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工務店の事業承継、株式評価のポイントと注意点

公開日: : 工務店 経営

地域社会を長年支えてきた工務店の経営者の皆様、会社の将来について、そして事業承継のあり方について、漠然とした不安や具体的な疑問をお持ちではないでしょうか。「一体いつ、誰に、どうやって会社を継がせればいいのか」「複雑そうな手続きや税金はどうなるのか」。特に、会社の価値を示す「株式評価」については、その重要性は理解しつつも、具体的な方法やそれが事業承継にどう影響するのか、分かりづらいと感じている方も少なくないはずです。

事業承継は、経営者にとって人生最大の経営判断の一つです。会社の存続、従業員の雇用、培ってきた技術や信頼の継承、地域社会への貢献、そしてご自身のその後の人生を左右する重大な決断です。中でも、自社株式のスムーズかつ適正な引継ぎは、後継者にかかる税負担や、関係者間のトラブルを未然に防ぐ上で極めて重要なステップとなります。つまり、株式評価を正しく理解し、計画的に対策を講じることが、円滑な事業承継の鍵となるのです。

この記事では、工務店経営者の皆様が抱えるこのような具体的な疑問や不安を解消し、ご自身のペースで事業承継の準備を進められるよう、株式評価の基礎から応用、そして事業承継全体を成功させるための具体的なステップと実践的なノウハウを、工務店ならではの事情も踏まえて分かりやすく解説します。この記事を読めば、株式評価の仕組みが理解でき、自社の評価額の目安が把握できるようになります。さらに、評価額を適正化し、税負担を軽減するための具体的な対策や、事業承継計画全体の中で株式評価をどう位置づけ、どのように進めていけば良いのか、その具体的なアクションプランが明確になります。

さあ、未来への一歩を踏み出すために、この記事で事業承継と株式評価に関する知識を深め、貴社の輝かしい未来を次世代へと繋ぐための具体的な道筋を見つけましょう。

株式評価の「実践的」導入戦略:基礎から応用まで

工務店の事業承継を考える上で、まず避けて通れないのが自社株式の評価です。「自分の会社に一体どれくらいの価値があるのか?」これは経営者にとって非常に重要な問いであり、その答えを知るための鍵が株式評価にあります。しかし、「評価なんて難しそう」「税理士に丸投げしないと分からないんでしょ?」と、つい後回しにしてしまいがちではないでしょうか。ここでは、工務店経営者の皆様が自ら株式評価の基本を理解し、事業承継の準備にどう活かせるか、その実践的な導入戦略をお伝えします。

工務店の株式評価には、一般的な事業会社とは少し異なる視点が必要です。なぜなら、多くの工務店は、大規模な土地や建物を保有していることが多く、また、経営者の個人的な信用や地域とのつながり、熟練工の技術といった「数値化しにくい資産」が事業価値の大きな部分を占めているからです。これらの要素をどう評価に反映させるかが、適正な株式評価を行う上で重要になります。

株式評価の目的を明確にする

なぜ今、自社の株式評価を行う必要があるのでしょうか? その目的によって、適用すべき評価方法や考慮すべき点が異なります。工務店の経営者が株式評価を行う主な目的としては、以下が挙げられます。

  • 後継者への生前贈与や相続による事業承継
  • 後継者や従業員への株式譲渡
  • M&Aによる第三者への事業承継
  • 役員退職金の算定
  • 相続税や贈与税の申告
  • 株主間での取引(買い取りなど)

この記事では、主に事業承継における株式評価に焦点を当てて解説します。事業承継において株式評価は、後継者が負担する贈与税や相続税の計算根拠となるだけでなく、引継ぎプラン全体の費用感を把握し、最適な承継方法を選択するための重要な情報となります。

主要な株式評価方法の基礎を理解する

工務店を含む非上場会社の株式評価方法には、大きく分けていくつかの種類があります。国税庁が定める財産評価基本通達に基づく評価方法が一般的で、主に以下の3つの方式があります。

1. 類似業種比準方式

非上場の評価対象会社と事業内容が類似する上場会社の株価を基に、評価対象会社の「配当状況」「利益状況」「純資産価額」を比較して株価を評価する方式です。工務店の場合、類似する上場建設会社の株価を参考にしますが、全く同じ事業内容の上場会社を見つけるのは難しいのが実情です。

メリット:市場価格を参考にしているため、客観性がある程度期待できる。

デメリット:類似業種の上場企業が少ない場合や、市場の影響を受けやすい。比較対象指標の数値を操作することで評価額が変動しやすい。

2. 純資産価額方式

評価対象会社の相続税評価上の純資産価額を基に株価を評価する方式です。会社の総資産から負債を差し引いて計算されます。工務店のように多くの不動産や建設中の資産を持つ場合、これらの評価額が大きく影響します。

メリット:会社の資産状況をストレートに反映するため、分かりやすい側面がある。

デメリット:帳簿上の資産価値と実際の事業価値が乖離することがある(例えば、長年培った信用や技術力は評価に反映されにくい)。含み益のある不動産や土地評価が大きく影響し、評価額が高額になりやすい傾向がある。

3. 配当還元方式

評価対象会社が今後支払うと予想される1株あたりの配当金額のみに着目して株価を評価する方式です。これは主に、支配権のない少数株主の株式を評価する場合に用いられます。事業承継で経営支配権を移転させるケースでは、通常この方式は適用されません。

メリット:計算が比較的単純。

デメリット:配当政策に大きく左右され、将来の収益力や資産状況を適切に反映しない。

実際には、これらの評価方式を会社の規模や株主の立場に応じて使い分けたり、組み合わせて(例:併用方式)評価が行われます。工務店のように規模が小さい会社の場合(特に同族株主が取得した株式)、純資産価額方式か、純資産価額方式と類似業種比準方式を組み合わせた併用方式が適用されるケースが多くなります。

工務店の株式評価に影響を与える具体的な要因

評価方式によって計算された価額は基準となりますが、工務店ならではの特性や状況が評価額に影響を与えることがあります。

  • 不動産・土地の含み損益:時価と簿価の差が大きい不動産が多い場合、純資産価額に大きな影響を与えます。
  • 建設中の未成工事支出金:工事進行基準を適用している場合の利益計上状況が評価に影響します。
  • のれん(ブランド力・信用):長年の経営で築き上げた地域での評判や顧客からの信頼は、評価額に直接反映されにくいですが、事業価値としては非常に重要です。
  • 技術力・職人のスキル:熟練した職人の技術や特殊な工法は会社の競争力の源泉ですが、これも評価額に数値として表れにくい部分です。
  • 簿外債務の有無:将来発生しうる保証債務など、決算書に載らない債務の存在は、実質的な企業価値を低下させる要因となり得ます。
  • 役員借入金:経営者からの借入金が多い場合、純資産を押し上げている要素として考慮が必要です。

評価額を下げるための「実践的」対策(短期・中期)

事業承継において後継者の税負担(贈与税・相続税)を抑えるためには、株式評価額を適正な時期に適正な方法で引き下げておくことが有効な戦略の一つです。ただし、これはあくまで合法的な範囲での税務対策であり、企業価値そのものを不当に操作するものではありません。

具体的な対策ステップ

  1. 現状の株式評価額の把握:まずは自社の現在の株式評価額がいくらになるのかを、税理士などの専門家に依頼して試算してもらいます。これが対策の第一歩です。
  2. 含み益の解消:含み益を抱える土地や建物の売却、または評価替えを行うことで、純資産価額を抑えることが検討できます。ただし、事業に必要な資産の場合は慎重な判断が必要です。
  3. 不良資産の処分:使用されていない土地や建物、価値がなくなった棚卸資産などを処分することで、資産を圧縮し純資産価額を下げる効果が期待できます。
  4. 役員退職金の支払い:経営者が退職するタイミングで、適正な額の役員退職金を支払うことで、会社の利益を圧縮し、当期の利益に基づく評価額(特に類似業種比準方式の計算要素)や純資産価額を下げることができます。ただし、多額のキャッシュアウトが発生するため、会社の資金繰りへの影響を十分に考慮する必要があります。
  5. 赤字決算にする(一時的):計画的にあえて赤字を計上することで、利益状況を悪化させ、評価額を下げる方法です。これは短期的には有効な場合がありますが、金融機関からの信用悪化や従業員の士気低下を招くリスクがあるため、非常に慎重な判断と計画が必要です。
  6. 配当の実施(少数株主対策):配当還元方式が適用される少数株主への事業承継を検討している場合、意図的に配当を少なくすることで評価額を抑えることができます。ただし、同族株主の場合、原則として配当還元方式は適用されません。

これらの対策は、実行するタイミングが非常に重要です。例えば、贈与を検討しているのであれば、評価額が低い時期を選んで実施することが税負担軽減につながります。また、これらの対策は税務だけでなく、会社の経営全体や資金繰りに大きな影響を与えるため、必ず専門家と十分に相談しながら進める必要があります。

Q&A:株式評価に関するよくある疑問

Q1:自社の株式評価は、専門家なしではできませんか?

A1:財産評価基本通達に基づいた正確な評価は、税法や評価方法に関する専門知識が必要となるため、税理士などの専門家に依頼するのが一般的です。しかし、経営者ご自身が評価の仕組みや影響要因を理解していることは、専門家とのコミュニケーションを円滑にし、より自社にとって有利な事業承継計画を立てる上で非常に役立ちます。この記事で基礎知識を習得し、専門家との相談に臨むことをお勧めします。

Q2:会社の業績が悪ければ、自動的に株式評価額も下がりますか?

A2:はい、業績(利益)の悪化は、類似業種比準方式における評価額を下げる要因となります。しかし、純資産価額方式では、会社の資産(特に土地や建物などの不動産)に含み益が多い場合、たとえ赤字経営でも評価額が高くなることがあります。したがって、業績だけでなく、会社の資産状況も含めて総合的に評価額を判断する必要があります。

Q3:将来的に後継者に株式を渡したい場合、いつの時点で評価するのがベストですか?

A3:株式評価額は会社の業績や資産状況によって常に変動します。一般的には、評価額が低い時期に贈与や譲渡を行う方が後継者の税負担は軽減されます。しかし、業績が極端に悪い時期は会社の魅力も低下している可能性があります。将来的な事業承継を視野に入れるのであれば、会社の状況を定期的に評価し、複数のタイミングで試算を行っておくことが重要です。専門家と相談しながら、最適な時期を見極めましょう。

事業承継×株式評価:成果を最大化する具体的な取り組み

株式評価の基本を理解したところで、次に考えたいのは、その評価結果を事業承継計画全体とどのように連携させ、最大の成果(円滑な承継と関係者全体のメリット最大化)に繋げるかです。株式評価は、事業承継という一大プロジェクトにおける重要な要素の一つであり、単独で考えるのではなく、後継者の選定、承継方法の検討、税務対策、資金計画など、他の要素と密接に連携させて具体的な取り組みを進める必要があります。

ここでは、工務店の事業承継を成功させるために、株式評価の結果を活用しながら実行すべき具体的なステップを掘り下げていきます。

ステップ1:事業承継計画全体のロードマップ策定と株式評価の位置づけ

まずは、いつ、誰に、どのように事業を承継させるのか、大まかな計画(ロードマップ)を策定します。この段階で、株式評価が計画全体のどの時点、どのプロセスで必要になるのかを明確にします。

  1. 事業承継の時期を決定:何年後に事業承継を完了させたいのか、具体的な目標時期を設定します。
  2. 後継者の選定:親族、従業員、第三者の中から誰に事業を託すのかを決定します。後継者の種類によって、株式の引継ぎ方法や評価の考え方が変わってきます。
  3. 承継方法の検討:自社株式や事業用資産を後継者にどのように引き継がせるのかを検討します(生前贈与、相続、譲渡、M&Aなど)。
  4. 株式評価の位置づけ:これらの計画に基づき、どのタイミングで株式評価を実施し、その結果をどのように後継者の税負担シミュレーションや資金計画に反映させるのかを計画します。例えば、生前贈与を複数年に分けて行う場合、それぞれの贈与時点での評価額が重要になります。

ステップ2:現状の正確な株式評価と課題の特定

ロードマップに基づき、現在の正確な株式評価を実施します。専門家(税理士等)に依頼し、評価計算書の作成を依頼しましょう。この際、単に評価額を知るだけでなく、評価額を構成する要素(特に含み益のある資産や利益水準など)を詳細に分析することが重要です。

評価結果が出たら、以下の点をチェックします。

  • 現在の評価額は、想定される後継者の税負担に対して高すぎないか?
  • 評価額を押し上げている主な要因は何か?(例:多額の含み益不動産、一時的な高収益など)
  • 評価額を下げる余地はあるか?
  • 簿外債務や偶発債務(将来発生しうるリスク)は適切に考慮されているか?

この分析を通じて、事業承継における株式に関する具体的な課題を特定します。「評価額が高い」「税金対策が必須」「資産構成の偏りがある」など、課題が明確になれば、次に進むべき対策が見えてきます。

ステップ3:事業承継方法と連携した株式移転・税務対策の実行

特定された課題を解決し、円滑な事業承継を実現するために、株式評価の結果に基づいた具体的な移転方法と税務対策を実行します。最も一般的なのは、生前贈与や相続を活用する方法です。

(1)生前贈与による株式移転

  • メリット:計画的に株式を承継できる、評価額が低い時期を選べる、贈与税の基礎控除(年間110万円)を活用できる、相続時精算課税制度を選択できる。
  • 注意点:贈与税が発生する場合がある、評価額が高いと税負担が重くなる、贈与契約の手続きが必要。

具体的な取り組み:複数年に分けて少しずつ贈与を行う「暦年贈与」は、年間110万円までの非課税枠を活用できる点で有効な手段です。また、税負担はかかるものの、相続時精算課税制度(累計2,500万円まで非課税、超えた分は一律20%課税、相続時に相続財産に合算)を選択するのも一つの方法です。いずれにしても、贈与実施時点での株式評価額が税負担額に直結します。

(2)相続による株式移転

  • メリット:税負担の発生を先送りにできる、遺言書を作成することで円滑な承継が可能。
  • 注意点:いつ相続が発生するか予測できない、相続時点での評価額によって税負担額が決まるため、直前に対策が難しい場合がある、複数の相続人がいる場合に株式の分割でトラブルになる可能性がある。

具体的な取り組み:遺言書を作成し、株式を後継者に集中させる意思を明確に表示することが重要です。また、他の相続人への代償財産の準備も考慮に入れておきます。相続発生後の評価となりますが、生前にある程度の対策(評価額を下げる取り組みなど)を行っておくことは有効です。

(3)株式譲渡(売買)による移転

  • メリット:後継者が対価を支払うことで、経営者の引退後の生活資金に充当できる、贈与税・相続税ではなく所得税・住民税(譲渡所得)が発生する。
  • 注意点:後継者に株式の買取代金を準備する資金力が必要となる、時価(実勢価格)での譲渡が基本となる場合が多い。

具体的な取り組み:譲渡価格の設定が重要です。税務上の適正価格より極端に低い価格で譲渡すると、贈与とみなされる場合があります。これも正確な株式評価が必要です。後継者の資金調達方法(金融機関からの借入など)も併せて検討します。

(4)事業承継税制の活用

これは、後継者が都道府県知事の認定を受けて会社の株式等を承継した場合、贈与税や相続税の納税が猶予・免除される制度です。中小企業の事業承継を強力に後押しするための特例措置であり、工務店も要件を満たせば活用できます。

  • メリット:多額の税負担をゼロまたは大幅に軽減できる可能性がある。
  • 注意点:適用には複雑な要件が多く、手続きも煩雑。承継後も経済産業大臣への報告など、一定期間(原則5年間)の制約がある。要件を満たせなくなった場合、猶予されていた税額と利子税を納付する必要が生じる。

具体的な取り組み:事業承継税制の活用を検討する場合、その複雑さから専門家(税理士など)のサポートは不可欠です。制度の要件を満たすための事前の準備(組織再編など)が必要になることもあります。特に、平成30年度税制改正で創設された「特例措置」は、適用対象が拡大され、納税猶予割合が高まるなど非常に有利になっていますが、申請期限が決まっているため、早めの検討が必要です。
この制度を活用する場合、株式評価額を把握することが、猶予される税額を知る上で大前提となります。

ステップ4:専門家連携とコミュニケーション

事業承継、特に株式評価と税務対策は非常に専門性が高いため、信頼できる専門家のサポートが不可欠です。税理士、弁護士、公認会計士、事業承継コンサルタントなど、複数の専門家と連携して進めるのが一般的です。

具体的な取り組み

  1. 専門家の選定:事業承継や中小企業の税務に詳しい専門家を選びます。複数の士業事務所から提案を受け、信頼できるパートナーを見つけましょう。
  2. 役割分担と情報共有:各専門家の役割(例:税理士は株式評価と税務、弁護士は法務、コンサルタントは計画策定・実行支援)を明確にし、情報を密に共有する体制を構築します。
  3. 後継者を含む関係者とのコミュニケーション:経営者は、事業承継のプロセスや株式評価の状況、税務対策について、後継者や会社の幹部、必要に応じて他の株主や従業員にも丁寧に説明し、理解と協力を得ることが重要です。透明性のあるコミュニケーションは、将来的なトラブルを防ぎます。

Q&A:事業承継×株式評価に関するよくある疑問

Q1:株式評価額が高い場合、後継者が支払う税金以外にどんな影響がありますか?

A1:主に後継者の資金繰りに影響します。贈与税や相続税の納税資金に加え、兄弟姉妹などの他の相続人から遺留分減殺請求を受けた場合の代償金なども、株式評価額を基に計算されるため、多額の資金が必要になる可能性があります。また、株式を買い取る形で承継する場合も、買取代金が高額になります。高すぎる評価額は、後継者にとって大きな負担となり、事業継続を難しくする要因にもなりかねません。

Q2:事業承継税制を使えば、株式評価額は関係なくなりますか?

A2:いいえ、全く関係なくなりません。事業承継税制は「納税の猶予・免除」であり、税金そのものがなくなるわけではありません。猶予される税額は、承継時点での株式評価額に基づいて計算されます。評価額が高いほど、多額の税金が猶予される形になり、将来的に猶予が打ち切られた場合のリスクも大きくなります。したがって、制度活用を検討する場合でも、評価額を引き下げる努力はリスク管理の観点から非常に重要です。

Q3:複数の後継候補がいる場合、株式はどのように分けたら良いですか?

A3:後継者が一人の場合でも、他の相続人との間で遺産分割を巡るトラブルが発生することがあります。複数の後継候補がいる場合はさらに複雑です。株式を複数の人物に分散させると、将来の意思決定に支障が出る可能性(議決権の分散)があります。原則として、経営支配権を確立できるよう、事業を主導する後継者に株式を集中させるのが望ましいと考えられます。他の後継候補や相続人には、不動産や預金などの他の資産を相続させることで、バランスを取るなどの配慮が必要です。この際にも、各資産の評価額(相続税評価額)が重要になります。遺産分割協議や遺言書作成の際には、弁護士など法律の専門家も交えて検討することをお勧めします。

事業承継を継続的に成功させるための「次の一手」

事業承継は、単に経営者の交代や株式の引継ぎ手続きを終えれば完了、というものではありません。むしろ事業承継「後」の会社の成長と安定こそが、経営者が最終的に目指すべきゴールです。株式評価に基づいた円滑な株式移転は重要なスタートラインですが、承継後に事業を継続的に成功させるためには、さらに多角的な取り組みが必要です。ここでは、バトンを受け取った後継者が、そして前経営者も、共に考え、実行すべき「次の一手」に焦点を当てます。

1. 技術・ノウハウの効果的な継承計画

工務店の核心的な価値は、長年培われた確かな技術と職人のノウハウにあります。これらを後継者や若い従業員にどう引き継ぐかは、事業承継の生命線です。

  • 具体的な取り組み:
    • 技術リストや標準作業マニュアルの作成、デジタル化。
    • 熟練工による若手へのOJT(On-the-Job Training)プログラムの systematize。
    • 外部研修や資格取得支援の強化。
    • 「匠の技」を動画や写真で記録し、社内データベースとして共有。
    • 引退する経営者や職人から、経験談や判断のポイントを聞き取る「知の伝承」ワークショップの実施。

2. 従業員への情報共有とモチベーション維持

従業員は会社の重要な財産です。事業承継に対する不安を解消し、新しい経営体制のもとで活き活きと働いてもらうための配慮が不可欠です。

  • 具体的な取り組み:
    • 早い段階で事業承継の意向や計画を正直に伝える場を設ける。
    • 後継者の紹介と、その経営ビジョンや熱意を従業員に伝える機会を作る。
    • 承継後の組織体制や人事評価制度について説明し、従業員のキャリアパスへの不安を和らげる。
    • 承継を機に、従業員持株会制度の導入や、ストックオプションの検討など、従業員が会社成長から恩恵を受けられる仕組みを導入する。

3. 取引先・顧客への円滑な引継ぎアナウンス

長年の付き合いがある取引先や顧客への配慮も重要です。経営者交代によって、取引関係に影響が出ないよう慎重に進めます。

  • 具体的な取り組み:
    • 主要な取引先・顧客には、新旧経営者揃って挨拶に伺い、今後の体制や方針を説明する。
    • 感謝の気持ちを伝え、今後も変わらぬ関係を築いていく意思を伝える。
    • 会社のパンフレット等を更新し、新しい体制をPRする。

4. 事業承継におけるリスクマネジメント

事業承継には様々なリスクが伴います。これらのリスクを事前に想定し、対策を講じることが、承継後の安定経営に繋がります。

  • 具体的な取り組み:
    • 後継者育成リスク:後継者が病気や事故などで経営ができなくなった場合に備え、複数の幹部候補を育成する、後継者育成計画を多角的に見直す。
    • 経営悪化リスク:承継後に業績が悪化した場合に備え、予備資金の確保、経営再建計画の準備、顧問弁護士やコンサルタントとの関係構築。
    • 株主間トラブルリスク:複数の株主がいる場合、株式の分散や評価額を巡る争いを防ぐため、事前に株主間契約を締結する、遺言書で意思表示を明確にする。
    • 税務リスク:税制改正への対応、複雑な規定の見落としを防ぐため、税理士との連携を継続する。

5. 承継後の経営者が取り組むべきこと:変化への対応と新たな価値創造

技術の進化、働き方の変化、顧客ニーズの多様化など、工務店を取り巻く環境は常に変化しています。後継者は、これまでの伝統を守りつつも、積極的に新しい取り組みに挑戦する必要があります。

  • 具体的な取り組み:
    • IT・DX推進:クラウドツールの活用、CAD・BIMの導入、顧客管理システムの構築などによる業務効率化と生産性向上。
    • 新しい工法や技術の導入:省エネ住宅、スマートハウス、リノベーションなど、市場ニーズに合わせた新しい技術やサービスへの挑戦。
    • 販路開拓・ブランディング強化:Webサイト活用、SNSでの情報発信、地域イベントへの参加などによる知名度向上と集客強化。
    • 組織体制の見直し:フラットな組織、提案しやすい雰囲気作りなど、従業員が能力を発揮できる環境整備。
    • 定期的な株式評価の見直し:会社の価値の変動を把握し、次なる戦略や対策(例:M&A、資金調達など)を検討するのに役立てる。

6. 支援制度の活用と外部ネットワーク構築

国や自治体は、中小企業の事業承継を支援するための様々な制度を用意しています。これらを積極的に活用することで、資金面や専門知識の面で大きな助けとなります。

  • 具体的な取り組み:
    • 事業承継・引継ぎ補助金:事業承継やM&Aに伴う経営革新等にかかる費用の一部を支援する制度の活用を検討(専門家費用、設備投資費など)。
    • 事業承継ネットワーク:各地に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関に相談し、情報収集や専門家紹介を受ける。
    • 地域の金融機関との連携:事業承継資金や承継後の運転資金について相談し、サポート体制を強化する。

成功した工務店の事業承継事例から学ぶ

具体的な事例に触れることは、自社の事業承継を考える上で大きなヒントになります。例えば、ある地域密着型の工務店では、二代目がUターンで家業を継ぎ、先代が培った職人の技術をリスペクトしつつも、クラウド型の顧客管理システムや建築ソフトを導入して業務効率を大幅に改善しました。また、地元の若手建築家と組んでデザイン性の高い住宅建築にも取り組み、新たな顧客層を獲得しました。株式評価については、現経営者が計画的に暦年贈与を進めると同時に、事業承継税制の活用も視野に入れて専門家と密に連携しました。技術継承のために、ベテラン職人には「技術指導員」として定年後も会社に残ってもらい、若手の育成に当たってもらう仕組みを構築しました。このような事例から、自社で応用できる点を学び取ることが重要です。

Q&A:事業承継後に関するよくある疑問

Q1:後継者が経営に慣れるまで、前経営者はどこまで関与すべきですか?

A1:これは事業承継において最もデリケートな問題の一つです。理想的には、円滑な引き継ぎ期間を設けた後、前経営者は経営の第一線から退き、後継者の自主的な経営を尊重することが望ましいでしょう。ただし、技術顧問や相談役として会社の重要な意思決定に関わるなど、後継者からの求めに応じて適切なサポートを続ける形もあります。お互いの役割と権限を明確にし、事前に十分な話し合いと合意形成を行うことが不可欠です。

Q2:事業承継後に資金繰りが厳しくなった場合、どうすれば良いですか?

A2:事業承継に伴う役員退職金の支払い、相続税・贈与税の納税、後継者への株式買取代金など、承継時期は資金需要が高まる傾向があります。承継前から金融機関と十分に連携し、必要な資金計画と資金調達の準備を進めておくことが重要です。承継後に予期せぬ事態で資金繰りが悪化した場合も、早期に金融機関に相談し、追加融資やリスケジュールなどの支援を求めるとともに、経営改善計画を速やかに策定・実行する必要があります。事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関も相談に乗ってくれます。

Q3:承継後に会社をさらに発展させるには、何が必要ですか?

A3:後継者には、変化を恐れずに新しいことに挑戦する姿勢が求められます。これまでの強み(技術、顧客基盤、地域密着など)を活かしつつ、時代の変化に合わせたサービス開発(例:リフォーム・リノベーション事業の強化、省エネ・ゼロエネ住宅への対応)、IT活用による業務効率化、若手人材の育成と多様な人材の活用、そして何よりも明確な経営ビジョンを持ってリーダーシップを発揮することが重要です。外部の専門家や異業種の経営者との交流を通じて、新しい知識や刺激を取り入れることも有効でしょう。

まとめ

工務店の事業承継は、単なる会社の所有権移転ではなく、地域社会における役割や、培われた技術、そして従業員の未来を引き継ぐ壮大なプロジェクトです。その中でも、自社株式の評価は、後継者の税負担予測や、スムーズな承継方法を検討するための、いわば羅針盤のような役割を果たします。この記事では、株式評価の基本的な考え方から、工務店ならではの留意点、評価額を適正化するための具体的な対策、そしてその結果を事業承継計画とどう連携させるかについて詳細に解説しました。さらに、事業承継を「完了」させるのではなく、むしろ「継続的に成功」させるための具体的な取り組みについても言及しました。

事業承継に向けた第一歩は、まず現状の自社株式評価額を知ることから始まります。そして、この記事で得た知識を参考に、専門家と連携しながら、自社にとって最適な事業承継のロードマップを策定し、具体的なアクションプランを実行に移してください。株式評価額を下げるための対策、事業承継税制の活用検討、後継者との丁寧な対話、そして技術や従業員の承継計画…。どれも一朝一夕にできることではありません。

しかし、これらの具体的な取り組みは決して難しいことばかりではありません。一つ一つ、着実に、計画的に進めていくことで、必ず明るい未来を切り開くことができるはずです。貴社の事業承継の成功は、貴社の従業員の雇用を守り、地域の皆様の住まいを守り、何世代にも渡って培われた工務店の信頼と技術を次世代へと繋ぐことに他なりません。この記事が、その一歩を踏み出すための確かな支えとなり、貴社の輝かしい未来への道標となることを心から願っています。勇気を持って、未来へのバトンを力強く受け渡してください。応援しています。

プロフィール画像

この記事を書いた人

浄法寺 亘

工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。
今動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」
※8月実施予定。
住宅サイトの運営もしています。

福島県 喜多方市出身
県立会津高校卒
市立高崎経済大学卒

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
https://x.gd/oatiM
SDGsに取り組もう 建築業界編
https://x.gd/MXYJr
とっておきの見込み客発掘法
https://x.gd/001or

主な講演:
鹿児島県庁主催「かごしま緑の工務店研修会」
リードジャパン主催「工務店支援エキスポ」(東京ビックサイト)
育英西中学校
その他住宅FCなど

活動実績
2019~ 千葉県にて里山竹林整備ボランティア
2020~ 木ッズ絵画コンクール

工務店の集客・営業ならジーレックスジャパン →ホームページはこちら

商品の差別化へ!制振装置はこちらから →耐震・制振装置

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工務店のネット集客ならこちら →工務店情報サイト ハウジングバザール

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    代表理事の浄法寺が書いた住宅営業向けの本です。特にこれからの住宅営業向けに基本的な考え方と流れについて書いています。

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    代表理事の浄法寺が「SDGsをどうすれば建築業に活かせるか」を具体的な事例を取り入れながら書いた本になります。

  • 当協会監修の本です。工務店さんの集客に役立つアイデアがたくさん詰まってます!!

  • 僕たちが応援している【建築会社ができる社会貢献】のひとつのかたちです。

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