事業承継後の成長を見据える!新しい事業計画の作り方
工務店の経営者の皆様、事業承継を迎えるにあたり、将来への不安や期待が入り混じっていることと存じます。これまで築き上げてきた大切な事業を次の世代に引き継ぐことは、経営者人生における最大のミッションの一つと言えるでしょう。しかし、単にバトンを渡すだけでなく、承継後の工務店が持続的に成長していくためには、戦略的な準備が不可欠です。その鍵となるのが、新しい「事業計画」の策定です。
「事業計画なんて、大企業が作るもので自分には関係ない」「経験と勘でやってきたから必要ない」そう思っていませんか? しかし、激変する市場環境や競争の中で、感覚だけに頼る経営では、せっかくて後継者が引き継いでもその後の成長が難しくなる時代です。特に事業承継は、後継者にとって新しいスタートライン。明確な羅針盤となる事業計画がなければ、どこへ向かえば良いのか分からず、やがて立ち止まってしまうリスクもあります。
本記事では、工務店が事業承継を機に新しい事業計画をどのように作成し、それを成長のエンジンとして活用していくかについて、具体的なステップとともに詳しく解説します。後継者と共にどのように計画を立て、実行に移し、そして未来を切り拓いていくのか。この記事を読めば、漠然とした不安が具体的な行動プランへと変わり、事業承継後の工務店が、より強く、より繁栄するための道筋が見えてくるはずです。ぜひ最後までお読みいただき、貴社の輝く未来を後継者と共に描くための一助としてください。
なぜ今、工務店に「新しい事業計画」が必要なのか?
長年にわたり地域に根差した事業を展開されてきた工務店の経営者の皆様は、豊富な経験と強固な顧客基盤をお持ちのことでしょう。しかし、技術の進化、顧客ニーズの変化、労働力不足、ウッドショックに代表される資材価格の高騰など、工務店を取り巻く環境はかつてないスピードで変化しています。このような状況下で事業承継を成功させ、さらに次の時代で成長を続けるためには、これまでのやり方だけでは限界があります。
事業承継は、単に代表者を交代するだけでなく、経営戦略、組織文化、ビジネスモデルなど、工務店のあらゆる側面を見直す絶好の機会です。そして、この見直しを体系的に行い、後継者を中心とした新しい船出の羅針盤となるのが、新しい事業計画なのです。
事業承継期に事業計画を策定する「5つ」のメリット
事業承継と同時に新しい事業計画を策定することには、多くのメリットがあります。
- 1. 工務店の現状と課題の明確化: これまでの事業を定量的・定性的に分析することで、強みや弱み、市場機会、潜在的なリスクなどを客観的に把握できます。これは、後継者にとって現状を理解し、今後の方向性を定める上で不可欠です。
- 2. 後継者と現経営者間の意識合わせ: 新しい事業計画は、後継者がどのような工務店を目指し、どのような戦略で成長させていきたいのかを具体的に示す場となります。現経営者との間でビジョンや戦略について深く議論することで、認識のずれを解消し、円滑な事業承継へとつながります。
- 3. 従業員の安心と一体感の醸成: 承継後の工務店がどこに向かうのか、従業員は少なからず不安を感じています。新しい事業計画を共有することで、彼らに安心感を与え、新たな目標に向けて一丸となって取り組む基盤を作ることができます。
- 4. 金融機関や取引先からの信頼向上: 明確な事業計画は、金融機関からの融資や、取引先との関係構築において非常に有利に働きます。特に事業承継に伴う資金調達が必要な場合、説得力のある事業計画は不可欠です。
- 5. 計画倒れを防ぎ、具体的な行動を促進: 「こうなったらいいな」という理想論ではなく、具体的な目標設定、戦略、行動計画、数値目標を含む事業計画は、日々の業務に落とし込みやすく、着実な実行を後押しします。
経験豊富な現経営者の方々の中には、「計画は柔軟であるべきだ」という考えから、厳密な計画策定に抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、計画は常に変化に対応できる柔軟性が必要ですが、それは計画がないこととは違います。計画があるからこそ、変化点を見つけ、柔軟に対応するための基準ができるのです。特に事業承継という大きな節目においては、言語化され、共有された計画が、後継者の大きな力となります。
既存の事業計画との違いと事業承継の視点
もし既に事業計画をお持ちの場合でも、事業承継を機に見直し、場合によってはゼロベースで新しい計画を策定することが重要です。
- **現経営者の視点 vs 後継者の視点:** これまでの事業計画は、現経営者の経験や価値観に基づいて作られているはずです。しかし、後継者には後継者の強みや考え方、そして彼らが活躍するであろう未来の市場環境があります。新しい事業計画は、後継者のビジョンを中心に再構築されるべきです。
- **過去の延長 vs 未来への飛躍:** 従来の計画が過去の実績を基にした延長線上にあることが多いのに対し、事業承継後の新しい事業計画は、未来の成長戦略、新たな技術導入、サービス展開、市場開拓など、未来への飛躍を大胆に描く視点が必要です。
- **保守的 vs 積極的:** 承継前の経営はリスクを抑える傾向があるかもしれませんが、承継後の若い力には、積極的に新しい挑戦をしていく姿勢が求められる場合があります。事業計画も、リスク管理をしつつ、成長機会を積極的に捉える戦略を盛り込むべきです。
つま先立ちで過去を見ているのではなく、未来にしっかりと踏み出し、後継者が力強く歩みを進めるための土台として、新しい事業計画を位置づけることが、事業承継を成功させる上で極めて重要です。
後継者と共に描く!新しい事業計画「実践」策定ステップ
ここからは、実際に新しい事業計画をどのように作成していくのか、具体的なステップに沿って解説します。重要なのは、このプロセスを後継者と共に経験すること、そして、現経営者は後継者の成長を後押しするサポーターに徹することです。新しい事業計画作りは、それ自体が後継者の経営者としての訓練の場となるからです。
ステップ1:なぜやるのか? 事業承継後のビジョンとミッションを明確にする
事業計画の最も重要な出発点は、「なぜ私たちは存在するのか?」「今後、どのような工務店になりたいのか?」という問いに対する答えです。これを明確にすることが、ブレない経営の軸となります。
- **後継者との対話:** 後継者がどのような工務店経営を目指したいのか、どのような価値を地域に提供したいのか、じっくりと話し合います。現経営者のこれまでの思いも伝えつつ、未来の方向性を後継者主導で決めます。
- **ビジョン設定:** 5年後、10年後といった将来、どのような工務店になっているかの「ありたい姿」を具体的に言語化します。「地域で一番信頼される工務店」「デザイン性の高い住宅で知られる工務店」「省エネ・エコ住宅の先進工務店」など、具体的なイメージを持つことが重要です。
- **ミッション設定:** なぜそのビジョンを目指すのか、社会や地域に対してどのような貢献をするのか、私たちの存在意義は何なのかを明確にします。「質の高い住まいを提供し、地域の人々の豊かな暮らしに貢献する」「若い世代に技術を継承し、伝統と革新を融合させる」など。
- **共有と浸透:** 定めたビジョンとミッションは、後継者、従業員、そして現経営者間で共有し、全員が同じ方向を向いて進めるように努めます。
このビジョンとミッションは、新しい事業計画全体の根っこになります。時間をかけて、後継者と共に心から納得できるものを作り上げましょう。
ステップ2:現状を「数字」と「事実」で徹底分析する
理想の姿を描くだけでなく、現在の工務店の立ち位置を正確に理解することが必要です。感情論や主観ではなく、できる限り客観的なデータに基づいて分析します。
- **財務分析:** 過去数年間の売上、粗利率、経費、利益、借入状況、キャッシュフローなどを分析します。どの事業や工事が利益を生み出しているか、コスト構造はどうなっているかなどを把握します。
- **営業分析:** 顧客獲得経路(紹介、Web、広告など)、受注単価、受注件数、契約率、成約までの期間などを分析します。どのような顧客層が多いか、効果的な集客方法は何かを探ります。
- **生産分析:** 工事期間、遅延発生率、手直し率、職人一人当たりの生産性などを分析します。ボトルネックとなっている工程や、改善すべき点を特定します。
- **組織・人材分析:** 従業員の年齢構成、スキル、経験、資格、定着率、採用状況などを分析します。後継者育成の状況や、将来必要となる人材像を考えます。
- **市場・競合分析 (SWOT/クロスSWOT分析):** 地域市場の動向(人口、世帯構成、住宅需要)、競合工務店の強み・弱み、新たな参入者、使用する資材動向、技術トレンドなどを調査します。自社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を洗い出し、それらを組み合わせて戦略の方向性を探ります。後継者が自らの目で市場を観察し、分析するプロセスが重要です。
この分析は、とかく経験に頼りがちな工務店経営において、データに基づいた意思決定を行う習慣をつける第一歩となります。後継者にとって、工務店経営の「数字」を理解する上で非常に貴重な経験となります。
ステップ3:具体的な「目標」を設定する
ビジョンに向かうための具体的な通過点を設定します。SMARTの原則(Specific: 具体的に、Measurable: 測定可能に、Achievable: 達成可能に、Relevant: 関連性のある、Time-bound: 期限を設ける)を意識して目標を設定します。
- **長期目標:** ビジョン達成に向けた5年後、10年後の目標(例: 売上高〇億円、年間受注棟数〇棟、特定の技術資格取得率〇%、地域シェア〇%など)。
- **中期目標:** 長期目標達成に向けた3年後の目標。新しい事業への参入、特定商品の開発、組織改編など、比較的規模の大きな取り組みを含める。
- **短期目標:** 中期目標達成に向けた1年間の目標。日々の業務に直結する、より具体的な目標を設定します(例: 新規顧客獲得数〇件、Webサイトからの問い合わせ率〇%改善、〇〇研修受講完了など)。
これらの目標は、後継者と現経営者、可能であれば幹部社員も交えて議論し、全員が納得できるレベルで設定します。高すぎても諦めにつながり、低すぎても成長の機会を逃します。現状分析に基づいた realistic かつ slightly challenging な目標設定が理想です。
ステップ4:目標達成のための「戦略」と「行動計画」を練る
設定した目標をどのように達成するか、具体的な道筋を描きます。これが新しい事業計画の中核となります。
- **基本戦略の決定:** 競合に対してどのような差別化を図るのか、どのような顧客層にアプローチするのか、強みをどう活かすのかといった、大局的な戦略を決めます。「高付加価値住宅に特化する」「リフォーム事業を強化する」「省エネ技術で差別化する」などです。
- **個別戦略の策定:** 基本戦略に基づき、営業戦略、商品・サービス戦略、技術戦略、組織戦略、財務戦略などを具体的に練ります。
- **営業・マーケティング戦略:** ターゲット顧客へのアプローチ方法、Webサイト活用、SNS運用、地域イベント参加、既存顧客との関係維持など。
- **商品・サービス戦略:** どのような住宅やリフォームを提供するか、デザイン、性能、価格帯、アフターサービスなど。新しい技術や工法も検討。
- **技術・生産戦略:** 職人育成、技術伝承、新しい技術・設備の導入、品質管理、工期管理の方法など。
- **組織・人材戦略:** 採用計画、教育・研修計画、評価制度、後継者への権限移譲計画など。
- **財務戦略:** 資金調達(金融機関、補助金)、運転資金管理、投資計画、利益配分など。
- **行動計画への落とし込み (誰が何をいつまでにどうやるか):** 各戦略を実行するための具体的なタスク、担当者、期限、必要なリソース(予算、人員、設備)を明確にします。週単位、月単位で管理できるレベルまで細分化すると、実行しやすくなります。後継者が主導し、従業員にも役割を与えることで、計画を実行する「自分ごと」として捉えてもらいます。
このステップで、事業承継後の新しい工務店の具体的な姿がより明確になります。後継者のアイデアや挑戦したいことを積極的に取り入れ、それを具体的な行動に落とし込むプロセスをサポートすることが重要です。
ステップ5:「資金計画」と「収支計画」を策定する
策定した戦略と行動計画を実行するために、どれくらいの資金が必要で、どれくらいの売上が立ち、どれくらいの利益が見込めるのかを数値で算出します。これは事業計画の信頼性を高める上で非常に重要です。
- **必要資金の算出:** 新規事業への投資、設備投資、運転資金増加分、販促費増額など、計画実行に必要となる追加資金をリストアップします。特に事業承継に伴う株式取得資金や税金なども含めて検討する必要があります。
- **資金調達計画:** 自己資金、借入(金融機関、政府系金融機関)、補助金・助成金活用など、どのように資金を調達するかを具体的に計画します。
- **売上計画:** ターゲット顧客層、受注単価、受注件数などに基づき、今後の売上予測を立てます。
- **原価・経費計画:** 資材費、労務費、外注費、人件費、家賃、販売促進費、交通費など、売上を上げるためにかかるコストを予測します。過去の実績に基づきつつ、新しい戦略によって変動するコストを考慮します。
- **利益計画:** 売上計画から原価・経費計画を差し引き、税引前利益、税引後利益を算出します。事業計画で設定した利益目標が達成可能な計画になっているかを確認します。
- **キャッシュフロー計画:** 資金の出入りを予測し、資金ショートしないかを確認します。特に工事の請負契約から最終入金までの期間が長い工務店では、運転資金が非常に重要になります。
この財務計画は、計画の実行可能性を検証する上で非常に重要です。顧問税理士や中小企業診断士などの専門家と連携し、現実的かつ実現可能な計画を作成しましょう。金融機関もこの計画を重視するため、丁寧な作り込みが必要です。これは、事業承継後の資金繰りを安定させるための肝となります。
ステップ6:リスク分析と対策を検討する
どんな素晴らしい事業計画にもリスクはつきものです。想定されるリスクを事前に洗い出し、対策を講じておくことで、不測の事態にも冷静に対応できます。
- **想定されるリスク:** 主要資材の高騰、職人の離職、競合の価格攻勢、自然災害、景気後退による受注減、後継者の健康問題、資金繰りの悪化など、工務店経営に影響を与える可能性のある事象をリストアップします。
- **リスクへの「対策」:** 各リスクに対して、発生を予防するための対策、発生した場合の損害を最小限に抑えるための対策を検討します。「資材価格高騰への対応策としての価格転嫁や仕入れ先の多様化」「職人離職対策としての働きがい向上や採用強化」「資金繰り悪化時のための予備資金確保や借入枠の設定」など。
- **コンティンジェンシープラン:** 万が一、計画が大きく遅れたり、予期せぬ事態が発生したりした場合に、どのように対応するかを事前に決めておきます。
リスクを直視することは辛い作業かもしれませんが、これは事業承継後の工務店を安定させるために不可欠なプロセスです。後継者と共に、起こりうる最悪のケースまで想定し、備えることで、覚悟と対応力が養われます。
【Q&A】事業計画策定でよくある疑問
事業承継を機に初めて本格的な事業計画を作成するにあたり、様々な疑問が浮かぶことでしょう。ここでは、よくある質問に簡潔にお答えします。
- **Q1:後継者が計画策定にあまり乗り気でない場合は?**
A1:まず、なぜ乗り気でないのか本音を聞くことから始めましょう。経営者としてのプレッシャーや不安、あるいは「やりたいこと」が見つかっていないのかもしれません。現経営者の経験談を共有したり、外部のセミナーや経営者仲間との交流の場に参加を促したり、後継者自身の興味関心に基づいたスモールスタートのプロジェクトを任せてみるなど、主体性を引き出す働きかけが重要です。事業計画策定のプロセス自体が、後継者の経営者としての自覚を促す訓練となります。 - **Q2:計画はどのように進捗管理すれば良い?**
A2:策定した行動計画に基づき、定期的に(毎週、毎月など)後継者、現経営者(関与する場合)、関係する従業員で進捗確認の会議を持ちましょう。計画通りに進んでいるか、遅延している場合はその原因と対策、新たな課題などを共有します。KPI(重要業績評価指標)を設定しておくと、目標達成に向けた進捗が分かりやすくなります。 - **Q3:顧問税理士にはどこまで相談すべき?**
A3:顧問税理士は、財務状況の分析や資金計画、収支計画の策定において非常に頼りになる存在です。経営状況をよく理解しているため、現状分析の段階から積極的に意見を求め、実現可能な数値計画の作成を依頼しましょう。事業承継時の税務や法務についても合わせて相談し、計画に織り込む必要があります。 - **Q4:外部の専門家(中小企業診断士など)は必要?**
A4:必ずしも必要ではありませんが、経営戦略や財務計画の策定経験が少ない場合、外部の客観的な視点や専門知識は強力な助けとなります。特に、後継者との対話の仲介者として、あるいは事業承継全体のコーディネーターとして依頼することで、プロセスがスムーズに進むことがあります。費用対効果を検討し、必要であれば活用を検討しましょう。事業承継・引継ぎ支援センターなど公的な支援機関も有効です。 - **Q5:計画は公開すべき?従業員に見せる?**
A5:事業計画の全てを完全に公開する必要はありませんが、ビジョン、ミッション、長期・短期目標、そして従業員に関わるアクション(教育計画、組織体制など)については積極的に共有すべきです。従業員が会社の未来を理解し、自分たちの役割を認識することで、主体的に業務に取り組むようになります。共有する範囲は、情報の機密性と従業員の理解度に応じて判断しましょう。
これらの疑問を一つずつ解消しながら、焦らず着実に事業計画を策定していくことが、事業承継を成功につなげる道です。
新しい事業計画を「成長」のエンジンにする方法
素晴らしい事業計画が完成しても、それだけでは工務店の成長には繋がりません。計画はあくまで目標達成のための「設計図」であり、「実行」が伴って初めて価値が生まれます。ここでは、新しい事業計画を単なる書類に終わらせず、事業承継後の工務店の持続的な成長を牽引するエンジンとするための方法をお伝えします。
計画は「生きた」ツール:実行・モニタリング・改善
事業計画は、作って終わりではなく、常に呼吸し、成長していく生きたツールとして扱うべきです。
- **定期的な進捗確認会議:** 後継者や主要メンバーで、計画に対する進捗を定期的に確認します(前述Q&A参照)。目標達成度、行動計画の実行状況、ボトルネックとなっている箇所などを共有します。
- **KPI(重要業績評価指標)の活用:** 売上〇〇円、受注棟数〇〇棟といった最終目標だけでなく、それらを達成するための先行指標(例: 問い合わせ件数、初回面談実施数、契約率、職人育成の進捗など)も設定し、日々の活動のモチベーションや方向性を示します。KPI達成状況を全員で共有し、PDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)を回します。
- **変化への対応:** 市場環境、競争状況、顧客ニーズ、資材価格などが常に変化していることを念頭に置き、計画通りに進まない場合や、予期せぬ機会や脅威が現れた場合には、柔軟に計画を見直します。計画に固執するのではなく、変化を成長の機会と捉える視点が重要です。これは、まさに後継者が経営者としての手腕を磨く場となります。
計画の実行と改善のサイクルを回すことで、事業計画は工務店の現状に合わせて最適化され、より効果的な経営ツールとなっていきます。事業承継後も、このサイクルを止めないことが成功の秘訣です。
後継者のリーダーシップと組織文化の醸成
新しい事業計画の実行は、後継者のリーダーシップが問われます。
- **計画の「自分ごと化」:** 後継者自身が事業計画の立案段階から深く関わり、自らの言葉で計画の意義やビジョンを語ることで、計画を「やらされること」ではなく「自分たちの未来」として従業員に伝えることができます。
- **従業員とのコミュニケーション:** 新しいビジョン、ミッション、目標、戦略について、定期的に従業員に説明し、彼らの意見を聞き、協力を仰ぎます。計画の共有だけでなく、なぜその計画なのか、実行することで何が変わるのかを分かりやすく伝えることが重要です。
- **新しい文化の創造:** 事業承継は、古いやり方を見直し、新しい文化を創造するチャンスでもあります。例えば、データに基づいた意思決定の習慣、新しい技術への積極的な取り組み、従業員同士のよりフラットなコミュニケーションなどを、新しい事業計画の実行を通じて根付かせることができます。
- **現経営者の役割の変化:** 現経営者は、計画の進捗を見守りつつ、後継者が困った時に適切なアドバイスをする相談役、メンターとしての役割にシフトします。口出ししすぎず、後継者の判断を尊重しつつ、必要に応じて経験に基づいたサポートを行います。
後継者がリーダーシップを発揮し、従業員が新しい事業計画を理解し、共感することで、組織全体が同じ目標に向かってドライブがかかります。事業承継後の工務店の強さは、新しい計画と、それを実行する組織の力によって決まります。
継続的な学習と外部連携
工務店経営の世界は常に進化しています。事業承継後も成長を続けるためには、継続的な学習と積極的な外部連携が不可欠です。
- **後継者自身の学習:** 経営に関する知識、業界の最新トレンド、新しい技術、マーケティング、マネジメントなど、後継者自身が積極的に学び続ける姿勢が重要です。セミナー参加、書籍購読、異業種交流などが有効です。策定した事業計画で新たな分野に挑戦するならば、その分野について集中的に学ぶ必要があります。
- **幹部・従業員の育成:** 計画実行に必要なスキルや知識を補うため、幹部や従業員に対しても計画的な研修を行います。特に技術の伝承は工務店の生命線であり、計画に位置づけて集中的に取り組む必要があります。
- **専門家との連携:** 税理士、弁護士、中小企業診断士、社会保険労務士、建築士など、必要に応じて外部の専門家に相談できる体制を維持します。特に、事業計画の見直しや、予期せぬ問題が発生した際に、彼らの専門知識は大きな助けとなります。
- **地域社会との連携強化:** 地域住民、他の工務店、関連業者、商工会議所などとの連携は、情報収集、新規顧客獲得、共同事業、雇用確保など、工務店経営の様々な面でメリットをもたらします。新しい事業計画に地域連携の要素を盛り込むことも考えられます。
新しい事業計画は、常に進化し、外部の刺激を取り入れながら、より洗練されていきます。事業承継を機に、学ぶ文化、変化を受け入れる文化を工務店に根付かせることができれば、それは何よりも強い成長エンジンとなります。事業承継は終わりではなく、新しい始まりなのです。
まとめ
工務店の事業承継は、単に経営のバトンを受け渡す手続きに留まらず、未来の成長を見据え、工務店の形を再定義する絶好の機会です。そして、この未来を描き、後継者が力強く歩みを進める上での羅針盤となるのが、新しい事業計画です。
この記事では、
・なぜ今、工務店に新しい事業計画が必要なのか
・後継者と共に歩む、具体的な事業計画策定の6つのステップ
・その計画を成長エンジンとして活用するための実行と改善の方法
について解説しました。
新しい事業計画は、後継者のビジョンを中心に据え、工務店の現状を客観的に分析し、未来の目標とその達成に向けた具体的な戦略、行動計画、資金計画を数値で示すものです。このプロセス自体が、後継者にとって経営者としての重要な訓練となり、現経営者との意識合わせ、従業員のベクトル合わせ、そして金融機関や取引先からの信頼獲得につながります。
計画策定後は、決して書類棚にしまい込まず、定期的に進捗を確認し、環境変化に応じて柔軟に見直しを行う「生きたツール」として活用してください。後継者のリーダーシップ、従業員との密なコミュニケーション、そして外部との連携を通じて、策定した計画を着実に実行することで、事業承継後の工務店は必ずや新たな成長軌道に乗ることができるでしょう。
事業承継という大きな変化を、単なる引き継ぎではなく、輝かしい未来を創造するためのスタートラインと捉え、ぜひ後継者と共に、希望に満ちた新しい事業計画を描き始めてください。その一歩一歩が、地域社会に信頼され、必要とされる、百年企業への礎となります。応援しています。
浄法寺 亘
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