無口な営業マンほど、お客様を「育てる」のがうまいのかもしれません
工務店の営業コラムで、面接のときすら惚れ惚れするほど無口だったという24歳の若手営業マンが、実は同期の中で群を抜いて売れている、という話を読みました。電話が苦手で口下手な彼の武器は、来場後の手書きのお礼状と、長期スパンで組み立てたショートメールでの継続的なフォローだったそうです。私はこの話を読んで、営業の力とは「話す力」ではなく「お客様との時間の設計力」なのだと、あらためて確信しました。口が達者かどうかは、実はそれほど本質的な差ではないのです。

私が新人だった頃、話術こそがすべてだと思っていました
こう思うのは、私自身が前職の東日本ハウス時代、話がうまくなることばかりに時間を使っていた反省があるからです。茨城県南部の展示場に配属された当初、私は先輩のトークを一字一句真似ることに必死でした。相槌の打ち方、間の取り方、切り返しの言葉。それらを磨けば磨くほど成約率が上がるはずだと信じていました。ところが実際には、話術を磨いても、初回接客だけで契約が決まるケースはほとんどありませんでした。お客様が本当に動くのは、初回から数週間、あるいは数か月後、何かのきっかけで思い出してくれたときだったのです。
当時の私には、来場後のフォローという発想が決定的に欠けていました。初回接客が終われば、それで一区切り。次に連絡が来るのを待つだけで、こちらから何かを送るという習慣がありませんでした。今振り返れば、あの無口な若手営業マンがやっていたことは、まさにその欠けていた部分そのものです。ゴルフが趣味だと聞けば、ゴルフバッグの収納事例を送る。世間話の中身を覚えておいて、それに関連した情報を後日届ける。話す時間の長さではなく、記憶しておく力と、それを形にして届け続ける根気強さこそが、成約への近道だったのだと思います。
私が話術を磨くことに費やしていた時間、彼はメモを取り、送るタイミングを計画することに使っていたのだと思うと、正直に言うと少し悔しい気持ちになります。話がうまいかどうかは、初回接客の30分から1時間で判断されがちですが、フォローの精度は、その後の数か月間、繰り返し試される力です。目立たない分、評価されにくいけれど、実は成約という結果に直結しているのは、こちらの地道な作業の方だったのだと、今なら分かります。
とはいえ、話術がまったく不要というわけでもありません
一方で、話す力そのものが無意味だと言うつもりもありません。初回接客の場で、お客様の不安に寄り添った言葉をかけられるかどうかは、今でも大切な資質です。無口な営業マンが成果を出せたのは、話す力の代わりに、フォローという別の武器を磨き上げたからであって、話す力を放棄したから成功したわけではありません。むしろ、少ない言葉の一つひとつに、お客様の話をきちんと聞いていたという証拠が詰まっていたからこそ、フォローのメッセージに実感がこもっていたのだと思います。
私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、口数は少ないけれど、お客様との会話を丁寧にメモし続けている営業担当に出会ったことがあります。彼は商談中、ほとんど自分から話さず、相手の話をひたすら聞いてメモを取っていました。話術で場を盛り上げるタイプではありませんが、そのメモが後のフォローの精度を支えていたのは間違いありません。話す力とフォローする力は、対立するものではなく、後者があってこそ前者が生きてくるのだと思います。うまく話せないことを引け目に感じている若手ほど、実はこちらの力を鍛える伸びしろを大きく持っているのかもしれません。

あなたの会社は、来場後の何週間を、どう過ごしていますか
あなたの会社では、来場後のお客様との接点を、次のアポイントが取れるまでの「待ち時間」にしてしまっていないでしょうか。もしそうだとしたら、来場アンケートに書かれた趣味や関心事を、営業日誌や顧客管理シートに必ず書き残す習慣から始めてみることをお勧めします。
そして、そのメモをもとに、1か月後、2か月後に送るメッセージのタイミングを、あらかじめ決めておくのです。話術に自信がない担当者ほど、この仕組みが向いているかもしれません。個人の記憶力に頼るのではなく、チーム全体で使えるフォーマットにしておけば、口下手な新人でも同じ成果を再現できるはずです。
話す力より、覚えておく力を育てたい
営業研修というと、どうしても話し方や切り返しのテクニックに焦点が当たりがちです。しかし、あの無口な若手営業マンの話を読んで、本当に育てるべきは「お客様のことを覚えておき、それを形にして届け続ける力」なのではないかと思うようになりました。
話がうまくなろうと必死だった若い頃の自分に、もし今声をかけられるなら、こう伝えたいです。うまく話す練習より先に、お客様の話をきちんと覚えておく練習をした方がいい、と。
あの無口な若手営業マンが、これから何年後にどんな営業になっているのか、私は知る術がありません。ただ、口数の少なさを弱点だと決めつけず、自分なりのやり方で武器に変えた彼の姿勢だけは、多くの工務店の営業現場に、そのまま活かせるヒントだと思っています。
