「デザインが古い」と言われた日に、どう動くかが会社の分かれ道になる

ある地方の中堅工務店が、設立からピーク時には年商3億円近くまで成長しながら、最終的に事業を停止したという記事を読みました。倒産分析のコラムによれば、主な原因はSNS発信の停滞と、デザイン性の欠落だったといいます。展示場を持たない会社にとって命綱のはずのInstagramはマンネリ化し、YouTubeには手をつけず、住宅のデザインは「昔ながらの工務店が作ったようなテイスト」に留まっていたそうです。私はこの話を読んで、倒産の直接の引き金がどれであれ、根っこにあったのは「変化のサインに気づいていたのに、動かなかった」ことではないかと考えています。

「今のままで大丈夫」という言葉を、私も何度か口にしていました

こう思うのは、私自身の前職での経験があるからです。東日本ハウス時代、茨城県南部の展示場で働いていた頃、会社の中には「うちのやり方はこれで長年やってきたのだから」という空気が根強くありました。新しい提案をしても、まずは前例が優先される。私自身、若手の頃はその空気に押されて、時代に合わせた提案を諦めてしまうことが何度もありました。今振り返れば、あの「今のままで大丈夫」という言葉は、思考停止の合図だったのだと思います。

倒産した工務店の記事を読んで印象的だったのは、SNSが「マンネリ化していた」という表現です。まったく何もしていなかったわけではなく、一度は始めていた。それが続かなくなり、更新が止まり、気づけば何年も同じ投稿のまま放置されていた。これは多くの工務店に、思い当たる節があるのではないでしょうか。デザインについても同じです。最初から古かったわけではなく、時代の感覚が少しずつ変わっていく中で、自社の感覚だけが取り残されていった。倒産というのは、ある日突然訪れるものではなく、こうした小さな停滞の積み重ねの先にあるものなのだと、私は思います。

私が展示場で働いていた頃も、似た停滞を何度も見てきました。誰かが新しい提案を持ち込むと、決まって「前にも似たことをやって失敗した」という過去の記憶が持ち出され、検討すらされずに立ち消えになる。一度の失敗の記憶が、その後何年もの間、会社全体の変化を止め続けてしまう。倒産した工務店のSNSも、もしかしたら似たような経緯だったのかもしれません。一度更新が滞った理由を検証しないまま、「うちにはSNSは向いていない」という結論だけが社内に残ってしまったのではないかと、私は想像しています。

とはいえ、変化を追いかけ続けることだけが正解でもありません

一方で、流行のデザインやSNSのトレンドを常に追いかけ続けることが、経営の正解だとも思いません。地域に根ざした工務店には、その地域だからこそ培ってきた信頼や、変わらない良さがあります。何もかも最新のスタイルに合わせようとすれば、かえって自社らしさを失い、地域のお客様との距離ができてしまうこともあるでしょう。大切なのは、変わらない部分と、変えるべき部分を、意識して分けて考えることだと思います。

私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、創業何十年という工務店の経営者と話す機会をいただきますが、生き残っている会社ほど、「自社の哲学は変えない、ただし見せ方は毎年見直す」という区別を持っている印象があります。国産材や地域材へのこだわりといった理念はそのままに、外観デザインの提案の仕方や、SNSでの発信の仕方だけは、その時々の感覚に合わせて更新し続ける。理念と表現を切り分けて考えられるかどうかが、倒産した工務店との分かれ道だったのではないかと感じています。

あなたの会社は、最後にデザインの見直しをしたのはいつですか

あなたの会社の標準プランや外観デザインは、最後に見直したのがいつだったか、すぐに答えられるでしょうか。もし数年単位で思い出せないとしたら、それは黄色信号かもしれません。一度、社外の若い世代の意見をもらう機会を作ってみることをお勧めします。社内の感覚だけでは、少しずつ古びていく変化には、案外気づけないものです。

SNSについても同じです。最後に投稿した日付を確認し、そこから半年以上止まっているようなら、再開のハードルを下げるために、投稿の担当と頻度を先に決めてしまうところから始めてみてください。「担当者の負担が大きいから続かない」のか「そもそも何を発信すればいいか分からず止まっている」のか、止まった理由を一度言葉にしてみるだけでも、次の一歩は見えてくるはずです。

停滞に気づいた日が、一番動きやすい日です

倒産した工務店のことを、他人事として片付けるのは簡単です。ただ、記事を読みながら私が感じたのは、あの会社にも、成長していた時期が確かにあったということです。ピーク時には年商3億円近くまで伸びていた会社が、数年かけてゆっくりと縮小していった。その過程のどこかで、誰かが変化のサインに気づいていたはずです。

「今のままで大丈夫」という言葉が社内で聞こえたとき、それを聞き流すか、立ち止まって確かめるか。その一瞬の判断の積み重ねが、何年か後の会社の姿を決めていくのだと、私は思っています。

かつて私自身も何度か言い訳のように口にしていた、あの「今のままで大丈夫」という言葉を、今の自分ならもう使わずにいたいと思います。

この記事を書いた人

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浄法寺 亘

福島県 喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

1996年
東日本ハウス株式会社に入社

2009年
ジーレックスジャパン株式会社設立に加わる
住環境サイト『ハウジングバザール』運営担当

2016年
一般社団法人コミュニティビルダー協会理事就任
国産材利用とSDGsを応援 内閣府BEYOND2020認定団体 外務省SDGsマーク使用許可団体

講演履歴
住宅FC様研修・環境情報センター
工務店支援EXPO(於:東京ビックサイト)
鹿児島県庁「緑の工務店研修会」
ほか多数

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
SDGsに取り組もう 建築業界編