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事業承継で引き継ぐべき経営理念と企業文化

公開日: : 工務店 経営

地域に根ざし、一つ一つ想いを込めた家づくりを手がける工務店。お客様との信頼関係、職人の技術、そして社員の絆によって成り立っています。長年培ってきた大切なものを次の世代へどう引き継ぐか――。多くの工務店経営者様にとって、事業承継は避けて通れない、そして最大の関心事の一つでしょう。しかし、ここでよく誤解されるのが、「事業承継は会社の権利や資産、顧客基盤を引き渡すこと」だと捉えがちな点です。

もちろんそれらも重要ですが、本当に引き継ぐべきは、経営者が創業以来大切にしてきた「魂」ともいうべき、経営理念と企業文化です。財務状況や顧客リストは数字や書類で引き継げますが、なぜその工務店が存在し、どのような価値をお客様や地域に提供し、社員に何を求めるのか、といった根幹にある考え方は、意図的に、そして丁寧に引き継がなければ途絶えてしまいます。経営理念が曖昧なまま事業承継を進めると、後継者は経営の軸を見失い、社員は方向性を見失い、結果として築き上げてきた企業価値を損なうことになりかねません。

この記事では、事業承継を単なる経営権の移行ではなく、経営理念と企業文化を次世代に繋ぎ、さらなる発展を遂げるための機会と捉え、その具体的な方法を深く掘り下げていきます。工務店で実践できる、組織の「核(コア)」を強く意識した事業承継の進め方、後継者や社員への理念の浸透策、そして承継後に理念を活かして企業を成長させていくためのステップを、具体的なアクションプランとしてご紹介します。読み終える頃には、あなたの工務店が理念を軸に、より強く、より永続的な企業へと進化するための明確な道筋が見えているはずです。

経営理念と企業文化、なぜ工務店の事業承継で最重要なのか

多くの工務店は、創業者の強いリーダーシップと哲学によって発展してきました。その哲学こそが暗黙のうちに経営理念となり、日々の業務や社員の行動規範を形作る企業文化の源泉となっています。しかし、創業者が第一線から退く際、この「暗黙知」を形式知として、あるいは体感知として、いかに後継者や社員に伝えていくかが事業承継の成否を握ります。

では、なぜ経営理念と企業文化の承継が、単なる資産承継や株式承継以上に重要なのでしょうか。それは、工務店のビジネスが「信頼」と「人間力」に大きく依存しているからです。お客様は、単に家という「モノ」を買うだけでなく、家づくりというプロセス、そしてその工務店で働く「人」に価値を見出し、共感して契約に至ります。この「人」の価値観や行動を規定しているのが、他ならぬ経営理念と企業文化なのです。

1-1. 経営理念が曖昧な工務店が直面する事業承継リスク

明確な経営理念がない、あるいはあっても社内に浸透していない工務店が事業承継を行う場合、以下のようなリスクが高まります。

  • 後継者の軸足が定まらない: 経営の判断基準となる哲学がないため、時代の変化に流されたり、場当たり的な意思決定を繰り返したりする可能性があります。何のために会社があるのか、どこを目指すのかが不明確になり、「儲かれば何をしてもいい」といった誤った方向に進むリスクも生まれます。
  • 社員のモチベーション低下と離職: 会社が進むべき方向や大切にしている価値観が分からないと、社員は「何のために働いているのか」を見失いがちです。特に、「家づくりを通して社会に貢献したい」「お客様をとことん大切にしたい」といった、やりがいや使命感を重視する職人や社員にとって、理念の欠如は大きな失望に繋がり、離職の原因となります。
  • 顧客からの信頼失墜: 理念や文化が揺らぐと、サービスの質や職人の仕事に対する姿勢にばらつきが生じ、これまでの顧客からの信頼を失う可能性があります。特に地域密着型の工務店にとって、評判は生命線です。
  • 同業他社との差別化困難: 表面的なサービスや価格競争に陥りやすくなります。その工務店ならではの強みや「魂」が失われることで、他社との違いをアピールできなくなり、経営は苦しくなります。

このようなリスクを回避し、むしろ 事業承継 を新たな成長の機会とするためには、引き継ぐべき経営理念と企業文化を明確にし、後継者だけでなく、全社員で共有し、血肉化していくプロセスが不可欠なのです。

1-2. 企業文化は「空気」ではない:意図的に創り、引き継ぐもの

企業文化とは、「組織のメンバーが共有する価値観、行動様式、雰囲気」のことです。「ウチの会社はこんな感じ」「昔からこうだから」といった、言語化されていない、目に見えないものとして捉えられがちです。しかし、優れた企業文化は決して自然発生的に生まれるものではなく、経営理念に基づき、経営者の強い意識と継続的な働きかけによって創り上げられるものです。

例えば、「お客様のために一切妥協しない」という経営理念を持つ工務店であれば、それが企業文化として根付いている場合、社員はお客様の隠れたニーズを察知し、期待を超える提案や対応を自然と行い、職人は見えない部分にも手を抜かず、常に最高の品質を目指すようになります。これは、単にマニュアルがあるから行うのではなく、それが「当たり前」という文化が醸成されているからです。

事業承継 において企業文化を引き継ぐとは、単に現在の慣習を続けることではありません。経営理念を土台とし、後継者自身のリーダーシップと掛け合わせることで、工務店の強みをさらに伸ばし、時代の変化にも対応できる、より強固で魅力的な文化へと発展させていくプロセスです。そのためには、現在の企業文化を客観的に見つめ直し、望ましい姿を描き、その実現に向けて具体的な行動を促す必要があります。

事業承継を見据えた経営理念の再定義と浸透戦略:具体的なステップ

それでは、具体的にどのように経営理念を再定義し、 事業承継 プロセスの中で後継者や社員に浸透させていけば良いのでしょうか。ここでは、工務店で実践可能な具体的な7つのステップをご紹介します。

ステップ1:現在の経営理念・企業文化を「見える化」する

まずは、現在あなたの工務店に根付いている「暗黙の理念」や「当たり前の文化」を言語化し、見える化することから始めます。

具体的なアクション:

  1. 経営者自身の棚卸し: あなたが創業以来、あるいは経営者になって以来、仕事をする上で最も大切にしてきたことは何ですか? どのような価値観で意思決定を行い、社員や顧客と接してきましたか? 創業当時の想いや、困難を乗り越えた時の経験を振り返り、ノートに書き出してみましょう。
  2. キーパーソンへのヒアリング: 長年会社を支えてきたベテラン社員や、後継者、信頼できる外部のパートナー(税理士、金融機関、取引先など)に、「この会社の良いところは?」「何が他の会社と違う?」「あなたが働く上で大切にしていることは?」といった質問を投げかけ、生の声を集めます。
  3. 社員向けアンケート/ワークショップ: 全社員を対象に、会社の強み、誇りに思うこと、改善したいこと、仕事をする上で大切にしていることなどを聞くアンケートを実施したり、少人数のグループで話し合うワークショップを行ったりするのも有効です。

これらの情報から、あなたの工務店の核となっている価値観や、無意識のうちに行われている良い習慣(企業文化)を浮き彫りにします。「なぜこの工務店は長年存続できているのか?」「お客様から評価されている点は何か?」といった問いを通じて、自社の強みやアイデンティティを再確認することができます。

ステップ2:後継者と共に「未来の理念」を語り合う

現在の理念や文化が見えてきたら、次に重要なのは後継者との対話です。ここは、親子の関係ではなく、「現経営者」と「次期経営者」として真剣に向き合う必要があります。

具体的なアクション:

  1. 棚卸し結果の共有: ステップ1で見える化された現在の理念・文化について、後継者と率直に共有します。「これが父さん(母さん)が大切にしてきたことだ」と伝え、後継者がそれについてどう思うか、共感できる点は何か、異論・疑問点はあるかなどを聞きます。
  2. 後継者の考えの引き出し: 後継者が「これからどんな工務店にしたいか?」「どんな価値を提供したいか?」「どんな社員と一緒に働きたいか?」といった、自身の経営に対する想いやビジョンを語ってもらいます。現経営者は、後継者の考えを頭ごなしに否定せず、まずは傾聴する姿勢が大切です。
  3. 共通点・相違点の確認とすり合わせ: 現経営者の大切にしてきた価値観と、後継者の目指す方向性の共通点を見つけ、それを核とします。相違点については、なぜそう考えるのか、互いの背景を理解する努力をし、十分な時間をかけて話し合い、より良い「未来の工務店の理念」の姿を共に探求します。ここで一方的な押し付けがあると、後継者は腹落ちせず、形式的な 事業承継 に終わってしまいます。

この対話を通じて、現経営者は後継者の強みや新しい視点を理解し、後継者は創業の精神や現在の強みの源泉を深く理解することができます。この共同作業こそが、理念承継の第一歩です。

ステップ3:明文化とシンボル化で理念を「形」にする

対話を経て将来の工務店が大切にすべき理念の方向性が見えてきたら、それを誰もが理解できる明確な言葉に落とし込みます。そして、それを視覚的に表現することも有効です。

具体的なアクション:

  1. 理念の言語化: ステップ2の話し合いで合意した内容を基に、「経営理念」「ビジョン(目指す姿)」「経営指針(具体的な行動規範)」といった形で明文化します。簡潔で分かりやすく、覚えやすい言葉を選ぶのがポイントです。例:「顧客の期待を超える感動を提供する家づくり」「地域で最も信頼され、選ばれる工務店になる」「私たちはプロとして常に学び、誠実に行動します」など。
  2. 理念のシンボル化: 理念を象徴するようなロゴマークやスローガンを作成したり、理念を表現する写真やデザインを取り入れたりします。オフィス内に掲示したり、名刺やホームページなどのツールに活用したりすることで、視覚的に理念を意識する機会を増やします。
  3. 創業ストーリーやエピソードのまとめ: 理念が形作られた背景にある創業者の想いや、特に大切にしてきたこと、理念を体現するような具体的なエピソードなどをまとめます。これは、理念に魂を吹き込み、後継者や社員が共感しやすくなるための重要なストーリーとなります。

理念を「形」にすることで、抽象的な概念だったものが具体的な目標や行動の羅針盤となります。これは 事業承継 後も組織全体で理念を共有し続けるための基盤となります。

ステップ4:全社員を巻き込む理念共有会・浸透研修

理念を明文化したら、それを後継者だけでなく、全社員に共有し、理解を深めてもらう必要があります。

具体的なアクション:

  1. 理念発表会の開催: 現経営者と後継者が揃って、全社員に対し新しい(あるいは再確認した)経営理念を発表する場を設けます。なぜこの理念に至ったのか、未来の工務店をどのように創っていくのかを、情熱をもって語りかけます。社員からの質問を受け付け、丁寧に答える質疑応答の時間も設けます。
  2. 理念浸透ワークショップ: 一方的な説明だけでなく、社員一人ひとりが理念について考え、自分自身の仕事との関連性を理解するためのワークショップを行います。「この理念を実現するために、自分たちの部署でできることは何か?」「日々の業務で理念を実践するにはどうすれば良いか?」などを話し合い、具体的な行動計画に落とし込みます。
  3. 理念ブックやツールの作成: 明文化した理念、ビジョン、行動指針、創業ストーリーなどをまとめた小冊子(理念ブック)を作成し、全社員に配布します。また、朝礼での理念唱和や、理念に基づいたGood & Newの共有など、日常的に理念に触れる仕組みを導入します。

理念は、経営者だけのものではなく、全社員で共有し、共感し、実践していくことで初めて生きたものになります。全社員が理念に「自分ごと」として関われるような仕掛けが重要です。

ステップ5:日々の業務への落とし込みと評価制度への反映

理念を絵に描いた餅にしないためには、それが日々の仕事にどう繋がるかを明確にし、評価の基準に組み込むことが効果的です。

具体的なアクション:

  1. 行動指針と業務の連携: 明文化した行動指針が、各部署や個人の具体的な業務において、どのような行動や判断に繋がるかを具体的に示します。例えば、「顧客感動」という理念があれば、「お客様からの問い合わせには24時間以内に返信する」「工事進捗を週に一度報告する」「引き渡し後3ヶ月、1年後に訪問・点検を行う」といった具体的な行動ルールを策定します。
  2. 理念に基づいた目標設定: 年に一度の個人目標設定において、業績目標だけでなく、理念や行動指針に基づいた行動目標を設定します。「積極的に新しい工法について学ぶ」「チームメンバーと連携して業務効率を改善する」「お客様とのコミュニケーション機会を増やす」など、理念実践に繋がる目標を盛り込みます。
  3. 評価制度への反映: 評価項目に、業績だけでなく「理念に基づいた行動が取れているか」という視点を加えます。単に売上だけでなく、チームへの貢献度、顧客対応の姿勢、品質へのこだわり、新しい知識の習得意欲など、理念が求める行動を評価の対象とすることで、社員は理念の実践が自分自身の成長や評価に繋がることを意識するようになります。

日々の仕事の中で理念を意識し実践できるよう、具体的な行動レベルにまで落とし込むことが、理念浸透の鍵となります。 事業承継 後も、この仕組みは継続的に運用される必要があります。

ステップ6:理念を体現するリーダーシップとコミュニケーション

言うまでもなく、経営者自身が最も強く理念を体現するロールモデルでなければなりません。そして、後継者もまた、理念に基づいた言動を意識する必要があります。

具体的なアクション:

  1. 経営者自身の理念実践: 経営者は、どのような時も理念や行動指針に沿った意思決定や行動をとります。困難な状況や重要な局面でこそ、理念を判断基準の中心に置くことで、社員からの信頼が高まります。
  2. 理念に関する継続的な発信: 社内会議や社内報、朝礼など、様々な機会を通じて継続的に理念の重要性を語り、理念実践のエピソードを紹介します。成功事例だけでなく、理念から外れてしまった場合の失敗からも学び、正直に共有する姿勢も大切です。
  3. 理念に関する個別フィードバック: 上司は部下に対し、理念に基づいた行動が取れているか、褒めるべき点、改善すべき点などを具体的にフィードバックします。目標設定面談だけでなく、日常的な声かけの中で行うことが重要です。

リーダーの言動は、組織文化を形成する上で最も大きな影響力を持ちます。 事業承継 後も、新しい経営者である後継者が、自身の言葉と行動で理念を語り続けることが、組織の求心力を高める上で不可欠です。

ステップ7:企業文化を強化する社内イベント・仕組み作り

理念や文化は、形式的な会議だけでなく、もっとカジュアルな場や、仕組みそのもの মাধ্যমে浸透していきます。

具体的なアクション:

  1. 理念表彰制度: 理念や行動指針を特に体現した社員やチームを表彰する制度を設けます。どのような行動が理念に基づいているのかを全社員に共有し、理念実践のモチベーションを高めます。
  2. 社内コミュニケーション活性化: 社員同士が理念について語り合ったり、互いの理念実践を認め合ったりする機会を作ります。例えば、ランチミーティングや社内報の特別コラム、年に一度の社員旅行や懇親会で、理念をテーマにしたアクティビティを取り入れるなどです。
  3. 理念に基づくCSR活動: 経営理念に「地域貢献」や「環境配慮」などが含まれる場合、それに基づいた地域清掃活動、植樹活動、地元の祭りへの参加などを行います。これらの活動を通じて、社員は社会との繋がりを感じ、自分たちの仕事が理念を通じて社会に貢献していることを実感できます。

楽しい企画や、社会との繋がりを感じられる活動を通じて理念に触れることで、理念はよりポジティブで、社員にとって身近なものとなっていきます。 事業承継 は、こうした新しい企業文化を創り上げていく絶好の機会でもあります。

【工務店経営者のよくある疑問】

Q: 理念なんて小難しいことを考えなくても、売上さえ上がれば社員はついてくるのでは?
A: 短期的にはそうかもしれませんが、中長期的に見れば、売上だけを追い求める企業は、社員の疲弊、不正リスク、顧客離れといった問題に直面しやすくなります。理念は、厳しい時でも社員が踏ん張れる精神的な柱となり、目先の利益にとらわれない本質的な価値創造を促します。特に、工務店は品質や信頼が命であり、それは理念に裏打ちされた社員の姿勢から生まれるものです。

Q: 我が社には立派な社是があるが、誰も意識していない。どうすればいいか?
A: それはまさに理念が形骸化している状態です。まずはステップ1で、その社是が現在の会社の状況や大切にしている価値観とズレていないかを確認しましょう。もしズレていれば、後継者と共に再定義が必要です。ズレていなくても、ステップ4以降で紹介した社員への浸透策(ワークショップ、日常への落とし込み、評価連携、リーダーの率先垂範など)が決定的に不足しています。理念は「掲げるもの」ではなく「生かすもの」です。具体的な行動に紐づけ、粘り強く伝え続ける努力が必要です。

Q: 後継者が私の理念に全く共感してくれない場合は?
A: ステップ2の対話が不十分な可能性があります。なぜ共感できないのか、後継者の背景や想いを深く聞き出すことから始めましょう。無理に押し付けるのではなく、後継者が自身の言葉で語る「次の時代の工務店」の姿の中に、現在の理念との共通点や、新しい時代に必要なエッセンスを見出す努力が必要です。理念は不変のものではなく、時代と共に進化させても良いものです。ただし、創業者が大切にしてきた「核」となる価値観(例:誠実さ、品質、地域への貢献など)は、形を変えても引き継がれるべきでしょう。最悪の場合、理念の不一致が致命的であれば、別の承継方法(親族外承継など)を検討する必要が出てくる可能性もありますが、まずは対話と相互理解を徹底することが優先です。

後継者と共に創る未来:承継後の理念実践と継続的発展

事業承継が無事完了した後も、理念の承継は終わりではありません。むしろ、新しい経営体制の下で、いかにその理念を実践し、時代に合わせて発展させていくかが、工務店の永続的な成長を左右します。

引き継がれた理念は、単なるスローガンではなく、日々の経営判断や、困難な状況における意思決定の拠り所となります。後継者は、理念を羅針盤として、新しい技術の導入、事業領域の拡大、人材育成など、様々な経営課題に取り組んでいくことになります。

3-1. 承継後も理念を「生かす」ためのアクション

事業承継 後、理念を継続的に組織に根付かせ、経営に活かしていくためには、以下のようなアクションが有効です。

具体的なアクション:

  1. 定期的な理念の振り返り会: 半年に一度など、定期的に役員や部門長が集まり、理念がどの程度実践できているか、課題は何かを話し合う機会を設けます。成功事例、失敗事例を共有し、改善策を検討します。
  2. 理念に基づいたストーリーテリング: 新しい経営者(後継者)が、自身の経験や仕事を通じて理念を体現したエピソードを積極的に社員に語り聞かせます。また、社員からも理念実践のエピソードを募り、社内報や会議で共有することで、理念を身近なものにします。
  3. 新入社員・中途社員への理念教育: 新しく入社した社員に対して、工務店の経営理念、ビジョン、文化を丁寧に伝える研修を行います。会社の核となる考え方を早期に理解してもらうことで、組織へのスムーズな適応と一体感を促進します。
  4. 理念と経営戦略の連携強化: 新しい中期経営計画を策定する際など、必ず経営理念に立ち返り、その実現のためにどのような戦略が必要かを議論します。理念を実現するための具体的な戦略・戦術として落とし込むことで、理念と経営が一体となります。
  5. 顧客や地域への理念発信: 工務店のホームページ、SNS、イベント、広報誌などを通じて、経営理念や大切にしている価値観を積極的に顧客や地域社会に発信します。これにより、理念に共感する顧客との繋がりを強化し、工務店のブランドイメージを高めることができます。

理念は「策定したら終わり」ではなく、「生かし続けること」が最も重要です。 事業承継 後も、意識的に理念に触れる機会を作り続ける必要があります。

3-2. 変化に対応する理念の「進化」

市場環境、技術、法規制、そして働く人々の価値観は常に変化します。 事業承継 を経て新しいリーダーシップの下、工務店もまた変化に対応していく必要があります。その際、経営理念は不変のものであるべきか、それとも進化させるべきでしょうか?

核となる価値観(例:お客様への誠実さ、品質へのこだわりなど)は大切に引き継ぎつつも、時代の変化に合わせて表現を見直したり、ビジョン(目指す姿)をアップデートしたりすることは、理念を常に「生きているもの」として機能させるために必要なことです。

例えば、「昔ながらの職人技を守る」という理念を大切にしてきた工務店が、若い世代の育成や新しい技術導入にも力を入れるようになった場合、「大切に受け継がれた技術と、革新的な取り組みで、未来の家づくりをリードする」といった形で理念やビジョンを再表現することが考えられます。これは、単に理念を変えるのではなく、核となる価値観を維持しつつ、それを現代社会にどのように実装していくかという、理念の「進化」です。

変化の兆候をいち早く察知し、理念に照らして自社の進むべき方向性を議論する機会を定期的に設けることが、 事業承継 後の持続的成長には不可欠です。

3-3. 円滑な事業承継のための「次の一手」と継続支援

理念と文化の承継は、 事業承継 プロセス全体の一部であり、また非常に重要な土台となる要素です。円滑な 事業承継 には、これ以外にも財務、法務、税務、組織、後継者育成など、多岐にわたる準備が必要です。

具体的なアクション(次の一手):

  1. 事業承継 計画の策定と見直し: 理念承継のプロセスと並行して、いつ、誰に、何を、どのように引き継ぐのかという全体像を明確にした 事業承継 計画を策定します。一度作ったら終わりではなく、会社の状況や外部環境の変化に合わせて定期的に見直します。
  2. 専門家チームの活用: 税理士、弁護士、金融機関、 事業承継 ・M&Aの専門家など、信頼できる外部の専門家チームと連携します。理念承継の専門家はいなくとも、理念の重要性を理解し、経営者の想いを形にするのをサポートしてくれる専門家を選びましょう。
  3. 後継者育成プランの実行: 後継者に必要な経営知識、技術、リーダーシップを習得させるための育成プランを実行します。社内での OJTだけでなく、外部の研修や異業種交流なども含め、多角的な学びの機会を提供します。理念を体得させるためには、現経営者との仕事への同行や、現場での実践経験が非常に重要です。
  4. 社員との継続的な対話: 事業承継 は社員にとっても大きな変化です。不安や疑問が生じないよう、進捗状況や、新しい体制への移行について、オープンで誠実なコミュニケーションを継続します。理念に基づいた会社の方向性を繰り返し伝えることで、安心感と一体感を醸成します。
  5. 承継完了後の現経営者の関わり方: 事業承継 後も、現経営者がどのような立場で、どの程度会社に関わるかを事前に明確に定義しておきます。後継者の自主性を重んじつつも、必要なアドバイスや精神的なサポートを行う、絶妙な距離感を保つことが重要です。社内外への理念の伝道師としての役割を担うことも考えられます。

事業承継 は一朝一夕に完了するものではありません。数年、場合によっては10年以上の timescale で計画的に、そして根気強く取り組む必要があります。その根底に常に経営理念を据えることで、目指すべき方向性を見失わずに、最も大切なものを次世代に引き継ぐことができるのです。

まとめ

工務店経営者にとって、事業承継はこれまで築き上げてきた全てを次世代に託す重大な局面です。この重要なプロセスにおいて、単に財産や権利を引き継ぐだけでなく、創業以来大切にしてきた経営理念と、それが醸成してきた企業文化をいかに後継者や社員に引き継ぐかが、企業の永続的な発展の鍵を握ります。

曖昧な理念や文化は、 後継者が経営の軸を見失い、社員の士気を低下させ、結果として築き上げた信頼とブランドを損なうリスクを生じさせます。この記事でご紹介した「現在の理念・文化の見える化」「後継者との未来理念の対話」「理念の明文化と共有」「日々の業務への落とし込み」「リーダーシップ」「仕組み作り」といった具体的なステップは、 事業承継 という大きな変革期において、御社の「魂」を失うことなく、むしろ強化し、次世代に力強く繋いでいくための実践的なアプローチです。

理念の承継は、必ずしも容易な道のりではありません。しかし、これまでの歴史を尊重し、後継者の新しい視点を取り入れながら、全社員と共に、対話を重ね、行動を改善していくことで、必ず実現できます。 事業承継 は、過去から未来へ、単に「受け継ぐ」だけでなく、理念を軸に「共に創り上げていく」プロセスなのです。

さあ、今こそ、あなたの工務店の経営理念と真正面から向き合う時です。この記事で提示した具体的なアクションプランを参考に、一歩ずつ着実に実行に移してください。理念が明確になり、全社員で共有され、日々の仕事に息づくことで、 事業承継 は成功し、あなたの工務店は地域のお客様からますます信頼され、社員が誇りを持って働ける、そしてこれから何十年と続く、強く魅力的な企業へと進化していくでしょう。あなたの勇気ある一歩を、心から応援しています。

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この記事を書いた人

浄法寺 亘

工務店の社会貢献やSDGs、国産材利活用を応援する「コミュニティビルダー協会」代表理事。
今動いているプロジェクトは「木ッズ絵画コンクール」
※8月実施予定。
住宅サイトの運営もしています。

福島県 喜多方市出身
県立会津高校卒
市立高崎経済大学卒

著書:
頼みたくなる住宅営業になれる本
https://x.gd/oatiM
SDGsに取り組もう 建築業界編
https://x.gd/MXYJr
とっておきの見込み客発掘法
https://x.gd/001or

主な講演:
鹿児島県庁主催「かごしま緑の工務店研修会」
リードジャパン主催「工務店支援エキスポ」(東京ビックサイト)
育英西中学校
その他住宅FCなど

活動実績
2019~ 千葉県にて里山竹林整備ボランティア
2020~ 木ッズ絵画コンクール

工務店の集客・営業ならジーレックスジャパン →ホームページはこちら

商品の差別化へ!制振装置はこちらから →耐震・制振装置

友達申請お待ちしてます! →代表浄法寺のfacebook

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