使わない設備という、静かな「宝の持ち腐れ」
「脱・設備課金」という考え方を紹介するコラムを読みました。目先の機能や価格に惑わされて設備を追加するのではなく、断熱性や気密性といった住宅の基本性能に、長期的な視点で投資すべきだという内容です。記事では、使わないキッチンの吊り戸棚や、アクセスしにくい収納スペースが、初期費用をかけたにもかかわらず「宝の持ち腐れ」になりがちだと指摘されていました。初期費用とランニングコスト、メンテナンスの手間まで含めて考えなければ、本当の意味でお客様のためにはならないという指摘です。私はこの言葉を読んで、設備を提案する側にも、大きな責任があるのだとあらためて感じています。お客様が「あると便利そう」と思う気持ちに、営業側がどう向き合うかで、その後の満足度は大きく変わってくるはずです。

オプションを勧めることが、仕事だと思っている営業もいます
こう思うのは、住宅会社の中にはオプションを勧めて契約金額を少しでも上げることが評価につながる仕組みの中で、オプション設備を積極的に提案することを、営業の腕だと考えている会社もあります。食洗機、浴室乾燥機、吊り戸棚。カタログに載っている設備を、できるだけ多く選んでもらうことが、お客様にとっても満足度の高い家づくりだということです。
しかしある営業の話ですが、後になって、あるお客様の家を訪ねる機会があり、契約時に熱心に勧めた吊り戸棚に、ほとんど何も入っていないのを目にします。「高い位置にあって、結局使わなくなっちゃって」というお客様の言葉に、彼は返す言葉がありませんでした。設備は多ければ多いほど良い、という単純な発想で提案していた自分を、そのとき初めて疑いました。設備投資には、初期費用だけでなく、使われなかった場合の後悔という、もう一つのコストがあるのだと、学んだのです。
契約時のお客様は、モデルハウスで見た設備の魅力に心を動かされ、前向きな気持ちで「あったら便利そう」と選んでくれます。しかし、実際の暮らしの中で、その設備を使う具体的な場面を想像しきれていないことも少なくありません。営業担当の役目は、その場の高揚感に応えることだけでなく、数年後の暮らしまで見据えて、一緒に立ち止まって考えることでもあったのだと、今なら分かります。
とはいえ、設備を減らせばいいというわけでもありません
一方で、設備を最小限に減らすことが正解だとも思いません。断熱性や気密性を優先するあまり、日々の暮らしを便利にする設備を切り詰めすぎれば、それはそれで暮らしにくい家になってしまいます。基本性能への投資と、暮らしを快適にする設備への投資は、どちらか一方を選ぶものではなく、優先順位を丁寧に見極めるべきものだと思います。大切なのは、設備を足すか引くかではなく、その設備が本当に日々の生活の中で使われ続けるかどうかを、契約前にきちんと想像できているかどうかだと思います。
私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、オプション設備を提案する前に、必ず「その設備を、朝と夜、それぞれどんな場面で使うか」を具体的に想像してもらう質問を挟んでいる工務店の話を聞いたことがあります。抽象的な「便利そうだから」という理由ではなく、具体的な生活動線の中で使う場面を思い描けない設備は、あえて見送ることを勧めているそうです。この質問を挟むようになってから、契約単価は一時的に下がったものの、引き渡し後のクレームや後悔の声は目に見えて減ったといいます。契約金額を上げることではなく、後悔を減らすことを目的に設備を提案する。この視点の転換が、結果的にお客様からの信頼を長く支えているのだと思います。

あなたの会社は、断る勇気を持てていますか
あなたの会社の営業担当者は、お客様が希望した設備であっても、本当に使われるかどうかを疑って、あえて提案し直す勇気を持てているでしょうか。もし契約金額を上げることばかりが評価基準になっているとしたら、一度、評価の仕組み自体を見直してみることをお勧めします。
契約直後の満足度だけでなく、引き渡し後1年経った時点でのアンケートに「使っていない設備」を尋ねる項目を加えてみるのも、良い気づきになるはずです。集まった声を、次のお客様への提案の判断材料として、社内で共有し続けることも忘れずにいたいところです。
足すことより、選び抜くことを大切にしたい
設備を提案することは、営業にとって分かりやすい貢献のように見えます。しかし、本当にお客様のためになるのは、設備を足すことではなく、本当に必要なものだけを選び抜く手伝いをすることなのだと、今の私は思っています。
設備の数ではなく、暮らしに馴染む設備だけを提案できる営業が増えて欲しいと、あらためて思っています。
。数字を追う前に、その設備が本当に誰かの暮らしに根づくかどうかを、まず想像してみてほしい、と。

