2%、2022年には13.9%まで上昇しているという統計を見ました。20代・30代の子育て世代が積極的に平屋を選ぶようになっているといい、地域によっては新築の3割以上が平屋という場所もあるそうです。かつて平屋といえば年配世帯の住まいというイメージが強かったことを思うと、これは静かに、しかし確実に進んでいる変化だと感じます。私はこの数字を見て、平屋人気を単に「今の流行だから」という一言で片付けてしまう工務店と、その背景にある暮らし方の変化まで理解しようとする工務店とでは、これからの提案の説得力に大きな差が出てくるのではないかと考えています。流行という言葉は便利ですが、その裏にある一人ひとりの事情を見えなくしてしまう危うさも持っています。

「平屋は年配の方向け」だと思い込んでいました
こう思うのは、私自身の前職での思い込みがあったからです。東日本ハウス時代、平屋という選択肢は、主に足腰に不安のある年配のご夫婦向けの提案だと、私は勝手に決めつけていました。子育て世代のお客様が来場されたときは、当然のように二階建てのプランから話を始めていましたし、平屋という選択肢を積極的に提示することは、ほとんどありませんでした。
しかし今の統計が示しているのは、平屋を選ぶ理由が、年齢や体力の問題だけではないという現実です。構造上の安定性の高さから地震に強いという安心感、少子化によって「コンパクトな居住面積で十分」と考える世帯の増加、そして家族の気配を感じながら暮らせるワンフロアの生活動線への支持。子育て世代が平屋を選ぶ理由は、私が現役の頃には想像もしていなかった、多様な価値観に基づいているのだと、あらためて気づかされます。もし今の私が展示場に立っていたら、平屋という選択肢を、もっと早い段階で、もっと多くのお客様に提示していたと思います。
実際、当時を振り返ると、子育て世代のお客様から「階段の上り下りが将来大変にならないか心配」という言葉を聞いたことが何度かありました。あのとき私は、その言葉を漠然とした将来不安として受け流してしまっていましたが、今思えば、それは平屋という選択肢を提示すべき明確なサインだったのだと思います。自分の思い込みが、お客様に必要な選択肢を届けそこなっていたのかもしれません。
とはいえ、平屋であれば何でも売れるわけではありません
一方で、平屋が人気だからといって、平屋のプランさえ用意すれば売れるというわけでもないと思っています。平屋は同じ延床面積の二階建てと比べて、基礎や屋根の面積が大きくなる分、坪単価が上がりやすいという現実があります。また、土地の広さが十分に確保できなければ、そもそも平屋という選択肢自体が成立しません。都市部の狭小地では、憧れだけが先行してしまい、現実的な提案に落とし込めないケースも少なくないはずです。人気だからと安易に勧めれば、後になって予算やプランのミスマッチを生む可能性もあります。
私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、平屋の提案をする際、必ず「なぜ平屋を選びたいと思ったのか」をお客様に丁寧にヒアリングすることから始めている工務店の話を聞いたことがあります。同じ「平屋がいい」という一言でも、掘り下げてみると理由は一人ひとりまったく異なるそうです。地震への不安からなのか、将来的な暮らしやすさを見据えてなのか、あるいは単純に見た目の好みなのか。理由によって、提案すべき間取りや性能の優先順位はまったく変わってきます。平屋という言葉だけが独り歩きしないよう、その奥にあるお客様自身の暮らし方の理想を、丁寧に掘り下げることが欠かせないのだと思います。

あなたの会社は、平屋を選ぶ理由を聞けていますか
あなたの会社では、平屋を希望するお客様に対して、間取りの提案からすぐに入ってしまっていないでしょうか。もしそうだとしたら、一度、「なぜ平屋がいいと思われたのですか」という質問を、商談の最初に必ず挟んでみることをお勧めします。
理由を丁寧に聞くことで、坪単価や土地の広さといった現実的な制約についても、早い段階で誠実に共有しやすくなります。ヒアリングした理由は、プランの資料にも一言添えて記録しておくと、後の打ち合わせでも一貫した提案がしやすくなります。
流行の奥にある、暮らしの理想を見つめたい
平屋人気という現象を、単なる流行として消費してしまうのはもったいないと、私は思っています。その数字の奥には、地震への不安、家族との距離感、暮らしの身の丈をどう考えるかという、一人ひとり異なる価値観が確かに存在しています。
かつて平屋を年配の方向けの提案だと決めつけていた自分を思い出すと、あの頃見えていなかった暮らしの多様性に、今はもっと丁寧に向き合いたいと感じています。
「階段が心配」とつぶやいたあのお客様が、その後どんな家を選んだのか、私は知りません。ただ、あの一言をもっと真剣に受け止めていたら、違う提案ができていたはずだと、今でも時々思い出します。

