利益率を上げる!工務店のコストコントロール術
多くの工務店経営者様が、資材価格の高騰、人件費の上昇、そして激化する競争環境の中で、会社の存続と成長のために日々奮闘されています。特に、工事の売上はあっても、手元に残る利益が少ないと感じる、あるいは利益率が思うように改善しないという悩みは尽きないでしょう。利益改善は、単なる「儲けを増やす」という話ではなく、企業を健全に保ち、従業員やその家族の生活を守り、地域社会へ貢献し続けるための根幹となります。そして、その成果を測る重要な指標が利益率です。利益率を向上させることは、経営の安定化に直結し、将来への投資や新しい挑戦を可能にします。
この記事では、「利益率を上げる!」という目標を達成するために、工務店がすぐにでも取り組める具体的なコストコントロール術に焦点を当てます。見積もり作成から現場管理、原価分析、そして間接費の見直しに至るまで、利益改善のための実践的なステップを詳細に解説します。読者の皆様が抱える「どこから手を付ければいいのか?」「どうすれば継続的にコストを削減できるのか?」といった疑問に具体的にお答えし、今日から実行できるアクションプランを提供します。この記事を通じて、皆様の工務店がより高い利益率を実現し、持続可能な経営体質を築くための一助となれば幸いです。
利益率の「実践的」導入戦略:基礎から応用まで
「利益改善」と聞くと、漠然とした目標のように感じるかもしれません。しかし、具体的にどこに問題があるのかを把握することから利益改善は始まります。まず、自社の利益構造を正しく理解し、利益率がどのように計算され、何によって変動するのかを明確にしましょう。この基本なくして、効果的なコストコントロールは実行できません。
利益率とは?基本の理解
工務店における利益率は、主に売上高に対する粗利益率、あるいは経常利益率で評価されます。
- 粗利益率: (売上高 – 売上原価) ÷ 売上高 × 100
売上原価とは、工事にかかる直接的な費用(材料費、労務費、外注費など)です。粗利益率は、工事そのものの収益性を示します。 - 経常利益率: 経常利益 ÷ 売上高 × 100
経常利益とは、粗利益から販売費及び一般管理費(販管費:人件費、家賃、広告費、交通費など)を差し引いた利益です。会社の総合的な収益力を示します。
どちらの利益率も重要ですが、工務店の利益改善においては、まず粗利益率に影響を与える「売上原価」のコントロールが最も直接的かつ大きな効果を生みやすい領域です。次に、会社全体の効率性を示す経常利益率を高めるために、販管費の見直しを行います。
工務店のコスト構造を分解する
自社の利益率が低い、あるいは伸び悩んでいる原因を特定するためには、コストを細かく分解して分析する必要があります。主なコスト項目は以下の通りです。
- 直接工事費(売上原価):
- 材料費: 木材、建材、設備機器など、個別の工事に直接使用される材料の費用。
- 労務費: 自社の職人や技術者の、個別の工事に直接かかる人件費。
- 外注費: 専門工事業者(大工、左官、電気、設備など)への支払い。
- その他直接費: 現場の仮設費用、重機リース料、運搬費など、個別の工事に直接かかる費用。
- 間接費(販売費及び一般管理費):
- 人件費: 営業担当者、設計担当者、現場監督(特定工事に紐づかない部分)、事務スタッフなど、工事全体や会社運営に関わる人件費。
- 家賃・水道光熱費: 事務所や倉庫にかかる費用。
- 広告宣伝費: ホームページ、チラシ、展示会などの費用。
- 車両費: 車両の購入、維持、燃料費。
- 通信費・IT関連費: 電話、インターネット、ソフトウェア利用料。
- その他間接費: 保険料、税金、旅費交通費、消耗品費など。
これらのコスト項目をリストアップし、過去の工事データや決算書から、それぞれの項目が売上高に対してどのくらいの割合を占めているのかを数値化してみましょう。例えば、「材料費比率」「外注費比率」「人件費比率(販管費)」などを算出します。この数値を見ることで、どのコストが特に高いのか、あるいは目標とする利益率に対してどの項目を削減すべきかの糸口が見えてきます。これが、具体的な利益改善活動の出発点となります。
利益改善×利益率:成果を最大化する具体的な取り組み
コスト構造の理解が進んだら、いよいよ具体的な利益改善策を実行に移します。ここでは、工務店の利益率向上に直結する、実践的なコストコントロール手法をステップ形式で解説します。それぞれのステップには、読者の皆様がすぐに取り組める具体的なアクションを含んでいます。
1. 見積もり精度を徹底的に高める
工事の利益率を決定づける最初の、そして最も重要なステップは見積もり作成です。見積もり段階での甘さや漏れは、そのまま実行予算や最終的な利益率の低下に直結します。
- A. 標準単価・標準歩掛かりの整備: 過去の類似工事データや実績に基づき、材料費、労務費、外注費などの標準単価や標準歩掛かり(単位作業あたりの時間や人工数)を設定します。これにより、見積もり担当者によるバラつきをなくし、積算の精度を上げることができます。定期的に見直し、最新の市場価格や自社の生産性に合わせることも重要です。
- B. 見積もり項目の詳細化: 見積もり書を単に価格を提示するだけでなく、工事内容、使用材料、工期、支払い条件などを明確に記載します。予期せぬ追加工事や仕様変更によるコスト上昇リスクを減らし、顧客との認識のズレを防ぎます。
- C. リスク費用の考慮: 解体で発生する可能性のある隠れた費用、地盤改良の不確定要素、天候による工期遅延リスクなど、予期せぬ事態によるコスト増を吸収するための予備費を見積もりに適切に計上することを検討します。
- D. 見積もり段階での部門連携: 営業、設計、現場監督、積算担当者など、関係部門が見積もり段階から連携し、実現可能性や潜在的なコスト要因を多角的に検討します。特に現場の視点を取り入れることが重要です。
2. 実行予算を緻密に策定し、厳格に管理する
見積もりが受注につながったら、次は実行予算の策定です。実行予算は、各工事で「いくらの原価で完成させるか」という具体的な目標であり、利益改善のための現場の行動指針となります。
- A. 見積もりからの正確な落とし込み: 受注した見積もり金額を、原価項目(材料費、労務費、外注費など)ごとに詳細な実行予算として落とし込みます。標準単価・歩掛かりを活用し、現実的な目標値を設定します。
- B. 工事責任者(現場監督)への予算共有と権限委譲: 作成した実行予算を、工事責任者と徹底的に共有します。「自分たちの現場の予算」として意識してもらい、予算内でのやりくりに関する一定の権限を与えます。
- C. 日々または週ごとの原価実績の把握: 現場で発生する材料費の使用量、職人さんの人工数、外注業者からの請求などを、実行予算と比較しながらリアルタイムに近い形で把握します。原価管理システムやクラウドツールを活用すると、この作業の効率と精度が格段に向上します。
- D. 予算超過リスクの早期発見と対策: 実績が予算を上回りそうな項目があれば、早期に原因を特定し、手を打ちます。例えば、特定の材料の使用量が多い場合は使用方法の見直し、特定の作業で時間がかかっている場合は手順の改善や応援の手配などを検討します。実行予算管理は「事後報告」ではなく「事前対策」のために行います。
3. 材料費・外注費の購入・発注を適正化する
直接工事費の大きな割合を占める材料費と外注費は、利益率に直接影響します。適正化は、単なる値引き交渉だけではありません。
- A. 複数業者からの相見積もり: 同じ仕様の材料や外注工事について、複数の供給元や業者から見積もりを取り、価格を比較検討します。ただし、安さだけでなく、品質、納期、信頼性も考慮に入れることが重要です。
- B. 仕入れルートの見直し: 現在の仕入れルートが最適か検討します。商社経由だけでなく、メーカー直販、共同購入、インターネット販売など、様々な選択肢を探ります。
- C. 定期的な価格交渉と協力関係の構築: 主要なサプライヤーや外注業者とは、定期的に価格交渉を行う一方で、長期的な協力関係を築くことも大切です。安定した発注量や円滑なコミュニケーションは、結果的にコスト効率や品質の向上につながります。一方的な値下げ要求は、品質低下や協力関係の悪化を招くリスクがあるため注意が必要です。
- D. 計画的な発注と在庫管理: 無駄な運搬費や保管費用を削減するため、工事の進捗に合わせて計画的に材料を発注します。不要な過剰在庫を持たないように管理を徹底します。
4. 現場の生産性を向上させ、労務費を抑える
自社労務費や外注費としての労務費は、現場の効率に大きく左右されます。生産性の向上は、利益改善の重要な柱です。
- A. 詳細な工程計画と進捗管理: 事前にしっかりと工程計画を立て、職人さんや外注業者が無駄なくスムーズに作業できるよう手配します。日々の進捗を確認し、遅れが生じそうな場合は早期に調整します。手待ち時間の発生は、そのまま人件費の無駄につながります。
- B. 現場の整理整頓: 材料や工具が整理され、作業スペースが確保されている現場は、動線がスムーズになり作業効率が上がります。5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の徹底は、安全性の向上だけでなくコスト削減にも貢献します。
- C. 職人さんの多能工化支援: 可能であれば、一人の職人さんが複数の種類の作業をこなせるように教育・支援します。特定の作業員待ちの時間を減らし、現場状況の変化に柔軟に対応できるようになります。
- D. 効率的な工具や機械の導入: 作業時間を短縮し、労力や人工数を減らせるような新しい工具や機械があれば、投資対効果を検討して積極的に導入します。
5. 間接コスト(販管費)を見直し、スリム化する
直接工事に関わらない間接コストも、利益率を圧迫する要因となります。定期的な見直しが必要です。
- A. 固定費の削減: 家賃、リース料、保険料など、毎月必ず発生する固定費を見直します。例えば、契約内容や提供会社を変更することで削減できる場合があります。ペーパーレス化による印刷費・用紙代の削減も効果的です。
- B. 変動費のコントロール: 旅費交通費、通信費、消耗品費など、使用状況に応じて変動する費用は、利用ルールの徹底や代替手段(オンライン会議など)の活用で抑えることができます。
- C. 広告宣伝費の効果測定: 投下している広告宣伝費が、実際にどのくらいの問い合わせや受注につながっているのかを測定します。効果の低い媒体や手法からは撤退し、費用対効果の高いものに絞り込みます。
- D. ITツールの活用による業務効率化: 勤怠管理、経費精算、申請業務などをシステム化することで、事務作業にかかる人件費や時間を削減できます。初期投資はかかりますが、中長期的なコスト削減と生産性向上に繋がります。
6. 付加価値を創造し、適切な価格設定を行う
利益改善はコスト削減だけでなく、提供するサービスの価値を高め、適正な価格で受注することも重要です。
- A. 顧客ニーズの深い理解: 顧客が何を重視しているのか(デザイン、性能、価格、安心感など)を深く理解し、それに応じた提案を行います。
- B. 自社の強みの明確化と訴求: 他社にはない自社の技術力、デザイン力、アフターサービス、地域密着などの強みを顧客にしっかりと伝えます。
- C. 価格競争からの脱却: 「安いから受注できる」という考え方から脱却し、提供する「価値」に基づいた価格設定を目指します。高付加価値なサービスを提供することで、利益率を確保しやすくなります。
- D. 追加・変更工事の適正な対応: 顧客からの追加・変更要望が発生した場合、その都度、かかる費用と期間を正確に見積もり、合意形成を行います。曖昧な対応は、無駄な追加費用を発生させ、利益率を低下させます。
これらの具体的な取り組みは、すべて利益率向上に繋がります。一つ一つの積み重ねが、確実に利益改善を実現していくのです。
利益改善を継続的に成功させるための「次の一手」
利益改善は一度行えば終わりというものではありません。市場環境の変化、資材価格の変動、新しい技術の登場など、常に変化する経営環境に対応しながら、継続的に取り組むことが重要です。ここでは、利益改善活動を持続させ、さらなる成果に繋げるための「次の一手」について解説します。
利益改善をデータで見る:効果測定の重要性
闇雲にコスト削減を行うのではなく、何を行い、その結果どう変わったのかを数値で把握することが不可欠です。
- A. 目標となるKPI(重要業績評価指標)の設定: 全社または個別の工事ごとに、達成すべき利益率(粗利率、経常利益率)、材料費比率、外注費比率などの具体的な数値を設定します。
- B. 定期的なモニタリング: 月次、四半期ごとなど、定めた期間でKPIの実績値を測定し、目標値と比較します。特に、工事ごとの収支結果を正確に集計・分析することが、次回以降の工事の利益率向上に繋がります。
- C. 差異分析と原因究明: 目標と実績に乖離がある場合は、その原因を徹底的に分析します。「なぜこの工事は利益率が低かったのか?」(見積もりミス、実行予算超過、外注費の高騰など)を明確にし、次のPDCAサイクルに活かします。
「うちはどんぶり勘定で…」といった声も聞かれますが、利益改善のためには、まずは現状を正確な数値で把握することが最初の、そして最も重要なステップです。
システム導入による効率化と見える化
精緻な原価管理や多様なコスト分析を手作業で行うには限界があります。ITシステムの導入は、継続的な利益改善を支える強力なツールとなります。
- A. 原価管理システムの活用: 工事ごとの実行予算と実際にかかった原価をリアルタイムに入力・比較できるシステムは、予算オーバーの早期発見や工事別収支の正確な把握に役立ちます。材料費、労務費、外注費などの項目別に集計・分析できるため、どのコストに問題があるかの特定が容易になります。
- B. 業務系システムの連携: 見積もり、受発注、勤怠、経費精算などのシステムを連携させることで、データ入力の手間を省き、転記ミスを防ぎ、より正確で迅速な経営情報の把握が可能になります。
- C. クラウドサービスの利用: 導入コストが抑えられ、インターネット環境があればどこからでもデータにアクセスできるクラウド型のシステムは、現場担当者との情報共有にも有効です。
システム導入は初期投資が必要ですが、長期的に見れば、適切なコスト管理による利益率向上、事務作業の効率化による人件費抑制など、大きなリターンが期待できます。「うちには無理だ…」と思わず、まずは小規模なシステムや無料トライアルから検討してみる価値は十分にあります。
社内全体で利益改善に取り組む文化を作る
経営者だけがコスト意識を持っても、現場やバックオフィスで徹底されなければ効果は限定的です。全社で利益改善に取り組む意識を醸成することが重要です。
- A. コスト意識の共有と教育: 従業員一人ひとりが、自分の仕事が会社の利益にどう繋がっているのか、コスト管理の重要性を理解できるように教育・研修を行います。特に、現場の職人さんや監督さんが材料の無駄削減や作業効率向上を意識することが利益率向上に大きく貢献します。
- B. 成功事例の共有と表彰: コスト削減や利益率向上に貢献した部署や個人の成功事例を共有し、取り組みを称賛する機会を設けます。ポジティブな雰囲気で取り組みを推進します。
- C. 計画段階からの従業員の参加: 見積もりや実行予算の策定段階から、現場担当者や関連部署の意見を取り入れます。自分たちで考え、納得して目標設定に参加することで、主体的なコスト管理意識が生まれます。
利益改善は「やらされている」と感じるものではなく、「自分たちの会社を良くする」ための自主的な取り組みであるべきです。
継続的な利益改善サイクルを回す(PDCA)
これまでの取り組みは、このPDCAサイクルに組み込むことで、より効果的な継続的な改善活動となります。
- Plan (計画): 目標利益率を設定し、その達成のためにどのコスト項目を、どのように改善するか具体的な計画を立てます。過去のデータ分析に基づいた計画が重要です。
- Do (実行): 計画に基づいて、見積もり精度向上、実行予算管理、仕入れ先交渉、現場の効率化などの具体的なアクションを実行します。
- Check (評価): 設定したKPIを定期的に測定し、計画通りに利益率が改善しているか、実行予算は守られているかなどを評価します。データに基づいて客観的に判断します。
- Act (改善): 評価の結果、計画通りに進んでいない場合は、原因を分析し、計画や実行方法を見直します。うまくいったことは標準化し、他の工事や業務にも横展開します。
このサイクルを回し続けることで、工務店は変化に対応し、常に最適なコスト構造と高い利益率を維持できるようになります。最初の「Plan」である利益改善の計画は、このPDCAの最初の推進力となるでしょう。
まとめ
この記事では、工務店経営における利益改善と利益率向上を実現するための、具体的で実践的なコストコントロール術をご紹介しました。まず、自社のコスト構造を正確に理解し、粗利益率、経常利益率といった指標を明確に把握することから始めます。そして、見積もり精度の向上、実行予算の厳格な管理、材料費・外注費の適正化、現場生産性の向上、間接コストの見直しといった各ステップを着実に実行することが、利益率向上の鍵となります。これらの取り組みは、場当たり的な「値引き」ではなく、経営体質そのものを強化することを目指します。さらに、これらの活動を継続していくためには、データに基づいた効果測定、ITシステムの活用、そして何よりも全従業員がコスト意識を持つ文化を醸成することが不可欠です。PDCAサイクルを回し、常に改善を目指す姿勢が、外部環境の変化にも強い会社を作り上げます。今日からできる小さな一歩を踏み出し、継続的に取り組んでください。具体的なアクションの積み重ねが、皆様の工務店の持続的な成長と安定した未来を必ず実現します。
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