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顧客に「また頼みたい」と言われる!工務店の感動体験提供術

公開日: : 工務店 経営

工務店経営者の皆様、日々の業務、本当にお疲れ様です。激しい価格競争、資材高騰、人手不足など、乗り越えなければならない壁は数えきれないほどあることと思います。そんな状況下で、どのようにすれば他社と差別化し、安定した経営を築いていけるのでしょうか? 価格だけでの勝負には限界があります。そこで今、多くの成功している工務店が注力しているのが、「顧客体験」の向上、そして顧客に忘れられない「感動体験」を提供することです。

お客様が家づくりを通じて感じるプロセス全体が「顧客体験」です。この体験を単なる満足で終わらせず、心を動かす「感動体験」に高めることができれば、お客様はあなたの工務店のファンとなり、「次にリフォームが必要になったらまた頼みたい」「知人に自信を持って紹介したい」と自然に思ってくださるようになります。これこそが、価格競争から抜け出し、持続的に成長するための最も確実な方法の一つです。

しかし、「顧客体験を高めると言っても、具体的に何をすればいいの?」「特別なことはできないし…」「今の業務で手一杯だ」このように感じていらっしゃるかもしれません。大丈夫です。この記事では、中小規模の工務店様でも今日からすぐに実践できる、顧客体験を劇的に向上させ、感動体験を生み出すための具体的なステップを、余すところなくご紹介します。派手な施策ではなく、日々の業務の中で少し意識を変えるだけでできることから、スタッフ全員を巻き込む方法まで、分かりやすく解説します。この記事を最後までお読みいただければ、お客様からの信頼を勝ち取り、紹介とリピートが自然に生まれる工務店へと変わるための具体的なロードマップが手に入ります。

感動体験はこう生まれる!工務店が知るべき「顧客体験」の基礎と実践ステップ

まず、「顧客体験」とは何なのか、そしてそれがなぜ感動体験につながるのかを明確に理解することが出発点です。単に品質の高い家を建てるだけでは、もはや十分ではありません。お客様が問い合わせをしてから、相談、契約、工事、引き渡し、そしてその後のアフターフォローに至るまで、すべての接点でお客様が何を感じるか。そのプロセス全体こそが「顧客体験」です。そして、この顧客体験の中で、お客様の期待を少しでも上回る瞬間や、心温まる出来事を意図的に作り出すことが、「感動体験」を生み出す鍵となります。

では、具体的にどこから始めれば良いのでしょうか。闇雲に取り組むのではなく、まずは現状把握と意識の共有から始めましょう。「顧客体験」の向上は、すべてのスタッフの協力なくしては実現できません。

1. なぜ今、「顧客体験向上」が工務店経営に不可欠なのか?

かつては「良い家を建てればお客様は満足する」という時代もありました。しかし、情報過多となった現代では、お客様は多くの選択肢の中から工務店を選びます。インターネットでいくらでも情報が得られるため、品質や価格だけでは大きな差別化が難しくなっています。お客様が最終的に「この工務店に頼もう」と決める理由、そして「また頼みたい」「紹介したい」と感じる理由は、家という「モノ」だけでなく、家づくりのプロセスにおける「体験」によるところが大きくなっています。

  • 口コミ・評判の重要性: 顧客体験が悪ければ、瞬く間に悪い評判が広がります。逆に、感動体験を提供できれば、強力なポジティブな口コミや紹介を生み、新たな顧客獲得コストを大幅に削減できます。
  • リピート・紹介の獲得: 優良な顧客体験は、将来のリフォーム案件や、そのお客様からの紹介へとつながり、売上の安定化と拡大に貢献します。
  • 価格競争からの脱却: お客様が「この工務店にお願いして本当に良かった」と感じてくれれば、価格以外の価値で選んでもらえるようになり、適正な利益を確保しやすくなります。
  • 従業員のモチベーション向上: お客様からの感謝の言葉は、働くスタッフにとって最高のモチベーションになります。良い顧客体験は、スタッフ満足度にも繋がるのです。

このように、顧客体験の向上は、単なるサービス改善ではなく、工務店の経営そのものを強化する戦略なのです。

2. 「顧客体験」と「感動体験」の違いを理解する

顧客体験は、お客様が工務店と関わるすべてのプロセスを指します。問い合わせ、資料請求、打ち合わせ、現場見学、引き渡し、アフターフォローなど、すべてのタッチポイントが含まれます。この顧客体験のレベルを高めることで、お客様は「滞りなく進んで良かった」「丁寧に対応してくれた」といった「満足」を得ます。

一方、「感動体験」は、この顧客体験の中で、お客様の期待を良い意味で大きく超えた瞬間に生まれます。「まさかここまでしてくれるとは!」「私のことをこんなに考えてくれていたなんて!」といった、お客様の心が動かされる体験です。これは必ずしも高価なサービスである必要はありません。ちょっとした心遣いや、お客様のために一歩踏み込んだ行動が、感動を生むことが多いのです。

目的は、単に「不便なく、スムーズに」というレベルの顧客体験を提供するだけでなく、「記憶に残る、心を動かされる」感動体験を意図的に作り出すことです。

3. 実践第一歩!自社の「顧客体験」を徹底的に見える化する

感動体験を生み出すためには、まず現在の顧客体験がどうなっているのかを正確に把握することが不可欠です。そのために有効なのが、「カスタマージャーニーマップ」を作成することです。難しく考える必要はありません。まずは紙とペンを用意し、お客様が工務店と関わるステップを時系列で書き出してみましょう。

  • ステップ1: お客様が工務店を知る(広告、紹介、ネット検索など)
  • ステップ2: 問い合わせ・資料請求
  • ステップ3: 初回相談・面談
  • ステップ4: プラン提案・見積もり
  • ステップ5: 契約
  • ステップ6: 詳細打ち合わせ
  • ステップ7: 着工・工事期間
  • ステップ8: 中間検査・現場確認
  • ステップ9: 完成・引き渡し
  • ステップ10: アフターフォロー・点検

これらの各ステップにおいて、お客様が「何をしているか」「何を感じているか(期待、不安、喜び、不満など)」「工務店の担当者は何をしているか」「どのようなツールを使っているか(電話、メール、対面、資料など)」を具体的に書き込んでいきます。スタッフ全員で集まって話し合いながら作成すると、様々な視点が見えてきて効果的です。

このジャーニーマップを作成することで、現在の顧客体験における「お客様の不満や不安を感じやすいポイント」「改善すべき弱点」「感動体験を生み出せそうな機会」が明確になります。

4. 「誰に」感動を届けたいか?ターゲット顧客の深掘り

すべてのお客様に同じ感動体験を提供しようとするのは効率的ではありません。あなたの工務店が最も大切にしたいお客様、理想とするお客様像(ペルソナ)を具体的に設定しましょう。

  • 年齢、家族構成
  • 職業、年収帯
  • 家づくりに求めるもの(価格、デザイン、性能、安心感など)
  • 趣味、価値観
  • 情報収集の方法
  • 家づくりに関する不安や疑問

ペルソナが明確になれば、「このお客様なら、どんなことに喜び、どんなことに感動するだろうか?」という具体的なアイデアが出やすくなります。例えば、子育て世代の夫婦なら、工事中の子供の安全への配慮や、引き渡し時に家族の手形を残すサプライズが喜ばれるかもしれません。シニア世代なら、孫が遊びに来たときに喜ぶ仕掛けや、将来的なバリアフリーへの配慮が安心につながるかもしれません。「顧客体験」を語る上で、誰に向けて提供する体験なのかを明確にすることは非常に重要です。

5. 小さな成功体験から始める:「顧客体験」改善の「最小単位」を見つける

カスタマージャーニーマップで洗い出した課題や機会の中で、すべてを一度に改善しようとする必要はありません。まずは「ここならすぐに改善できそうだ」「コストをかけずにできそうだ」という小さな一点を見つけて、集中的に取り組んでみましょう。これが「顧客体験」改善の「最小単位」です。

  • 最初の電話対応の言葉遣い、声のトーンを全員で見直す。
  • お客様からのメールへの返信を24時間以内に必ず行うルールにする。
  • 見積もり提出時の説明を分かりやすく、お客様の疑問に先回りして答える資料を一枚添える。
  • 現場の清掃・整理整頓をさらに徹底し、お客様が見学しやすいように案内ボードを設置する。

こうした小さな改善の積み重ねが、確実に顧客体験を向上させます。そして、そこで得られた成功体験やお客様からの良い反応が、次のステップへのモチベーションになります。

6. スタッフ全員を巻き込む:理念共有と初期研修

どんな素晴らしい顧客体験向上施策も、現場で実行されなければ意味がありません。「感動体験」はお客様と直接接するスタッフによって生み出されるものです。そのため、スタッフ全員が顧客体験・感動体験の重要性を理解し、同じ方向を向いていることが不可欠です。

  • 定期的なミーティングで、顧客体験向上の目標や進捗を共有する。
  • お客様からの感謝の声や良いフィードバックを全体で共有し、成功事例を称賛する。
  • ロールプレイングを取り入れ、想定される場面での対応方法を練習する。
  • 「私たちはお客様に最高の顧客体験を提供するプロフェッショナルだ」という意識を共有する。
  • 担当者が不在でも、他のスタッフがお客様の状況を把握し、スムーズに対応できる情報共有体制を整える。

顧客体験の向上は、特定の部署や個人の仕事ではなく、工務店に携わる全員の仕事であるという意識付けが最も重要です。

「感動体験」をデザインする!顧客接点ごとの具体的アプローチとQ&A

顧客体験の基礎固めができたら、いよいよ各顧客接点でお客様の心を動かす「感動体験」を意図的にデザインする実践段階です。すべての工程に共通するのは、「お客様の期待を超える」という意識です。では、具体的なステップを見ていきましょう。

1. 各顧客接点での「感動スイッチ」を押す具体的なアイデア

カスタマージャーニーマップで洗い出したそれぞれの接触ポイントにおいて、お客様に「おお!」と感じてもらえるような工夫を凝らします。

契約前段階:信頼構築と期待値管理

  • 初回問い合わせ・相談: 素早い反応はもちろん、お客様の小さな疑問や不安にも丁寧に寄り添う。「こんなこと聞いても良いのかな?」と思われがちなことでも、快く答える姿勢が安心感につながります。
  • ヒアリング: 家のことだけでなく、お客様のライフスタイル、趣味、休日の過ごし方、家族の夢など、パーソナルな部分にも耳を傾ける。これにより、お客様は「自分の話をしっかり聞いてくれている」と感じ、深い信頼感が生まれます。これらの情報は、後の「サプライズ」のヒントにもなります。
  • プラン提案・見積もり: 単に間取り図と数字を渡すだけでなく、なぜこのプランなのか、この仕様はお客様の要望にどう応えているのかを、情熱を持って語る。見積書も、項目を分かりやすく解説した資料を添付するなど、お客様が理解しやすいように工夫する。
  • 期待値管理: いつまでに見積もりを提出できるか、次の打ち合わせまでに何を用意すれば良いかなど、今後の流れやお客様にお願いすることを明確に伝える。できないことはできないと正直に伝え、無理な期待をさせないことも信頼につながる良い顧客体験です。

契約時:祝福ムードの演出

  • 温かい雰囲気の部屋を用意する。
  • 契約書の内容を改めて分かりやすく説明し、お客様の疑問に丁寧に答える。
  • 記念撮影をするなど、特別な日であることを演出する。
  • ささやかなギフト(例:地元の銘菓、家づくりに関する書籍、工事中の飲み物代として商品券)を渡す。

単なる事務手続きにせず、「いよいよ夢の家づくりが始まる!」というお祝いムードを共有することが感動体験につながります。

工事中:安心とワクワク感の提供

  • こまめな進捗報告: お客様がいつでも工事の進捗を確認できるよう、写真付きのメールや専用のチャットツール、アプリなどで定期的に報告を行う。ブログ形式でお客様しか見られない工事レポートを綴るのも良いでしょう。
  • 現場の整理整頓・清掃: いつお客様が見学に来ても気持ちが良いように、現場を常に整理整頓し、清掃を徹底する。近隣への配慮も怠らず、報告する。
  • 特別な現場見学: お客様の都合に合わせて柔軟に現場見学の機会を設ける。工事担当者が直接説明することで、お客様の安心感と家づくりへの関心が高まります。構造材に家族でメッセージを書くイベントなども喜ばれます。
  • 担当者間の連携: 営業、設計、工事担当者間で密に情報共有し、お客様からの質問や要望に誰でもスムーズに答えられるようにしておく。たらい回しは顧客体験を一気に損ないます。

引き渡し時:感謝と感動のフィナーレ

  • 取扱説明を丁寧に行うのはもちろん、お客様の新しい生活への期待感を高めるようなポジティブな言葉を添える。
  • サプライズを用意する(例:手書きのメッセージカード、工事中の写真をまとめたフォトブック、家族の手形&完成当時の日付が入ったタイル、引っ越し後すぐに使える日用品詰め合わせ)。
  • 記念写真を撮る。可能であれば、後日データやプリントをプレゼントする。
  • お客様からの「ありがとう」をスタッフ全員で分かち合う。

引き渡しはゴールではなく、お客様との長いお付き合いのスタートであることを意識し、感謝の気持ちを伝えることが重要です。

アフターフォロー:安心と継続的な関係構築

  • 定期点検: 定期点検のお知らせに手書きのメッセージを添えるなど、事務的な連絡に温かみを加える。点検時には、お客様の様子を伺い、困りごとがないか丁寧にヒアリングする。
  • 定期点検以外の接触: 季節のご挨拶状、年賀状、お客様の誕生月にお祝いメッセージを送るなど、家のことだけでなくお客様個人に関心を持っていることを伝える。
  • OB施主様向けイベント: 感謝祭、メンテナンス講習会、ワークショップなどを企画し、お客様同士や工務店とのつながりを深める機会を設ける。
  • 困りごとへの迅速・誠実な対応: 些細なことでも、お客様からの連絡には素早く対応する。たとえ有償の工事になる場合でも、丁寧な説明と迅速な見積もり、誠実な工事で信頼を維持・向上させる。

2. 標準化と個別対応の使い分け

感動体験の提供といっても、すべてのことをお客様に合わせて個別に行うのは現実的ではありません。ある程度のサービスレベルや必須の行動(電話は3コール以内に出る、メールは24時間以内に一次返信するなど)は 표준화(標準化)し、お客様に安心感を与えます。その上で、個々のお客様の特性やニーズに合わせて、プラスアルファの「感動スイッチ」を押す工夫を凝らします。例えば、すべてのお客様に引き渡し記念品を渡すのは標準化、その記念品をお客様の趣味に合わせたものにするのは個別対応です。

3. 「小さな感動」をデザインする具体例

感動体験は、必ずしも高額なサービスである必要はありません。むしろ、お客様の予想を良い意味で裏切る、小さな心遣いが大きな感動を生むことが多いのです。

  • 打ち合わせスペースに、お客様が好きな飲み物や小さなお子様が好きそうなお菓子を用意しておく。
  • お客様が以前話していたペットや趣味について、次回の打ち合わせで「〇〇ちゃん(ペットの名前)はお元気ですか?」「先日お話しされていた△△、私も興味があって少し調べてみました」などと声をかける。
  • 工事担当者が、工事中に見つかった古い棟札や記念物をお客様に見せ、家の歴史について語る。
  • 引き渡しの際、新しい家の鍵と一緒に、スタッフ全員からの手書きメッセージを添える。
  • お客様がSNSで家づくりについて投稿されていたら、そこに温かいコメントを入れる(プライベートな部分に踏み込みすぎない配慮は必要)。

4. 顧客の声の活用法

感動体験を提供できているか、改善点はどこにあるのかを知るためには、お客様からのフィードバックが不可欠です。

  • アンケート: 引き渡し時や定期点検後に、郵送やオンラインフォームでアンケートを実施する。「最も良かった点」「改善してほしい点」「友人や知人に勧める可能性(NPS)」などを聞く。
  • 口コミサイト・SNSエゴサーチ: Googleレビューや地域の口コミサイト、SNSでお客様が自社についてどのように書いているか定期的に確認する。
  • 直接の対話: 定期点検時やイベント時に、お客様の「生の声」を丁寧に聞き出す。

集まった顧客の声は、単に保管するのではなく、スタッフ全員で共有し、改善策の検討や成功事例の共有に活用することが重要です。「顧客体験」の改善は、これらフィードバックを基に行うことで、より効果的になります。

5. スタッフを巻き込む仕組み:成功の共有と権限委譲

感動体験は、経営者や一部の担当者だけでは生み出せません。現場のスタッフ一人ひとりが「良い顧客体験を提供したい」という意識を持つことが重要です。

  • お客様からの感謝のメッセージやお褒めの言葉を、社内報や共有スペースに張り出すなど、見える化する。
  • 顧客体験向上のために良い取り組みをしたスタッフを全体ミーティングで表彰するなど、正当に評価する。
  • お客様に感動を与えた具体的なエピソードを共有し、他のスタッフが学べるようにする。
  • 一定の範囲で、スタッフに「お客様を喜ばせるための費用」の裁量(例:〇〇円までなら自己判断で使える)を与える。これにより、現場での柔軟な対応が可能になり、感動体験を生み出しやすくなります。

Q&A: よくある疑問とその解決策

Q: 「スタッフに任せるのが不安です。勝手なことをしてお客様に迷惑をかけないか心配です。」

A: スタッフに全てを任せるのではなく、まずは一部の「標準化された範囲」から任せてみましょう。例えば、「お客様からの電話は3コール以内に出て、担当者が不在の場合は要件を丁寧に伺い、〇時間以内に折り返し連絡することを約束する」といった基本的なルールを徹底させます。その上で、成功事例を共有したり、ロールプレイング研修を行ったりして、スタッフのスキルを教育・向上させます。小さな権限委譲から始め、成功体験を積ませることで、スタッフの自信とスキルが向上し、不安は解消されていくはずです。

Q: 「クレームが発生した場合は、顧客体験はどうなりますか?」

A: クレーム発生時は、むしろ感動体験を生み出す最大の機会です。迅速、誠実、そしてお客様の感情に寄り添った対応をすることで、お客様は「困ったときにこそ、しっかり対応してくれる会社だ」と強く信頼してくれます。重要なのは、問題解決だけでなく、お客様が抱える不安や怒りといった感情を丁寧に受け止めることです。クレーム対応後に、なぜその問題が起きたのか、今後どう再発防止に努めるのかをしっかりと伝えられれば、顧客体験はマイナスではなく、むしろプラスに転じる可能性があります。失敗を恐れず、真摯に対応することがお客様の心を動かします。

Q: 「忙しくて、顧客体験向上のための特別な時間が取れません。どうすれば良いですか?」

A: 最初から特別な時間を取る必要はありません。まずは、日々の業務の中に「お客様視点」を取り入れることから始めましょう。例えば、お客様へのメールを送る前に「このメールを読んだお客様は、どう感じるだろうか?」と一呼吸置いて考える、現場を出る前に「お客様が見に来られたら、この状態をどう思うだろう?」とチェックするなど。小さな意識改革は、特別な時間を必要としません。また、カスタマージャーニーマップ作成やスタッフミーティングなど、まとまった時間が必要な取り組みは、月に一度、午前中だけなど、無理のない範囲で定期的に行う計画を立てましょう。全てを完璧にこなそうとせず、できることから始めるのが継続の秘訣です。

感動体験を「仕組み化」する:継続的な顧客体験向上と経営への貢献

一度感動体験を提供できたとしても、それが単発で終わってしまっては意味がありません。顧客体験の向上は、継続的な取り組みであり、工務店の文化として根付かせる必要があります。そして、この取り組みが経営にどのように貢献しているかを測定することも重要です。

1. 効果測定の方法:投資に見合う「顧客体験」の効果を知る

顧客体験向上の取り組みが成果を上げているかを知るためには、具体的な指標を設定し、測定することが重要です。

  • リピート率: 一度家を建てられたお客様が、リフォームや外構工事などで再度依頼してくれた割合。
  • 紹介率: お客様からの紹介で新規のお客様を獲得した割合。
  • 顧客満足度: アンケートなどで「非常に満足」「満足」と答えたお客様の割合。
  • NPS(ネット・プロモーター・スコア): 「友人や知人に工務店を勧めたいか」という質問に対し、0-10の10段階で評価してもらい、推奨者(9-10点)から批判者(0-6点)の割合を引いた数値。顧客ロイヤルティを示す指標とされます。
  • 口コミ数・評価点: Googleレビューなどのオンラインでの口コミの数や平均評価点。
  • お客様の声の質・量: ポジティブなフィードバックがどれだけ寄せられているか。

これらの指標を定期的にモニタリングすることで、取り組んでいる施策が効果を上げているのか、どの部分にまだ課題があるのかが見えてきます。顧客体験への投資は、これらの指標の向上という形で経営に貢献していることを把握しましょう。

2. 継続的な改善のサイクル(PDCA)を回す

顧客体験向上は一度やれば終わりではありません。常に変化するお客様のニーズや市場環境に合わせて、改善を続ける必要があります。

  • Plan(計画): お客様の声や測定した指標を分析し、次の改善目標と具体的な施策を計画する。
  • Do(実行): 計画に基づき、新たな施策を実行する。
  • Check(評価): 実行した施策の効果を、設定した指標で評価する。お客様の反応や、スタッフの意見も参考に多角的に評価する。
  • Action(改善): 評価結果をもとに、施策を改善したり、新たな課題に対する対策を検討したりする。

このPDCAサイクルを従業員全員で回す仕組みを作ることが、「顧客体験」を継続的に向上させるための鍵となります。

3. 顧客コミュニティの構築:絆を深め、紹介を生む

引き渡し後もお客様との関係を継続するため、顧客コミュニティを構築することも有効です。OB施主様限定のイベント(例:BBQ大会、木工教室、メンテナンス講習会、ワイン会など)を企画・運営することで、お客様同士や工務店との絆を深めることができます。こうしたコミュニティは、お客様が気軽に相談できる場となり、リフォームや増改築の相談につながるだけでなく、参加者同士の口コミや紹介が生まれる強力なチャネルにもなります。「顧客体験」は、家づくり期間だけでなく、その後の暮らしのサポートまで含めてデザインすることで、より強固なものになります。

4. ブランド哲学としての「顧客体験」:選ばれる理由を明確に

顧客体験への取り組みは、単なるサービス向上策に留まらず、工務店のブランドそのものへと昇華させることができます。「私たちは、お客様の人生に寄り添う最高の顧客体験を提供する工務店です」といった明確なメッセージを掲げ、それをすべての活動の軸とする。これにより、お客様から「〇〇工務店といえば、とにかく親切で、安心して任せられる」といった、価格以外の明確な「選ばれる理由」を確立できます。全従業員がこの哲学を理解し、日々の業務で体現することが重要です。

5. 紹介・リピートを生む仕掛け作り

良い顧客体験を提供していれば、自然と紹介は生まれますが、さらに促進するための仕組みを作ることも検討しましょう。

  • OB施主様向けの紹介特典を設ける(例:紹介してくれた方、された方の双方にギフト券や割引券)。
  • OB施主様限定のリフォーム割引や優先対応サービスを提供する。
  • 定期的にOB通信(ニュースレター)を発行し、工務店の近況やお客様からの声、メンテナンス情報などを発信する。
  • お客様の同意を得て、新築を検討しているお客様とOB施主様が交流できる機会を設ける。

これらの仕掛けは、「良い顧客体験」がベースにあってこそ効果を発揮します。

6. 失敗から学ぶ:クレーム対応を感動体験に変える

どんなに努力しても、予期せぬトラブルは起こり得ます。重要なのは、トラブル発生時にどのように対応するかです。トラブルやクレームは、工務店の真価が問われる瞬間であり、適切な対応は顧客体験を損なうどころか、むしろ信頼を深めるチャンスとなります。

  • お客様の意見に耳を傾け、共感する姿勢を示す。
  • 言い訳をせず、事実を認め、誠実に対応することを約束する。
  • 迅速に原因を究明し、再発防止策を含めた解決策を具体的に提示する。
  • 進捗状況をこまめに報告し、お客様の不安を軽減する。
  • 問題解決後も、お客様の状況を気遣うフォローを継続する。

クレーム対応を通じて「この会社なら、何かあっても安心して任せられる」と感じていただければ、そのお客様は以前にも増して強い信頼を工務店に寄せ、最も熱心なファンになってくれる可能性すらあります。ピンチをチャンスに変える意識で「顧客体験」を捉えましょう。

まとめ:選ばれ続ける工務店になるために

ここまで、工務店経営における「顧客体験」の重要性から、お客様に「また頼みたい」「紹介したい」と思われるような「感動体験」を生み出すための具体的なステップ、そしてそれを継続的な仕組みとする方法について解説してきました。

価格競争が激化し、情報があふれる現代において、単に高品質な家を建てるだけでは、お客様に選ばれ続けることは難しくなっています。これからの工務店経営において、最も強力な武器となるのが、お客様が家づくりを通じて経験するすべてのプロセスをデザインし、期待を超える感動体験を提供することです。

まずは、現在の顧客体験を可視化し、お客様がどのようなステップで家づくりを進め、それぞれの段階で何を感じているのかを理解することから始めましょう。そして、小さなことからでも良いので、お客様の心を動かす「感動スイッチ」を押すための具体的な工夫を、各顧客接点に散りばめてください。高価なサービスである必要はありません。お客様の話を丁寧に聞く、こまめに進捗を報告する、温かい手書きメッセージを添えるなど、少しの心配りが大きな感動を生みます。

この取り組みを単発で終わらせるのではなく、スタッフ全員を巻き込み、お客様の声を聞き、継続的に改善していく仕組み(PDCAサイクル)を構築することで、「顧客体験」の質は確実に向上していきます。そして、向上した顧客体験は、リピートや紹介といった形で必ずや工務店の安定経営と成長に貢献してくれるはずです。

顧客体験への投資は、未来への投資です。今日この記事でご紹介した具体的なステップは、どれも特別な設備や多額の予算を必要とするものではありません。日々の業務の中で、少し「お客様は今、どう感じているだろうか?」という視点を加えるだけで、大きな変化が生まれます。ぜひ、一つでも多くのアイデアを自社に取り入れ、実践してみてください。

お客様からの「ありがとう」「またお願いね」という言葉は、工務店で働く全ての人間にとって最高の報酬であり、次の仕事への活力となります。顧客体験の向上を通じて、お客様に選ばれ愛される工務店を共に目指しましょう。皆様の工務店が、地域で最も信頼され、多くのお客様の笑顔と感動を生み出す存在となることを心から応援しています。

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浄法寺 亘

工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。 今動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」 ※8月実施予定。 住宅サイトの運営もしています。 福島県 喜多方市出身 県立会津高校卒 市立高崎経済大学卒 著書: 頼みたくなる住宅営業になれる本 https://x.gd/oatiM SDGsに取り組もう 建築業界編 https://x.gd/MXYJr とっておきの見込み客発掘法 https://x.gd/001or 主な講演: 鹿児島県庁主催「かごしま緑の工務店研修会」 リードジャパン主催「工務店支援エキスポ」(東京ビックサイト) 育英西中学校 その他住宅FCなど 活動実績 2019~ 千葉県にて里山竹林整備ボランティア 2020~ 木ッズ絵画コンクール
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この記事を書いた人

浄法寺 亘

工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。
今動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」
※8月実施予定。
住宅サイトの運営もしています。

福島県 喜多方市出身
県立会津高校卒
市立高崎経済大学卒

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
https://x.gd/oatiM
SDGsに取り組もう 建築業界編
https://x.gd/MXYJr
とっておきの見込み客発掘法
https://x.gd/001or

主な講演:
鹿児島県庁主催「かごしま緑の工務店研修会」
リードジャパン主催「工務店支援エキスポ」(東京ビックサイト)
育英西中学校
その他住宅FCなど

活動実績
2019~ 千葉県にて里山竹林整備ボランティア
2020~ 木ッズ絵画コンクール

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