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事業承継税制を活用する!工務店の節税メリット

公開日: : 工務店 経営

工務店の経営者の皆様、後継者へのバトンタッチについて考え始めたとき、真っ先に頭をよぎるのは「税金」のことではないでしょうか。長年築き上げてきた大切な会社の株式や資産を次の世代に引き継ぐ際にかかる相続税や贈与税は、時に想像以上の負担となり、円滑な事業承継を阻む大きな壁となります。しかし、この税負担を大幅に軽減、あるいはゼロにすることを可能にする強力な制度があります。それが、事業承継税制です。
この制度は、中小企業の円滑な事業承継を促進し、雇用や技術の維持を図ることを目的としています。特に工務店のように、地域に根差した事業であり、経営者の個人的な手腕や信頼、そして会社の土地や建物といった資産が重要な役割を果たす業態にとって、事業承継は単なる経営者の交代以上に、地域の未来、従業員の生活、そして会社の存続そのものに関わる一大イベントです。そして、その成功の鍵を握るのが、いかに税負担を抑え、次世代に健全な財務基盤と事業基盤を引き継げるかです。
この記事では、複雑だと感じられがちな事業承継税制について、工務店経営者の皆様が「具体的に、どうすれば活用できるのか」「どのようなメリットがあり、どんな点に注意すべきか」を、徹底的に分かりやすく解説します。読者の皆様が抱える「税金が高くて事業承継できないのでは?」「手続きが難しそう…」「特例ってウチでも使えるの?」といった疑問に一つずつお答えしながら、制度の活用ステップ、押さえるべき重要ポイント、そして税負担を軽減した上で、さらに事業を成長させていくための実践的なアドバイスをお伝えします。この記事を読み終える頃には、事業承継税制が単なる節税策ではなく、未来への投資であることをご理解いただけることでしょう。

事業承継税制の基本と、工務店経営者が「知っておくべき」実践知識

工務店の事業承継を考える際、まず理解しておきたいのが、後継者が引き継ぐ株式や事業用資産にかかる税金です。相続や贈与によってこれらを取得すると、原則として相続税あるいは贈与税が課税されます。会社の価値が高ければ高いほど、この税負担は重くなり、後継者の経営の重荷となる可能性があります。また、場合によっては納税資金を工面するために、事業用以外の資産を売却したり、借入をしたりする必要が生じ、事業継続そのものに支障をきたすケースも少なくありません。
このような事態を防ぎ、円滑な世代交代を促すために設けられているのが、事業承継税制です。この制度の最大の特徴は、一定要件を満たすことで、後継者が取得した非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税が猶予され、最終的には免除される可能性がある点です。つまり、原則として、税金ゼロで会社の支配権(株式)を後継者に引き継ぐ道が開かれるのです。
特例措置を活用すれば、対象となる株式の制限がなく、贈与税・相続税ともに100%の納税猶予が受けられます。一般措置でも、対象株式の制限はあるものの、同様の納税猶予措置があります。工務店の場合、多くは非上場の中小企業に該当するため、この制度の対象となり得ます。事業承継とは、会社の命脈を保ち、従業員の雇用を守り、地域社会への貢献を続けるための重要なプロセスですが、税制はそのプロセスを強力に後押しするツールとなります。

工務店が知るべき事業承継税制のポイント

事業承継税制は、複雑に見えますが、工務店経営者が特に押さえておくべきポイントは以下の通りです。

  • 対象となる資産:主に非上場会社の株式等です。工務店の多くはこれに該当します。加えて、特例措置では、事業用資産(土地や建物など)にかかる相続税・贈与税の納税猶予措置も拡充されています。長年使ってきた事務所や作業場、倉庫といった不動産も、事業承継税制の対象となり得ます。
  • 税負担がゼロになる仕組み:納税が「猶予」され、最終的に「免除」されるという二段階の仕組みです。後継者が、先代経営者の死亡などにより、猶予されている相続税・贈与税の納付が免除される「免除事由」が発生するまで、税金の支払いは不要となります。免除されれば、結果的に税負担はゼロとなります。
  • 特例措置と一般措置:平成30年度に創設された特例措置は、従前の一般措置に比べて要件が緩和され、メリットが拡充されています。特に、納税猶予の対象となる株式の制限がなくなり、贈与税・相続税ともに100%の納税猶予が可能になった点は大きな違いです。令和9年3月31日までの申請期限があるため、活用を検討するなら早期の対応が必要です。
  • 適用要件:会社側、先代経営者側、後継者側それぞれに厳しい要件が定められています。例えば、 company must meet certain criteria as a small or medium-sized enterprise, the former owner must have been an executive for a certain period, and the successor must take over management and hold a certain percentage of shares. 特例措置を利用するためには、事前に「特例承継計画」を提出し、都道府県知事の認定を受ける必要があります。

なぜ今、工務店が事業承継税制を知る必要があるのか?

我が国の中小企業の経営者の高齢化は深刻な問題であり、工務店も例外ではありません。帝国データバンクの調査によれば、全業種の中小企業の経営者の平均年齢は年々上昇傾向にあり、60歳以上の経営者が過半数を占める状況が続いています。後継者不在率は依然として高い水準にあり、多くの中小企業が事業承継問題を抱えています。事業承継を円滑に行えない場合、優れた技術や地域に根差したノウハウ、従業員の雇用が失われることになりかねません。
事業承継税制は、まさにこうした状況を打開するために用意された強力な制度です。税負担の壁を取り払うことで、意欲ある後継者が安心して事業を引き継ぎ、会社の存続と発展に力を注げる環境を整備します。工務店が培ってきた信頼や技術を次世代に繋ぎ、今後も地域社会に貢献し続けるためには、この制度を正しく理解し、戦略的に活用することが不可欠です。事業承継は、単なる世代交代ではなく、会社の未来を左右する重要な経営課題であり、税制はその解決に向けた有効な手段となります。

読者のよくある疑問:事業承継税制を使わないとどうなる?

事業承継税制を利用しない場合、後継者は相続または贈与によって取得した自社株式や事業用資産に対して、原則通り相続税または贈与税を支払う必要があります。会社の業績が良く、株価が高いほど、税負担は大きくなります。例えば、会社の株価が数億円に上る場合、その株式にかかる税金は数千万円、場合によっては億単位になる可能性もゼロではありません。後継者がその納税資金をすぐに準備できるとは限らず、結果として株式を売却せざるを得なくなったり、経営に悪影響を及ぼすほどの多額の借入を抱えたりするリスクがあります。また、事業用資産に高額な相続税がかかることで、事業継続そのものが困難になるケースも考えられます。円滑な事業承継のためには、税負担の計画と対策が不可欠であり、事業承継税制はその中心的な対策の一つなのです。

事業承継税制を「最大限に活用する」具体的な手続きと戦略

事業承継税制の特例措置を最大限に活用するためには、計画的な準備と正確な手続きが不可欠です。工務店経営者の視点から、具体的なステップと成功のための戦略を解説します。

事業承継税制活用のための具体的なステップ

事業承継税制の適用を受けるまでの道のりは、いくつかの重要なステップに分かれています。特例措置の適用を前提とした、一般的な流れは以下の通りです。

**ステップ1:現状把握と事業承継の全体設計**

  • まず、現在の会社の状況を正確に把握します。具体的には、会社の財務状況、株式の分散状況、株価評価、事業用資産の内容や評価額、そして最も重要な後継者の選定状況です。
  • 次に、いつ、誰に、どのように事業を承継するかという全体像を設計します。事業承継は税制だけでなく、後継者育成、組織体制の整備、事業計画の策定など、様々な要素が絡み合います。税制の活用はあくまで全体計画の一部として位置づけます。
  • この段階で、税理士や認定経営革新等支援機関など、事業承継や税務の専門家に相談することをおすすめします。専門家は、制度の複雑な要件を解説し、現状の会社の状況を踏まえた最適な事業承継計画の立案をサポートしてくれます。特に、事業承継税制の特例措置の適用を受けるためには、認定経営革新等支援機関による指導及び助言を受けることが義務付けられています。

**ステップ2:特例承継計画の提出(最も重要かつ最初の関門)**

  • 特例措置の適用を受けるためには、税制を活用して事業承継を行う旨を記載した「特例承継計画」を作成し、会社の主たる事務所を所管する都道府県に提出し、確認を受ける必要があります。
  • この計画には、会社の概要、現経営者と後継者の情報、自社株式の承継方法(贈与か相続か)、納税猶予の適用を受ける予定の株式数、そして最も重要な「事業承継後の経営計画」などを具体的に記載します。後継者が今後どのように事業を継続・発展させていくのか、そのビジョンや具体的な取り組みを示す必要があります。
  • 特例承継計画の提出期限は令和9年3月31日までです。この期限を過ぎてしまうと、特例措置の適用を受けることができなくなります。準備期間を考慮すると、遅くとも令和8年中には計画策定に着手したいところです。
  • 計画の作成にあたっては、認定経営革新等支援機関による事前確認が必要です。この機関は、事業や税制に関する専門知識を持ち、計画の内容や実現可能性についてアドバイスを行います。

**ステップ3:都道府県知事からの確認書の取得**

  • 提出した特例承継計画が都道府県によって確認されると、「確認書」が交付されます。この確認書が、税務申告時に税務署に対し特例措置の適用を受ける意思があること、および認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けたことを証明する書類となります。
  • 計画の内容に不備がないか、要件を満たしているかなどが審査されます。確認書の交付までには一定期間を要するため、計画提出は余裕をもって行うことが重要です。

**ステップ4:贈与または相続の実行**

  • 確認書を取得したら、計画に基づき、先代経営者から後継者へ自社株式等を生前贈与、または相続により円滑に移 transfer します。実際に株式の名義変更手続きなどを行います。
  • 贈与の場合は、贈与契約を締結し、株式を交付します。相続の場合は、相続発生後、遺産分割協議や相続手続きを通じて株式を取得します。

**ステップ5:税務申告と納税猶予の申請**

  • 株式等を取得した後継者は、贈与税または相続税の申告期限までに、税務署へ申告を行います。
  • この申告書に加えて、都道府県知事からの確認書、特例承継計画、認定経営革新等支援機関からの証明書、その他の添付書類(会社の定款、株主名簿、印鑑登録証明書など)を提出し、事業承継税制の特例措置による納税猶予を申請します。
  • この手続きが完了し、税務署が要件を満たしていると認めれば、贈与税・相続税の納税が猶予されます。

**ステップ6:適用後の継続届出書の提出(非常に重要)**

  • 税務署から納税猶予の認定を受けた後も、手続きは終わりではありません。その後5年間(特例承継期間)、ならびにその後も継続して、毎年、税務署に「継続届出書」を提出する必要があります。
  • この届出書では、会社の経営状況(雇用者数の8割維持など)、後継者の経営状況(引き続き代表者であるかなど)、対象資産の保有状況などが報告されます。
  • これらの要件を満たし続けることで、納税猶予が継続されます。後継者の死亡など、一定の免除事由が発生した場合には、猶予されていた税額が免除されることになります。継続届出書の提出を怠ったり、要件を満たせなくなったりした場合には、納税猶予が取り消され、猶予されていた税金に加えて利子税も合わせて納付しなければならない場合があります。

これらのステップを正確に進めていくためには、専門家のサポートが不可欠です。特に特例承継計画の策定や継続要件の管理には、専門的な知識と経験が求められます。

税制活用を成功させるための戦略的ポイント

単に制度を利用するだけでなく、最大限のメリットを引き出し、事業承継そのものを成功させるためには、いくつかの戦略的ポイントがあります。

  • 早期着手による準備期間の確保:事業承継は最低でも5年から10年といった長期スパンで考えるべきものです。特に税制活用には、特例承継計画の提出、株価対策、後継者育成など、様々な準備が必要です。早期に着手することで、より多くの選択肢を検討でき、慌てることなく最適な方法を選択できます。
  • 株価対策の実行:事業承継税制は、あくまで株価にかかる税金の納税猶予・免除です。承継時点での株価が高いほど、猶予される税額は大きくなりますが、将来的に納税猶予が取り消されるリスクや、計画の実行にあたって高い株価がネックになる場合もあります。計画的な株価対策(例:役員退職金の支払い、含み損解消等)を行うことで、承継時の株価を引き下げ、税負担そのものを抑えることも有効な戦略です。ただし、行き過ぎた株価対策は税務調査の対象となるリスクもあるため、専門家と慎重に進める必要があります。
  • 後継者育成と経営体制の強化:税制はあくまで税金の問題を解決する手段です。事業承継の成功は、後継者がどれだけ経営者としての能力を身につけ、会社の従業員や取引先からの信頼を得られるかにかかっています。後継者の経営訓練、権限移譲、社内体制の整備などを税制手続きと並行して行うことが不可欠です。
  • 事業計画と連動した税制活用:特例承継計画で求められる「事業承継後の経営計画」は、単なる形式的なものではありません。税制適用後の5年間は、雇用維持要件など、会社の経営状況が税制の適用に影響します。税制を活用することは、会社の経営計画と連動して、事業の持続的な発展を目指す決意表明とも言えます。新しい事業の柱を立てる、生産性向上に投資するといった具体的な経営戦略と税制活用を結びつけることで、より説得力の高い計画となり、税制を最大限に活かすことができます。
  • 他の支援策との組み合わせ:事業承継には、税制以外にも、設備投資や販路開拓に使える補助金、事業譲渡やM&Aといった他の手法、経営改善に向けたコンサルティング支援など、様々な支援策があります。これらの支援策を事業承継税制と組み合わせて活用することで、後継者がスムーズに事業を引き継ぎ、さらに発展させていくための強力な後押しとなります。

読者のよくある疑問:事業承継税制を適用するメリット・デメリットは?

メリット:
最大のメリットは、多額になりがちな相続税・贈与税の納税が猶予され、要件を満たせば最終的に免除される可能性がある点です。これにより、後継者は納税資金の心配なく、事業の継続と発展に必要な資金を確保できます。また、特例措置を活用すれば、対象株式の制限がなく、幅広い資産(株式、土地、建物など)に対して適用できる可能性が高まります。円滑な世代交代を促進し、会社の存続、雇用維持に貢献できます。
デメリット・注意点:
  • 複雑な適用要件と手続き:制度の要件は複雑で、手続きも多岐にわたります。専門家のサポートが不可欠であり、そのための費用もかかります。
  • 適用後の継続的な義務:納税猶予を受けた後も、5年間およびそれ以降も継続して税務署への届出義務や、会社の雇用維持要件(特例措置の場合、5年間は雇用者数の平均8割維持が原則)などの継続要件があります。これらの要件を満たせない場合、納税猶予が取り消され、多額の税金と利子税を一度に支払わなければならないリスクがあります。
  • 将来的な売却やM&Aの制限:納税猶予の対象となっている株式や資産を売却したり、会社が合併や分割をしたりする際には、税務署への報告や承認が必要となる場合があり、場合によっては納税猶予が取り消される可能性があります。
  • 事業計画との連動の必要性:単に節税目的で利用するのではなく、事業の継続・発展という本来の目的と結びつけて計画を策定し、実行する必要があります。計画倒れに終わると、税制のメリットを享受できないだけでなく、事業そのものが停滞するリスクがあります。

メリットは大きいものの、適用後の継続的な要件やリスク管理も重要です。これらの点を理解した上で、慎重に検討を進める必要があります。

事業承継の「成功」を盤石にする税制適用後の注意点と応用

事業承継税制の適用を受けて納税猶予が得られたとしても、事業承継が完了したわけではありません。むしろ、そこからが税制を有効活用し、事業を次世代へ完全に引き継ぎ、さらに発展させていくための正念場と言えます。特に重要なのは、適用後の「継続要件」を確実に満たし続け、納税猶予の継続、そして最終的な免除を目指すことです。また、税制はあくまで「税」に関する支援策であり、事業そのものが成功し続けなければ意味がありません。税制を核としながらも、事業の継続的な成長、組織の強化、そして経営者自身の次の一歩をしっかりと計画することが、事業承継を「成功」させる鍵となります。

税制適用後に絶対に守るべき「継続要件」

事業承継税制(特例措置)の適用を受けた後、特に重要なのは以下の継続要件です。これらの要件を満たさなくなった場合、原則として納税猶予が取り消され、猶予されていた税額と利子税を納税しなければならなくなります。

  • 特例承継期間中の継続届出書の提出(最初の5年間):納税猶予の適用を受けた日から5年間、毎年の税務申告書の提出期限までに、後継者の状況、会社の経営状況(総収入金額、従業員数など)、対象資産の保有状況などを記載した継続届出書を税務署に提出します。この期間は特に厳しいチェックが行われます。
  • 特例承継期間中の雇用維持要件:特例措置の場合、原則として、税制適用後5年間は、承継時における雇用者数(役員を除く従業員数)の平均で8割以上を維持する必要があります。ただし、リストラなどでやむを得ず雇用者数が減少した場合でも、理由書を提出するなど一定の手続きを行うことで、猶予継続が認められる場合もあります。あくまで平均で8割以上を維持することが原則であるため、採用活動などを計画的に行う必要があります。
  • 対象資産の保有継続:納税猶予の対象となった株式や事業用資産(土地、建物など)を継続して保有している必要があります。原則として、売却や譲渡を行うと、猶予が取り消される可能性があります。
  • 後継者の経営継続:後継者は、引き続き会社の代表者であり続ける必要があります。代表者を辞任したり、対象株式の過半数を手放したりすると、納税猶予が取り消される可能性があります。
  • その他の要件:会社の事業内容が風営法対象事業などに変更された場合、会社の株主構成が大きく変わった場合なども、要件を満たさなくなる場合があります。

これらの継続要件は細かく定められており、税務署からのチェックも厳格です。継続届出書の提出漏れだけでも納税猶予が取り消される可能性があるため、提出期限や記載内容をしっかりと管理することが重要です。専門家と継続的に連携し、要件を満たしているか定期的に確認することをおすすめします。

継続要件を満たせなかった場合のリスクと対策

万が一、継続要件を満たせなくなった場合、納税猶予が取り消され、多額の税負担が発生するリスクがあります。

  • 納税猶予の取り消し:要件を満たせなくなった日をもって、猶予されていた相続税・贈与税の全額または一部の納税義務が発生します。
  • 利子税の負担:納税猶予が開始された年月日に遡って、本来納めるべきだった税金に対して利子税が課されます。期間が長ければ長いほど、利子税の負担は大きくなります。

これらのリスクを避けるためには、事前の計画が重要です。特に雇用維持要件については、事業計画と連動させ、雇用の維持・拡大に向けた具体的な施策を継続的に実行していく必要があります。また、万が一の事態に備え、税負担が発生した場合の資金繰りについても検討しておくべきです。専門家と相談し、リスク発生時の対応策を事前に準備しておくことが、事業承継の安心感を高める上で有効です。

税制を「手段」と捉え、事業の持続的成長につなげる

事業承継税制は、事業承継に伴う税負担を軽減する強力な「手段」です。この手段を最大限に活かすためには、税金のことだけではなく、事業そのものの未来をどのように創っていくかという視点が不可欠です。

  • 後継者主導での事業計画の実行:納税猶予を受けて経営を引き継いだ後継者は、特例承継計画で掲げた「事業承継後の経営計画」を具体的に実行に移す責任があります。新しい技術の導入、販路の拡大、省エネリフォームなど高付加価値な事業への転換、組織体制の見直しなど、工務店を取り巻く環境の変化に対応し、競争力を高めるための取り組みを積極的に行う必要があります。
  • 税制変更への対応:事業承継税制は、将来的に制度改正が行われる可能性もゼロではありません。税制の動向を常に注視し、専門家からの情報提供を受けながら、変化に柔軟に対応できるよう準備しておくことも重要です。
  • 財務体質の強化:税負担が軽減された分を、設備投資、技術開発、人材育成などに充てることで、会社の財務体質をさらに強化することができます。健全な財務体質は、将来的なリスクへの備えとなり、事業の持続的成長を支える基盤となります。
  • 従業員とのコミュニケーション:事業承継は、経営者だけでなく、従業員にとっても大きな変化です。税制によるメリットや、後継者の描く未来のビジョンを従業員と共有し、不安なく働くことができる環境を整備することが、組織の一体感を高め、事業の成功を後押しします。

事業承継の成功を支える専門家との連携

事業承継税制の活用、そして事業承継そのものを成功させるためには、多岐にわたる専門知識と経験が必要です。税務はもちろんのこと、法律、労務、経営戦略など、様々な視点からの専門家のサポートが不可欠です。

  • 税理士:事業承継税制の適用要件、手続き、継続要件に関する専門家です。株価評価、税負担シミュレーション、特例承継計画の税務面のチェック、税務署への申告手続きなどをサポートします。認定経営革新等支援機関でもある税理士に相談することで、ワンストップで支援を受けることができます。
  • 行政書士:特例承継計画の作成・提出手続きなど、行政手続きに関する専門家です。
  • 弁護士:親族間での事業承継における法的な問題、M&Aなどの他の承継方法を検討する際の契約書作成や法務デューデリジェンスなどをサポートします。
  • 司法書士:株式の名義変更登記、不動産の相続登記など、法務局での手続きに関する専門家です。
  • 中小企業診断士:事業の現状分析、事業承継後の経営計画策定、新しい事業戦略の立案など、経営全般に関するコンサルティングを行います。認定経営革新等支援機関でもあるため、特例承継計画の策定支援や、事業承継後の経営改善支援を受けることができます。

これらの専門家とチームを組み、情報を共有しながら計画的に事業承継を進めることが、税制の活用と事業の成功の両立を実現するための最も確実な方法と言えます。

読者のよくある疑問:特例承継計画はどんな内容?一度作ったらずっと同じ?

特例承継計画の内容:
特例承継計画は、単に税制を使いたいという意思表示以上のものです。計画には、会社の概要、先代経営者と後継者の情報、いつ、誰に、どのように株式等を承継するかといった基本的な事項に加え、「事業承継後の経営計画」を具体的に記載する必要があります。具体的には、後継者が会社の経営を引き継いだ後、どのように会社を経営し、事業を継続・発展させていくのか、そのビジョンや具体的な取り組み(例:新規事業分野への進出、生産効率の向上、雇用の維持・拡大に向けた施策など)を記述します。認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて策定することで、より実現可能性が高く、説得力のある計画となります。
計画の変更:
一度提出した特例承継計画は、原則として重要な変更があった場合には都道府県知事への変更届出が必要です。例えば、後継者の変更や、計画していた承継方法(贈与・相続)の変更などがあった場合です。また、事業承継後の経営計画についても、事業環境の変化などに応じて見直しが必要になる場合があります。継続届出書で、計画の進捗状況や変更点などを報告することになりますので、計画策定時だけでなく、適用後も計画内容と実際の経営状況を照らし合わせながら管理していくことが重要です。

まとめ

この記事では、工務店経営者の皆様が直面する事業承継の課題と、その税負担を大幅に軽減できる強力な制度である事業承継税制について、具体的な活用方法と実践的な戦略、そして適用後の注意点について詳しく解説しました。事業承継税制、特に特例措置を活用することで、後継者への株式等の移転にかかる相続税・贈与税の納税を猶予し、最終的には税負担をゼロにできる可能性が開かれます。これは、長年培ってきた大切な会社と従業員の未来を守る上で、非常に大きなメリットとなります。
制度活用の道のりは、現状把握から始まり、特例承継計画の策定・提出、都道府県の確認、そして贈与または相続による株式等の承継、最後に税務署への申告・納税猶予申請という具体的なステップで進みます。このプロセスを確実にこなすためには、税理士をはじめとする専門家との連携が不可欠です。特に、令和9年3月31日という特例承継計画の提出期限が迫っていることを考えると、早期に専門家へ相談し、計画策定に着手することが何よりも重要です。
また、税制はあくまで「手段」であり、事業承継の成功は税制の活用と並行して、後継者育成、株価対策、強固な経営体制の構築、そして何よりも後継者主導での事業の継続的な成長にかかっています。税制適用後の継続要件を確実に満たしながら、事業承継税制によって得られた税負担軽減のメリットを、将来への投資に振り向け、会社の競争力をさらに高めていくことが、本当の意味での事業承継の成功と言えるでしょう。
事業承継は経営者にとって最後の、そして最も重要な仕事です。税金という大きな壁を事業承継税制によって乗り越え、従業員、そして地域社会にとってなくてはならない存在としての工務店の灯を、力強く次世代へと繋いでいきましょう。この記事が、その一歩を踏み出すための確かな指針となれば幸いです。

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この記事を書いた人

浄法寺 亘

工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。
今動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」
※8月実施予定。
住宅サイトの運営もしています。

福島県 喜多方市出身
県立会津高校卒
市立高崎経済大学卒

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
https://x.gd/oatiM
SDGsに取り組もう 建築業界編
https://x.gd/MXYJr
とっておきの見込み客発掘法
https://x.gd/001or

主な講演:
鹿児島県庁主催「かごしま緑の工務店研修会」
リードジャパン主催「工務店支援エキスポ」(東京ビックサイト)
育英西中学校
その他住宅FCなど

活動実績
2019~ 千葉県にて里山竹林整備ボランティア
2020~ 木ッズ絵画コンクール

工務店の集客・営業ならジーレックスジャパン →ホームページはこちら

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