事業承継税制の優遇措置を解説！工務店

公開日： 2025/08/18 : 工務店　経営

工務店を経営される皆様にとって、「事業承継」は文字通り会社の未来を左右する重要なテーマです。加えて、現場が忙しく「いつかやろう」と先送りしがちな事業承継の手続きや、承継時の税負担問題に直面されている方も多いのではないでしょうか。そこで強い味方となるのが「税制優遇措置」です。しかし、制度の活用は専門知識が必要で、実務には数々の課題もつきまといます。本記事では、事業承継を「自社で具体的に進められる」よう、税制優遇を最大限に活かしつつ、成果が出る実践ステップを丁寧に解説。よくあるギモンや失敗例、成功事例、継続的改善策まで網羅的にご紹介します。「税理士や専門家任せでは不安」「何から始めて良いかわからない」そんな悩みに共感し、読了後には「すぐ動ける」ノウハウと自信を獲得できる内容です。

税制優遇の「実践的」導入戦略：基礎から応用まで

事業承継において大きな壁となるのが「税負担」です。特に工務店の場合、長年積み上げた資産や事業の価値が大きいほど、後継者が取得する際に発生する相続税・贈与税が資金繰りの大きな障壁となります。ここでは、税制優遇措置の基礎から、具体的な準備・申請方法、運用までをステップ形式で解説します。

1. 事業承継税制の全体像と自社の適用可能性を把握する

まず検討すべきは「事業承継税制」を自社が適用できるかどうかの見極めです。事業承継税制とは、自社株式や事業資産の贈与・相続時にかかる＜納税の猶予＞や＜実質的な免除＞が受けられる特例で、国と都道府県、両方の制度があります。特に平成30年度税制改正以降、制度が大幅に拡充され、2027年12月末までの期間限定で、事業承継にかかる相続税・贈与税の100%を猶予し、一定の条件を満たせば最終的に免除されます。

自社が中小企業基本法上の中小企業者か
後継者が1人に限定されること、経営権の移転が行われること
認定経営革新等支援機関（金融機関・税理士等）の支援があること

これらは最低限の要件です。自社が対象となるかを、まずは専門家とともにチェックしてください。

2. 税制優遇のプロセス設計と具体的準備

次に、自社にフィットした事業承継の計画を立てましょう。税制優遇制度を利用するには、事業承継のタイミングや後継者の選定、株主構成の整理など早期から計画的に進めることが成功のカギとなります。実際の流れは以下の通りです。

現状分析
・自社株式の評価額、相続税や贈与税のシミュレーション
・既存株主の構成や将来の問題点洗い出し
後継者の確定と役員構成の見直し
・後継者との面談、適格性確認
・役員や従業員への説明
承継計画の策定
・中期的な経営計画、承継スケジュール
認定申請・計画書提出
・都道府県へ申請書類の提出、経済産業大臣の認定を受ける
実際の贈与・相続の手続き

この一連の流れには、税理士や認定専門家との連携が不可欠です。経営者単独での判断はリスクを伴うため、必ず社内外の専門家の支援を得ましょう。

3. 工務店特有の事業承継リスクと実践的対策

税制優遇を検討する際、工務店特有の事情にも配慮が必要です。

資産の分散管理・有効活用
・土地・建物、営業権、設備投資など非流動化しやすい資産が多い
・資産の整理（不要資産の売却、賃貸化など）で承継負担を軽減
家族・親族間トラブルの防止
・承継に納得できない家族・親族がいる場合、事前に十分な説明と合意形成を
取引先、銀行、従業員との信頼維持
・承継をきっかけに取引環境が変わらぬよう、早めの事前説明と情報共有を

事業承継の計画段階から経営資源（ヒト・モノ・カネ）の整理、関係者間のコミュニケーションを徹底しておくことで、後々のトラブルを最小化できます。

事業承継×税制優遇：成果を最大化する具体的な取り組み

税制優遇制度を最大限活かすためには、「計画的かつ実行力のある取り組み」が求められます。このセクションでは、税制優遇を成功へ導くための具体的ステップと、現場で多く寄せられるギモンにFAQ形式で回答します。

1. 税制優遇を受けるための押さえるべき具体的ステップ

「認定支援機関」との連携
認定経営革新等支援機関を早期に決定し、事業承継計画から申請、モニタリングまで一貫した伴走支援を仰ぎましょう。
「承継計画書」の精緻な作成
事業承継計画書には「後継者育成」「経営方針の継続」「従業員処遇」など明確な目標や行動計画を盛り込みます。自治体や認定支援機関のフォーマットに則ることを忘れず、1つずつ根拠ファクトを積み上げてください。
贈与・相続のタイミング管理
相続税制と贈与税制のどちらを使うかで税負担や手続きに差異があります。「後継者を役員に登用した後に株式贈与」など会社に合った実行順序の選択が鍵。
継続的なモニタリング
事業承継後5～20年間、実際に後継者が経営を継続する必要があります。毎年「事業継続状況報告書」の提出義務あり。ここで「形式だけ」の承継となっていないか客観的に点検してください。

2. よくある失敗例とその回避策

承継計画が「現実と乖離」している
— 後継者が経営に未熟、従業員や取引先が混乱し、優遇解除・税負担発生のケース。
→「後継者教育」と「早期の周知・トレーニング」を実施し、形式的でなく中身重視の承継を
贈与・相続の誤ったタイミング
— 節税意識が先行し、株価ピーク時の贈与で多額の納税猶予分を背負う例。
→毎年の決算で株価評価を見直し、専門家と最適な時期をシミュレーション
申請書類のミスや要件不備
— 申請漏れや書類不備で税制優遇適用外に。
→専門家のダブルチェックと提出前の最終確認を徹底

3. 成功事例：工務店が実際に税制優遇を活かした事業承継のプロセス

例えば、A工務店は60代の創業社長から長男への贈与型承継を実施。税理士・支援機関とチームを組み、

後継者を早期から営業責任者に抜擢
社内向け事業承継説明会を3回開催、理解浸透に注力
1年かけて株主構成・定款・役員体制を再編
承継後も5年間、部門長会議で進捗報告・経営方針の共有を徹底

結果、贈与税の全額猶予を受け、資金繰りリスクなしに社長交代がスムーズに進行。事業承継期間を活かし、後継者が新規事業（リフォーム部門）を立ち上げ経営力の底上げに成功しています。

4. 【Q&A】事業承継税制・税制優遇の現場疑問TOP5

Q1. 制度を活用後、後継者が辞めた場合どうなる？
A. 後継者が経営継続要件（5年または20年）を満たさず辞めた場合、遡って納税猶予分の税金と利息が発生するので注意が必要です。二重承継となりそうな場合は早めに専門家へ相談を。
Q2. 兄弟間で後継者を変更したい時は？
A. 認定承継計画の変更手続きで後継者変更は可能ですが、承継理由の正当性や新後継者の適格性が厳しく審査されます。計画段階から将来変更の可能性も織り込むのが賢策。
Q3. 不動産や現金が少ないが承継は可能？
A. 承継対象は原則「自社株式」。固定資産でも会社保有分は含まれるため、現金が少なくても適用自体は可能ですが、借入金と税納付負担バランスの精密な調整が不可欠です。
Q4. 複数の工務店（グループ経営）でも利用できる？
A. 連結・グループ会社の場合は株主構成やグループ全体の主要事業判定など要件が複雑に。グループ個別の条件整理と承継枠組みの策定を専門家と慎重に検討しましょう。
Q5. 制度が終了または変更された場合どうなる？
A. 制度の期限到来・改正時には経過措置が発表されます。過去のケースでは「継続利用意志の確認」や「追加申請」など猶予措置が取られるケースも多く、急な不利益は生じにくいですが、情報収集・早期着手が有利です。

事業承継を継続的に成功させるための「次の一手」

事業承継は単なる「社長交代」ではなく、会社の質的シフトを伴う長期プロセスです。税制優遇制度を戦略的に活用することは大切ですが、それだけでは持続的な成長は実現できません。効果を最大化し、次世代へのバトンタッチ後も事業を盤石にするためには、以下のポイントを継続的に意識しましょう。

1. 承継後の経営体制とガバナンス強化

「後継者の権限・責任の明確化」
— トップダウンだけでなく、役員会・経営幹部チームとの意思疎通・相談体制を明文化。重要事項の意思決定ルール、承認フローの設計が不可欠です。
「経営理念・ブランディング」の再点検
— 承継の節目を活かし、経営理念や企業ビジョンの伝承とアップデートを。新しい価値観や時流にあったブランド発信も組み込みましょう。

2. 承継成功の成果測定とPDCAの実践

① 継続的な経営指標・財務指標のモニタリング
— 売上、利益、受注残高、従業員定着率などKPIを数値で追跡。「事業承継前後での比較分析」を実施しましょう。
② 現場アンケートや取引先ヒアリング
— 承継による現場士気や顧客満足度、取引先評価の変化も確認し、見落としがちな課題を浮き彫りに。
③ 問題発生時の改善サイクル
— 承継手続き自体の見直し、組織体制・営業戦略のアップデート等、柔軟なPDCA運用を。

3. 業界横断的な情報収集とネットワーク形成

各地方工務店組合や建設業経営者会、商工会議所等の勉強会・相談会へ積極参加
同業他社の事例収集やセミナー参加による「気づき」「新戦略」の獲得
全国展開する金融機関・士業ネットワークとの連携強化

これら中長期施策を継続することで、会社が「経営者の交代」だけでは終わらない、本質的なバージョンアップを果たせます。税制優遇や事業承継制度は、その「きっかけ」として戦略的に活用しましょう。

まとめ

工務店における事業承継は、単なる世代交代ではなく“未来の基盤強化”へとつなげる極めて重要なプロジェクトです。税制優遇措置を戦略的・計画的に導入し、認定支援機関との連携、的確な計画書の作成、後継者教育を徹底して進めていくことで、財務リスクの回避と円滑な承継を実現できます。さらに、承継後にもガバナンス強化や業績指標の見直しを繰り返し、社外ネットワークからの知見を積極的に吸収することで、安定成長と新たな価値の創出が可能となります。具体的な一歩を踏み出すことで、承継を「過去から未来への挑戦」に昇華させてください。今始めれば、次世代の社長とともに確かな未来を築く道筋が明快に見えてきます。皆様の思い切った第一歩に、心よりエールを送ります。

この記事を書いた人

浄法寺亘

福島県喜多方市出身。県立会津高校、市立高崎経済大学卒。工務店の社会貢献やSDGｓ、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。現在動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」。住宅情報サイト「ハウジングバザール」の運営にも携わっている。

著書：
頼みたくなる住宅営業になれる本
https://x.gd/oatiM
SDGsに取り組もう　建築業界編
https://x.gd/MXYJr

主な講演：
鹿児島県庁主催「かごしま緑の工務店研修会」
リードジャパン主催「工務店支援エキスポ」（東京ビックサイト）
育英西中学校、その他住宅FCなど

活動実績
2019～　千葉県にて里山竹林整備ボランティア
2020～　木ッズ絵画コンクール