後継者不在という、静かな倒産リスク
建設業の後継者不在率が70.5%にのぼり、全業界平均の65%を上回っているという記事を読みました。26.6万社のうち17万社が後継者不在という数字も紹介されており、業界を問わず深刻な状況が広がっていることがうかがえます。中小企業経営者の平均年齢は、1995年から2015年の20年間で47歳から66歳へと上がり続けているそうです。資材高騰や利益率の低下に加え、コロナ禍の融資返済も本格化する中、事業承継がうまくいかないまま経営者が引退し、そのまま廃業や倒産に至るケースが後を絶たないといいます。私はこの数字を見て、工務店経営における一番静かで、一番見過ごされやすいリスクは、実は後継者の問題なのではないかと考えています。日々の受注や現場対応に追われていると、10年、20年という長いスパンで会社を見つめる時間は、意識しない限りなかなか取れないものです。

「まだ先の話」で片付けていた光景を見てきました
こう思うのは、私自身が前職で見てきた光景があるからです。東日本ハウス時代、取引先の経営者との会話の中で、後継者の話題が出ることは何度かありましたが、決まって「まだ先の話だから」という一言で片付けられていました。目の前の受注や現場の対応に追われる日々の中で、10年後、20年後の会社の姿について、腰を据えて考える時間を持てている経営者は、正直、あまり多くなかったように思います。
その後、コミュニティビルダー協会の活動を通じて、全国のさまざまな工務店経営者と話す機会をいただくようになり、後継者不在という問題が、決して一部の会社だけの話ではないことを、あらためて実感しました。技術も評判もある、地域に愛されてきた工務店が、後継者が見つからないという理由だけで、静かに廃業していく。倒産のように大きなニュースにはならず、気づけば近所からその会社の名前が消えている。そんな光景を、何度か目にしてきました。後継者不在は、資金繰りの悪化のように数字として表れるわけではないからこそ、対策が後回しにされやすいリスクなのだと思います。
ある経営者から、廃業を決めた同業者について「あそこは腕のいい職人が何人もいたのに、もったいなかった」と話してくれたことがあります。技術や信頼は一朝一夕には築けないものです。それが後継者不在という、いわば準備不足だけを理由に失われていくのだとしたら、これほど惜しいことはないと、私はそのとき強く感じました。
とはいえ、親族承継にこだわりすぎるのも難しい時代です
一方で、後継者問題の解決策として、親族への承継だけにこだわるのも、今の時代には難しいと思っています。少子化が進み、子どもが別の職業を選ぶことも珍しくなくなった今、家業を継がせるという発想自体が、以前ほど自然な選択ではなくなってきています。
私はコミュニティビルダー協会の活動を通じて、親族ではなく、社内の若手社員を数年かけて後継者として育て上げた工務店の話を聞いたことがあります。その経営者は、後継者候補を早い段階から経営会議に同席させ、財務や採用の判断にも関わらせることで、単なる技術の引き継ぎではなく、経営者としての視点そのものを育てていったといいます。育成には5年近くを要したそうですが、経営者は「もっと早く始めればよかった」と振り返っていました。事業引き継ぎ支援センターのような外部機関を活用したマッチングや、M&Aによる譲渡も含めて、承継の選択肢は一つではありません。大切なのは、選択肢を狭めずに、早い段階から準備を始めることなのだと思います。どの選択肢を取るにしても、準備に使える時間の長さが、結果の質を大きく左右します。

あなたの会社は、10年後の経営を誰が担うか、言葉にできていますか
あなたの会社では、10年後、20年後に経営を担うのが誰なのか、経営者自身の口から言葉にされたことがあるでしょうか。もし「まだ考えていない」という状態であれば、後継者候補の有無にかかわらず、まずは自社の後継者不在率が業界平均よりどうなのかを、客観的に見直してみることをお勧めします。
早い段階から準備を始めた会社ほど、選べる選択肢は多く残っています。逆に、対応が遅れるほど、選択肢は静かに減っていきます。まずは経営者本人の引退希望時期を仮でもいいので決め、そこから逆算して準備期間を確保することから始めてみてください。
見えないリスクほど、早く手を打ちたい
後継者不在という問題は、資金繰りの悪化や受注減少のように、日々の数字として表れるものではありません。だからこそ、経営者自身が意識的に向き合わない限り、静かに先送りされ続けてしまいます。
「まだ先の話」という言葉で片付けられていた、かつての取引先とのやり取りを、私は今も時々思い出します。10年後もその会社の名前が地域に残っているかどうかは、実は今この瞬間の準備にかかっているのかもしれないと、あらためて感じています。
技術も評判も、一代で築くには長い年月がかかります。それを次の世代につなぐための準備には、それに見合うだけの時間をかける価値があると、私は思っています。

