値上がり分をお客様に伝える前に、やるべきことがあります
ウッドショックに始まり、鉄骨資材の高騰、円安による輸入資材の値上がり、そして燃料費高騰からくる電気代の上昇。工務店支援のコラムで、この数年の資材高騰の背景がまとめて整理されているのを読みました。原因は複合的で、どれも一社の努力ではどうにもならない外部要因ばかりです。ただ、私はこの記事を読みながら、値上がり分をそのままお客様に転嫁するかどうかの前に、自社にできることをどれだけやったかを説明できるかどうかで、会社の信頼のされ方は大きく変わると確信しています。

「値上がりしたので」の一言で、お客様は納得してくれません
こう思うのは、私自身が前職の東日本ハウス時代に、値上げの説明で苦い思いをした経験があるからです。ある時期、建材価格の上昇を受けて、会社として見積金額を一律に引き上げる方針が出されました。私は担当していたお客様に、その旨を説明しに行きました。ところが「値上がりしたので」という一言だけでは、お客様の表情は明らかに曇りました。当然です。お客様からすれば、値上がりの理由は会社の都合であって、自分たちが負担すべき理由にはなりません。
その数か月後、別のお客様を担当していた先輩は、同じ値上げを伝える場面で、まったく違う説明の仕方をしていました。「資材費が上がった分、工期を短縮できるプレカット材への切り替えを進めていて、その分の人件費削減で半分は吸収しています。残りの半分について、ご相談させてください」という具合です。同じ値上げ幅であっても、先輩のお客様は納得して契約を続けてくれました。あのとき私が痛感したのは、値上がりそのものよりも、「自社が何をしたか」を語れるかどうかが、お客様との信頼関係を左右するということでした。
私は当時、値上げの連絡はできるだけ後回しにしたい、気まずい話だと感じていました。ですが、先輩の説明を聞いてから、考え方を変えました。値上げの連絡は、会社が努力していることを伝えられる数少ない機会でもあるのだと。何もしていない会社が値上げを伝えれば、それはただの負担の押し付けにしかなりません。しかし、内部で工夫を重ねた上での値上げなら、それはむしろ、会社の誠実さを伝えるための材料になり得るのです。同じ「値上げします」という結論でも、そこに至るまでの説明次第で、お客様が受け取る印象は正反対になる。この違いを、私は身をもって学びました。
とはいえ、価格転嫁そのものを否定するつもりはありません
一方で、資材高騰分をまったく転嫁せず、すべて自社で吸収すべきだと言うつもりもありません。ウッドショックや円安による輸入資材の値上がりは、個々の工務店の努力だけで吸収できる規模ではありません。無理に価格を据え置いて利益を削り続ければ、会社の体力そのものが持たなくなります。適正な価格転嫁は、会社を存続させるために必要な経営判断です。
問題は、転嫁の「前」に何をしたかです。工期短縮による人件費圧縮、資材の在庫管理を見直して廃棄ロスを減らす、発注のタイミングを工夫して余剰在庫を持たない。プレカットは今や現場の9割近くで導入されているといいますが、それを単なる作業効率化の道具として使うか、「値上がり分を吸収する努力の証拠」としてお客様に説明できる材料にするかで、同じ工程でも意味合いはまったく変わってきます。私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、資材高騰の時期にあえて値上げ幅を小さく抑え、その理由を丁寧に発信し続けた工務店が、むしろ紹介契約を増やしていた事例を見たことがあります。

あなたの会社は、値上げの理由を何分で説明できますか
あなたの会社では、資材高騰分を価格に転嫁する際、その理由をお客様に何分で、どんな言葉で説明できているでしょうか。「資材が値上がりしたので」で終わってしまっているとしたら、一度、営業担当者全員で「値上げの理由説明トーク」を書き出してみることをお勧めします。
そこに、自社が値上がり分を少しでも吸収するために何をしたかを、必ず一文加えてみてください。工期短縮でも、在庫管理の見直しでも構いません。この一文があるかないかで、お客様が受け取る印象は大きく変わるはずです。
もし今、社内で「何も工夫できていない」ことに気づいたなら、それこそが取り組むべき最初の一歩です。値上げの説明を磨く前に、値上げ幅を少しでも小さくする工夫そのものを、まず一つ始めてみてください。
値上がりの理由は、外にあっても、伝え方は自分たちで選べる
資材が値上がりする理由は、ほとんどが自社の外側にあります。ウッドショックも、円安も、燃料費高騰も、一工務店の努力でどうにかなるものではありません。だからこそ、せめて伝え方くらいは、自分たちで選び取りたいと私は思っています。
「値上がりしたので」で終わる会社であるか、「値上がり分を少しでも減らすために、こう動きました」まで語れる会社であるか。その差が、次の紹介につながるかどうかを分けるのではないかと、今も思っています。
あの日、私が伝えきれなかった一言を、先輩なら迷わず口にしていたはずです。値上げの連絡をするたびに、私は今でもあの先輩の言葉の選び方を思い出します。
